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デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

二列目のハロルド・ランド

2007-10-21 07:13:27 | Weblog
 ドイツ文学者池内紀さんの著書「二列目の人生 隠れた異才たち」は、一番を選ばない生き方をした才人の半生を纏めている。美人画の世界で上村松園のライバルだった島成園、 口八丁手八丁の多才ぶりが世の人にうさんくさく思わせた尺八奏者の福田蘭童、発売禁止をものともせず「好色獨逸女」や「処女学講座」を著した秦豊吉等、歴史に埋もれた天才にスポットを当てたものだ。異才と呼ばれた人は我が道を貫くため、時流に背を向けることも厭わないようだ。

 実力は確かなのだが、過小評価され、いつも二列目にいるテナー奏者がいた。マックス・ローチ~クリフォード・ブラウンのバンドに参加したことで広く名を知られるようになり、後にレッド・ミッチェルと双頭コンボを持ち、さらにボビー・ハッチャーソンとも双頭コンボを組んでいる。一列目には唄伴でも歌手より目立ってしまうブラウニーがおり、双頭コンボで一列目に並んだものの、席が落ちつかないのだろうか解散も早い。ハロルド・ランド、その人である。

 リーダー・アルバムともなると力が入り、個性際立つものが多いが、ランドにはそんな気負いはなくいつもの自然体なのだ。一列目にいても派手に吹きまくるわけでもなく、常にマイペースを崩さない。実力の余裕とでも言うのだろうか、これが実にいい。Hi-Fi Jazz からリリースされた「The Fox」は、レーベル名の如く音質にこだわったアルバムで、ランドの深い音をより鮮明に捉えている。このレーベルは2年ほどで活動を休止したが、その後コンテンポラリーからジャケットを変更して再発されるほど内容が充実しており、幻のトランペッターと言われる Dupree Bolton の参加も貴重なものだ。ジャズ史に残る名盤ではないが、記憶に残るアルバムであろう。

 福田蘭童の長男、石橋エータローが父の言葉を回想している。曲の最後が中途半端だと言うと、「まだ何かありそうな気分にしたかった。おまえのやっているジャズとはちがうからな」と。ランドにも一列目にはないまだ何かありそうな気がした。二列目の人生も悪くない。