スパニッシュ・オデッセイ

スペイン語のトリビア
コスタリカ、メキシコ、ペルーのエピソード
パプア・ニューギニア、シンガポールのエピソード等

キリシタン用語(13) 「ルシヘル」の異名「ジュスフェル」

2017-09-20 17:07:07 | キリシタン用語

  前回、キリシタン用語「ルシヘル」について述べたが、「キリシタン用語集」には「ジュズフェル」という項目が立てられ、「リュシフェル」に対応すると説明されている。
 1939年ごろ発見され、現在、天理図書館に保存されている写本『天地始之事』には「しゆすへる」または「じゆすへる」と表記されている。
 この写本についての学術論文も発表されていて、インターネットで閲覧することもできる(天理図書館蔵「天地始之事について」)。論文の112ページに「しゆすへる」または「じゆすへる」と表記されているのがわかる。
 「ルシヘル」についての表記は何種類かあるが、それについて考察したい(詳しくはウィキペディア「ルシファー」の項参照)。
 まず、ポルトガル語 Lucifer の発音はカタカナ表記では「ルシフェル」が近い。そこからキリシタン用語「ルシヘル」となった。「リュシヘル」はフランス語読みである。
 ヨーロッパ諸言語では「ルシヘル」の語頭の音は「ル」または「リュ」である。それがどうして日本では「ジュ」になったのだろうか。
 写本『天地始之事』は長崎県の外海地方に伝わるカクレキリシタンの神話と説明されている(「天地始之事 - iyeongdeok @Wiki - アットウィキ」)。写本が発見された場所は明記されていないが、長崎県の外海地方あたりと推測される。
 「カクレキリシタン」とは1873年にキリスト教禁止令が廃止されたあと、カトリック教会に戻らず、300年近く続いた信仰様式を守り続けているキリスト教信者のことである。禁教令下でキリスト教の信仰をこっそり守ってきたのは「潜伏キリシタン」というが、「カクレキリシタン」との違いについてはウィキペディア「隠れキリシタン」をご覧いただきたい。
 というわけで、カクレキリシタンの写本ということであれば、禁教令廃止後に書かれた可能性もあるが、上記の論文には書かれた時期についての言及がないので、時期については何ともいえない。
 もし、禁教令廃止後に書かれたものとすれば、開国後に大浦天主堂にやってきたフランス人神父プティジャンの影響があったかもしれない。フランス語では「ルシヘル」は「リュシフェル」なので、それが「ルシヘル」に取って代わったかもしれない(プティジャン神父については「隠れキリシタンを発見したプティジャン神父」をご覧いただきたい)。
 さて、話は変わって、西郷従道になる。西郷隆盛の弟である。「従道」は「つぐみち」と読まれることが多いが、本当は「じゅうどう」が正しい。
 西郷家の系図を見てみると、「隆」の字が頻出している。
 
 隆盛の5代前から直前までは「隆」の字は現れていないが、これらは諱(いみな)ではなく字(あざな)、通称だろう。西郷隆盛の諱(いみな)と字についてのトリビアはウィキペディア「西郷隆盛」に譲る。
 西郷家ではだいたい「隆」の字が受け継がれてきているが、隆盛の弟の従道に受け継がれていないのは変ではなかろうか。
 実は、「従道」は「隆道」だったいう話をどこかで見聞きしたような気がする。出典が示せないので、説得力に欠けるのが残念である。
 薩摩弁では「リャ」行が「ジャ」行になるそうなので、戸籍の届けか何かで本人か代理人か知らないが、窓口で「ジュウドウ」と言ったらしい。それで窓口の係員が「従道」と書いてしまったとか。それに、諱(いみな)は通常使うものではないので、届けたほうも訂正するのが面倒だったようで、そのままにしておいたんだとか。
 で、本題に戻るが、長崎あたりも薩摩と同様の音韻変化があり、「リュ」が「ジュ」になるのだろうか。
 スペイン語に目を転じると、 ll は本来「リャ」行の子音を表す。しかし、「ヤ」行や「ジャ」行音で発音しても差し支えない。スペイン語では「リャ」行も「ヤ」行も「ジャ」行も区別をしないので、スペイン語話者にとっては、これが日本語学習上のネックになる。
 最近、日本でも知られるようになった tortilla だが、「トルティーリャ」か「トルティーヤ」か「トルティージャ」かで、悩み必要はないのである。

ポチッとクリック、お願いします。
↓↓↓
スペイン語 ブログランキングへ

スペイン語とともに考える英語のラテン語彙の世界 (開拓社言語・文化選書)
好評発売中!!こちらは、このブログとは別物です。もちろん、トリビア満載です。



 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« キリシタン用語(12) 「ルシ... | トップ | キリシタン用語(14) 「ア... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

キリシタン用語」カテゴリの最新記事