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H16年民法第1問

2004年07月20日 | ③H16年司法試験論文試験再現答案集
【問題】
 AはBとの間で,A所有の土地上に2階建住宅を新築する工事について,請負代金を2000万円とし,内金1000万円は契約締結時に,残金1000万円は建物引渡し後1か月以内に支払うとの約定で請負契約を締結した。この事案について,以下の問いに答えよ。なお,各問いは独立した問いである。
 1  Aは,Bが行ったコンクリートの基礎工事が不完全であるとして,Bに工事の追完を求めたが,Bは基礎工事に問題はないと主張してその後の工事を進めようとしている。AはBとの契約関係を終了させるためにどのような主張をすることができるか。
 2  Aは,Bに内金1000万円を支払い,Bは約定の期日までに建物を完成させてAに引き渡した。ところが,屋根の防水工事の手抜きのため,引渡し後1週間目の大雨によって建物の2階の書斎に雨漏りが生じ,書斎内のA所有のパソコン等が使い物にならなくなってしまった。雨漏りによるパソコン等の損害を50万円,屋根の補修工事に要する費用を100万円とした場合,AはBの請負残代金請求に対してどのような主張をすることができるか。

(出題趣旨)
 本問は,請負契約における債務不履行責任と瑕疵担保責任の関係を踏まえ,目的物に瑕疵がある場合等に当事者が主張すべき法的主張を事案に即して展開する能力を問うものである。小問1は,目的物完成前の債務不履行に基づく解除及び641条による解除についてその要件効果を問い,小問2は,目的物完成後の634条による瑕疵担保責任等と請負代金債務との同時履行の抗弁及び相殺の主張の可否,効果を問うものである。


【実際に私が書いた答案】(再現率80%~90%)評価A(7287人中2000番以内)

1 小問1
(1)AB間の住宅新築の請負契約は,未だ工事の途中であり,仕事が完成していないので,注文者Aは請負人Bに対して,損害を賠償していつでも契約関係を解除しうる(641条)。

(2)ア もっとも,Aが契約関係を終了させようとしているのは,コンクリートの基礎工事が不完全であるとして,Bに工事の追完を求めているのに,Bがこれを無視し,工事を進めようとしているからであり,Aが損害賠償しないと契約を解除しえないとするのは,Aに酷である。
そこで,債務不履行に基づく契約解除(541条ないし543条)できないか。

イ 請負契約は,仕事の完成を目的とするものであり(634条)仕事が完成さえすれば,工事の途中がどうであるかは問わない。
 よって,原則として,工事の途中が不完全であることは,債務不履行にならない。
 また,完成した建物に瑕疵があっても,建物の社会経済上の価値を尊重して,契約の解除を認めず(635条但書),瑕疵の修補や損害賠償で解決を図ろうとしている(634条)民法の趣旨からしても,仕事の途中に瑕疵があっても,建物工事の請負契約においては,債務不履行解除を認めるべきではないといえる。
 しかし,工事の途中に重大な瑕疵があり,そのまま建築しても,建物として社会経済上の価値を有さないことが確実な場合には,そのまま工事を継続して建物を建てることは,かえって社会経済上無駄である。
 従って,かかる場合,注文者は,請負人に対して,工事の途中でも瑕疵の修補を請求することのできる信義則上(1条2項)の権利を有すると解すべきである。
 そして,注文者のかかる修補請求を請負人が無視した場合には,注文者は541条により解除しうると解する。

ウ 本問では,コンクリートの基礎部分がAの主張のとおり不完全であるならば,本問住宅は,建築後倒壊するおそれを有し,社会経済上の価値を有しないものになることは確実であり,AはBに信義則上の修補請求権を有することになる。そして,AはBに対して,工事の追完を求めているのに,Bはこれを無視し,工事を続けようとしているのであるから,Aは541条に基づき,AB間の契約関係を解除しうる。

2 小問2
(1)Bは,住宅を完成させ,これをAに引渡しているので,引渡後1ヶ月経てば,AはBに対して,残代金1000万円を支払わなければならないのが原則である。

(2)ア しかし,Bの屋根の防水の手抜き工事により,雨漏りという瑕疵が生じており,AはBに対して損害賠償請求権を有し(634条2項),その賠償金の支払いと引換えでないと残代金を支払わないと主張しえないか(634条2項但書)。

イ まず,AはBに対して,634条2項の損害賠償権を有するか。
雨漏りの屋根の補修工事に要する費用100万円については,634条2項により請求しうる。
 それでは,拡大損害であるパソコン等の損害50万円についても634条2項により請求しうるか。
 そもそも請負契約は,仕事の完成を目的とするものなので,請負人は,瑕疵のないものを給付する義務を負う。とするならば,634条は債務履行の特則であり,賠償の範囲は,履行利益にまで及ぶ。そして,請負人は,雨漏りが生じれば,パソコン等の家の物が損害を受けることは十分予測可能であるので,416条2項により,Bは50万円についても賠償責任を負う。

(3)とすると,Aは,150万円の支払いを受けるまで残代金1000万円の支払いを拒めるかのようにも思える。
 しかし,634条2項の趣旨は,公平の観点から,実質的に代金の減額を認めることにある。
 とするならば,BはAに対して,同時履行の抗弁がついていても,両者を対当額で相殺(505条)するよう求めることが許されると解する。

(4)以上,Aは,150万円の支払いまで,残代金1000万円の支払いを拒めるが,Bが相殺を主張すれば,その差額850万円を支払わなければならない。

以上


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