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H16年民法第2問

2004年07月20日 | ③H16年司法試験論文試験再現答案集
【問題】
 Aは,Bに2000万円の金銭を貸し付け,その担保としてBの父親Cが所有する甲不動産(時価2500万円)に第1順位の抵当権の設定を受け,その旨の登記をした。Bは支払期限までにその債務を弁済せずに行方をくらませた。
 そこで,Cは,この抵当権の実行を避けるため,Aに対して複数回に分けて合計800万円をBに代わって弁済するとともに,残りの債務も代わって弁済する旨繰り返し申し出たので,Aはその言を信じてBに対して上記貸金債権について特に時効中断の手続をとらないまま,支払期限から10年が経過した。他方,その間に,Cに対してDが1000万円,Eが1500万円の金銭を貸し付け,その担保として,甲不動産につきそれぞれDが第2順位,Eが第3順位の抵当権の設定を受け,いずれもその旨の登記を了した。
 以上の事実関係の下で(Cが無資力である場合も想定すること),Aが甲不動産に対して有する第1順位の抵当権設定登記の抹消を請求するため,Eはいかなる主張をし,他方,Aはこれに対していかなる反論をすることが考えられるかを指摘し,それぞれについて考察を加えよ。

(出題趣旨)
 時効制度に関するいくつかの論点の検討を求めるものである。すなわち,時効援用権者の範囲(後順位抵当権者は先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用できるかなど),時効援用権に対する債権者代位権の行使の許否(債務者が物上保証人であり援用により抵当権の負担が消滅する場合),及びその要件,並びに物上保証人による債務承認行為は時効中断事由かなどである。


【実際に私が書いた答案】(再現率90%程度)評価A(7287人中2000番以内)

1 EがAの抵当権設定登記の抹消を請求するには,Aの抵当権の被担保債権が時効消滅(166条)により消滅し,付従性により抵当権が消滅したと主張することが考えられる。

2(1)これに対して,Aは消滅時効は中断(147条)しており,消滅時効は完成していないと反論することが考えられる。

(2)考察
ア 確かに,弁済は「承認」(147条3号)にあたり,時効中断事由である。
 しかし,時効中断は,相対効が原則であり(148条),仮にBの「残りの債務も代わって弁済する旨」の発言が保証契約を成立させるものであっても,主債務たる本件被担保債権の時効を中断しない。
 よって,時効中断時効はなく,被担保債権の時効は完成している。
 このように解しても,時効の事前放棄が認められない以上(146条),Cの合理的意思は,Aの債務が時効消滅した場合にまで債務を負担するものでないと解しうるし,また,Aとしても,Bが行方をくらましても,公示送達(民訴法111条)により訴訟提起による請求により時効中断が容易にできるので(147条1号),格別不当ではない。

イ 以上,被担保債権に消滅時効は完成する。

3(1)次に,Aは,Eのような後順位抵当権者は,145条の「当事者」にはあたらず,時効を援用しないと反論することが考えられる。

(2)考察
ア 145条の「当事者」の意味が問題となる。

イ 145条の趣旨は,時効による利益をいさぎよしとしない当事者の意思を尊重することにある。
 もっとも,時効による利益と直接関係のあるものが,かかる当事者のいさぎよしとしないという意思にふりまわされるのは酷である。
 そこで,145条の「当事者」とは,直接の時効の当事者のみならず,時効により直接権利を得,義務を逃れるものをいうと解する。
 本問では,後順位抵当権者は,先順位者の抵当権が消滅することにより,順位が上昇し,事実上多くの配当が得られるという反射的利益を受けるにすぎない。

ウ よって,後順位抵当権者であるEは時効を援用できない。

(3)もっとも,Cが無資力であれば,Eは,債権者代位権(423条)により,Cの時効援用権を代位行使しうる。
 なぜなら。時効援用権も財産権であるし,Cのような物上保証人は,時効により直接抵当権を逃れる者であり,145条の「当事者」といえるからである。

以上


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