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H16年商法第2問

2004年07月20日 | ③H16年司法試験論文試験再現答案集
【問題】
 A株式会社の取締役である甲は,A社の代表取締役ではないにもかかわらず,代表取締役であった父親が死亡した際に,取締役会の決議を経ることのないまま,議事録を作成して,A社の代表取締役に就任した旨の登記をした。
 甲は,振出人を「A株式会社代表取締役甲」とし,受取人をBとする約束手形をBに対して振り出した。さらに,Cは,この手形を裏書によりBから取得した。
 Cは,どのような場合に,だれに対して手形金の支払を請求することができるか。

(出題趣旨)
 本問は,自ら代表取締役である旨の虚偽の登記をした取締役がその会社の代表取締役の名称で振り出した約束手形の効力について,不実登記の効力,表見代表取締役等の表見法理による第三者保護規定との関係において整理された論述をすることができるかどうかを見る点に主眼がある。手形行為と表見代理,代理権の瑕疵と手形の転得者の保護等についての基本的理解を踏まえて類似事例を処理する応用力が試されるが,それとともに,裏書人の担保責任,無権代理人の責任についての言及も求められる。


【実際に私が書いた答案】(再現率80%~90%)評価A(7287人中2000番以内)

1 A社に対する請求
(1)手形所持人Cは,手形面上振出人とされているA社に対して手形金を請求しうるか。

(2)甲は,取締役会の選任決議を経ていないので,代表取締役にはなりえず(商法261条1項),甲の手形振出は,無権代表行為となり,A社の追認ない限り,原則無効である。
 もっとも,Aの登記上甲は代表取締役とされており,かかる登記の記載を信じて手形を取得した者を害し,手形取引の安全を害する。
 そこで,商法14条によりCを保護しえないか。

(3)まず,商法14条の適用が認められるためには,登記をAがなしたことが必要である。
 この点,本問では,A社が登記したのではなくて,甲が登記をしていることから,商法14条の責任をAは負わないのではないようにも思える。
 しかし,本問振出は,A社の取締役甲がなしている。また,甲をはじめとするP社取締役や監査役は,取締役の行為を監督する義務を負う(商法260条1項,同271条1項)。
 にもかかわらず,代表取締役であった甲の父が死亡したのに,甲のほしいままを許している以上,甲による登記はA社の登記と同視しうる。
 よって,Cの前者たるB又はCが善意・無重過失(重過失は悪意と同視しうる)であれば,Cは商法14条により保護される。

(4)以上,A社の追認があるか,B又はCが善意・無重過失であれば,CはA社に対して手形金を請求しうる。

2 甲に対する請求
(1)甲は,無権代理をしていたのであるから,Aの追認ない限り,無権代理人の責任(手形法77条2項,8条,以下,「手形法」は省略する)を負う。

(2)この点,甲は,商法14条によりA社が責任を負うので,自己は責任を負わないという抗弁により,手形金の支払を拒めないか。
 商法14条も8条も所持人保護の制度であるから,甲が自己の責任を逃れるために主張することは許されない。

(3)また,民法117条2項の趣旨から,所持人が悪意又は重過失のときは,8条は適用されない。

(4)以上,Aの追認がなく,Cが善意・無重過失であれば,77条2項・8条により,Cは甲に対し手形金を請求しうる。

3 Bに対する請求
(1)Bは,裏書人であるので,77条1項1号・15条1項により担保責任を負う。

(2)もっとも,Bの手形債務負担行為の前提となるAの振出が前述のとおり原則無効であるので,手形行為独立の原則(77条2項・7条)が問題となる。
 手形行為独立の原則は,善意の所持人を保護するための制度である。
 よって,かかる趣旨は,裏書にも及ぶ。
 また,所持人が善意・無重過失のときだけ適用される。

(3)以上により,Cが満期に適法にAに手形を呈示し,手形金の支払を拒絶され(77条1項4号・43条),Cが善意・無重過失であれば,77条2項・7条によりBに手形金を請求しうる。

以上


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