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H16年民事訴訟法第1問

2004年07月20日 | ③H16年司法試験論文試験再現答案集
【問題】
 弁論主義の下における証明責任の機能について,証明責任を負わない当事者の立証活動の在り方に関する規律に触れつつ,論ぜよ。

(出題趣旨)
 本来的に訴訟の最終段階で機能する(客観的)証明責任と訴訟過程に関する原理である弁論主義との関係についての理解を問うことを第一とする問題である。さらに,弁論主義の下で生じるいわゆる主観的証明責任(証拠提出責任)は,論理的には,証明責任を負担しない当事者の行うべき訴訟活動を規律するものではないが,事案の適切な解決のために,どのような制度や理論が存するかという点についても論ずべきである。


【実際に私が書いた答案】(再現率70~80%)評価A(7287人中2000番以内)

1(1)証明責任とは,ある事実が真偽不明のとき,その事実を要件とする自己に有利な法律効果が認められない一方当事者の不利益をいう。
 かかる証明責任の目的は,ある事実が真偽不明の場合であっても裁判を可能とし,国民の裁判を受ける権利を(憲法32条)を実現することにある。
 証明責任は,弁論主義,すなわち,裁判資料の収集・提出を当事者の自由とする原則の下でなくても,上記本来的機能を発揮いうるが,弁論主義の下では,特に以下のような機能が重視される。

(2)すなわち,まず,証明責任を負う当事者は,自己に有利な証拠を収集し,提出することになり,当事者の訴訟追行の指針としての機能が重視される。

(3)次に,証明責任の分配の基準は,基準の明確性,実体法との調和の見地から,実体法の規定を基準として,各当事者は,自己に有利な法律効果を定める法規の要件事実につき証明責任を負担するという基準によるが(法律要件分類説),実体法は両当事者の公平の観点から定められており,当事者の公平を維持する機能がある。

(4)以上,証明責任は,弁論主義の下,訴訟追行の指針としての機能と,公平維持機能が重視されるが,証明責任を負わない当事者の立証活動の在り方に関する規律に触れつつ,これらについてより具体的に論ずる。

2(1)証明責任は,弁論主義の下,その分配基準が主張責任の分配基準となり,ある主要事実(法律効果を判断するのに直接必要な要件事実)の主張をどちらの当事者が負担するかという訴訟追行の指針になる。
 また,証明責任は,原告の主張に対する被告の反論が否認となるか抗弁となるかの区別基準にもなる。

(2)さらに,証明責任を負う者は,本証,すなわち,裁判官に合理的疑いを容れないだけの蓋然性の心証を持たすことが必要であるが,証明責任を負わない当事者は,反証,すなわち,相手方が本証を成功させそうなときに,裁判官に合理的疑いを抱かせるだけの証拠を提出すれば足りる。
 すなわち,本証と反証を区別する基準としても機能する。
 また,裁判所は,その心証の程度に応じて,充実した審判を可能にするため,釈明権(149条)行使するが,かかる裁判所の訴訟指揮の指針としても機能する。

(3)以上からすれば,証明責任を負わない当事者は,相手方がある事実につき裁判官に合理的疑いを容れないだけの蓋然性の心証を持たせつつあるとき,裁判官にその事実の存在につき合理的疑いを抱かせるだけの証拠を収集・提出するという行為責任を負うことになる(主観的証明責任)。

3 また,証明責任を負わない当事者は,弁論主義の下,手持ち証拠を提出しない自由を有するが,積極的に相手方の証明を妨げることは許されない。
 例えば,証明責任を負わない当事者も,文書提出義務(220条)や検証物提出義務を負い,これに反するときは,公平の見地から,裁判所はその事実を真実とみなすことができる(224条,232条1項)。

4 以上,証明責任は,弁論主義の下,特に,当事者の訴訟追行の指針としての機能と当事者の公平を維持する機能を有し,証明責任を負わない当事者の立証活動については,証明責任を負わない事実の存在につき,反証をするための証拠を収集・提出を促し,また,それだけでなく,証明責任を負わない事実についても積極的に証明を妨害してはいけないという規律として機能する。

以上


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