1 はじめに
司法試験合格後の司法修習(裁判官,検察官,弁護士等の法曹になるための研修)は,第52期(主として平成9年司法試験合格者)の修習生までは修習期間が2年,その後,我々第59期(主として平成16年司法試験合格者)の修習生までは1年半でしたが,現在は,たった1年になっています。
以前は,前期修習⇒実務修習⇒後期修習⇒二回試験(修習生の卒業試験)という流れでしたが,現在は,実務修習(8か月)⇒選択型修習(2か月)・司法研修所での修習(正式名称は忘れましたが,以前の後期修習に当たる)⇒二回試験となっています。
今の修習生は,かわいそうなことに,起案(裁判文書の作成。二回試験の主たる問題)のいろはも前期修習で十分に教えられず,いきなり実務修習に行き,昔は3~4か月あった後期修習(起案の仕方の総仕上げ)もたった2か月で,しかも二回試験不合格者は昔より相当多く,二回試験対策が不安な状態だと思います。
また,司法試験合格者増員・司法修習生増員に伴い,就職難に陥っており,就職活動に対しても不安いっぱいだと思います。
そのため,二回試験対策,就職活動に気を取られ,修習を充実したものにできていないじゃないかと心配しています。
この記事は,二回試験,就職活動で不安を抱えている修習生に対し,一つの道筋になれば幸いだという気持ちで書きました(もちろん,この記事が絶対ではないです。)。
2 就職活動
採用する弁護士としては,できるだけ,①即戦力で,②費用対効果がよく(数年単位でトータルで給料や経費より売上がよいなど),③事務所または自分に合う弁護士が欲しいです。
①即戦力かどうかについては,法律実務だけではなく,プラスアルファの社会人としての能力やその他の能力も問われます。
つまり,社会人としてどれだけ成熟しているかです。
これは,社会常識やビジネスマナーや外見や社会経験が問われます。
社会常識や社会経験は,すぐに身につくものではないですが,ビジネスマナーや外見は,ある程度短期間で修正がききます。
ビジネスマナーや外見は,弁護士以外の就職活動の基本です。
ですから,ビジネスマナーや外見などは,弁護士以外の就職活動のマニュアルがとても参考になります。
手紙の書き方,面接の仕方,面接時の服装等身だしなみなどは,そう言ったマニュアルにほぼ全部書いています。
私は,現在の弁護士の就職活動の前提として,就職活動のマニュアルを読み,身につけておく必要はあると思っています。
もちろん,マニュアルはあくまでマニュアルなので,絶対ではなく,あくまで基本であり,TPOに合わせて,応用していく必要があります。
応用は基本をマスターしないと,なかなか難しいですが,端的にマスターするには,やはり,机上ではダメで,実体験(場数)です。
つまり,行きたい行きたくない事務所かどうかは置いておいて,なるべくたくさん事務所に履歴書出し,なるべくたくさん面接に呼んでもらい,面接をたくさん受けることが肝要だと思います。
そこで,自分が覚えた就職活動のマニュアル(法曹への志望動機,応募先への志望動機,自分の長所・短所,自分のやりたいことが応募先にどう合うか,貢献できるか,履歴書の書き方,履歴書に貼る写真の撮り方,挨拶の仕方,話し方,話の聴き方,座り方,応募先への事前事後の連絡の仕方,服装,髪型,口臭・体臭・・・・詰めようと思えばいくらでも詰めれます。前提として,徹底した自己と応募先の分析が必要です。)をいろいろ試してみたり,他の応募者の対応をよく観察して,いいところは盗み,悪いところは直すなどの試行錯誤をします。
たくさんの事務所の面接を受けることはしんどいですが,他の事務所を内側から見る機会にもなり,弁護士になった後での参考にもなります。
これらが,就職活動のみならず,就職後,顧客や相手方や他の法曹に対する対応として,相手の気分を悪くしない,社会人としての力につながるわけです。
その他の能力については,語学や簿記の知識や弁護士以外の専門知識(建築,医学,金融商品,税務,特許関係等)ですが,少なくとも,簿記の知識くらい(簿記3級レベル)くらいは,簡単だし,身につけて欲しいですね。
②費用対効果については,能力もありますが,給料が安くするか,給料は安くなくてもボスが元は取れるまでは独立しないなどの誠実さ・義理堅さは欲しいです(ただし,誠実さ・義理堅さは,一朝一夕に身につくものではないですが)。
③事務所に合うか合わないかは,個性・相性の問題なので,なかなか難しいですが,相性が合わない者同士がくっつくと不幸以外ありません。修習生としては,たくさん面接を受けて,相性がよい事務所を探すしかありません。
就職活動の基本は,自己の能力・人間力を高めて,就職成功率を高め,数を打つこと以外ありません。
能力の高い人は,多くの内定を取りますが,必ずしも100%ではなく,それでも数か所受ける必要がありますが,能力が上がりきらない人は,たくさん面接する必要はあると思います。
多くの募集事務所は,採用予定人数が1~2人で,一事務所で採用される可能性は極めて低いです。また,ほとんどの事務所が弁護士の数が少なく,弁護士の個性もあり,必要とする人材は十人十色です。ある事務所では評価されなくても,他の事務所では評価される可能性は十分あります。
行くか行かないかは別にしてたくさんの事務所・インハウス企業を受けるメリットは,就職成功率を高める以外に,履歴書の書き方がうまくなる,面接のノウハウがわかってくる,自分に合う事務所を探すことができるなど,いろいろあります。
就職活動で失敗を続けると,自分自身に対する自信を喪失する時期があります。
しかし,たくさん受けていると,そのうち自分を評価するところが出てきたり,内定が出たりと,自信が回復します。不屈の精神で諦めず,やってほしいと思います。
合格者に言いたいことではありますが,発表前から行く気がなくても,就職活動(サマークラークや事務所説明会等も含む)は,なるべく応募すべきだと思います。
就職活動のポイントは,とくかく,自己と応募先分析をし(孫子「敵を知り,己を知れば百戦危うからず。」),能力を高め,人格を高め,めげずに数打つことです。
あと,採用する側から言うと,本当にこの事務所に来たいのかその熱意を見せて欲しいです。
履歴書等を読んで,結局どこの事務所でもいいんでしょ,就職難だからとりあえず応募しただけなんでしょと感じると,よほど他で光るものを見せてもらわないと正直面接に呼ぶ気が起こりません(まあ会わないとわからないことの方が多いから,もう少し基準は落とすかもしれないですが)。
うちのような少数の事務所では,イソ弁は,長い間,毎日一緒にいて,一緒に働くわけです。
自然と一緒にいてしんどくないか,仕事のパートナーとして適しているかという基準になるわけです。
なるべく早く就職先を決めれば,それだけ修習,二回試験対策に集中できます。頑張って欲しいものです。
3 二回試験
まず,落ちるパターンと落ちやすい人について述べます。
自分の経験や落ちた修習生を分析すると,私なりに一定の傾向が見えましたので,今後の参考にしてください。
まず,
(1)落ちるパターンですが,
①絶対にやってはいけないことをする(民裁:要件事実の異なる訴訟物の間違え,刑裁:全部無罪判決,検察:不起訴,刑弁:有罪弁論・情状弁護,民弁:不動産即時取得など法律上ありえないことを書く:原告と被告を間違え逆の立場で書く。)
②点数のあることを書かず,点数のないことばかり書く(閃いたことを中心に書く。パニクる。)。
③途中答案(時間配分を間違える。パニクる。紐を結べていない等々)
次に,
(2)落ちる人のパターンですが,
①できない人(意外に成績の悪い人は落ちず,主にやる気のない人が落ちる気がします。)
②気負っている人・テンパっている人(いい点を取ろうして変なことを書いたり,思わぬ失敗をする。)
③相談しない人・わが道を行くタイプ(独創的すぎ,点数ないことばかり書いたり,点のあるとこを省いたりする。)
(2)の②は,主として,裁判官,検察官希望の人でしょう。
これらは人は,パニクった場合どうするかなど,危機管理(パニクった場合どう対処するか,体調管理,当日体調が悪い時どうするかなど)を詰めておけばよいと思います。
その他については,二回試験さえ受かればいいという人向けに書きます。
まず,(1)落ちるパターンについて書きます。
まず最初に言いたいのは,各科目について,無難な答案の書き方をマスターしろということです。
各教官室が書いた答案の書き方のマニュアルをマスターすればよいのですが,それらは概して総論的でなかなか理解しにくいです。
反対に,教官の講評は,概して各論的すぎ,わかりにくいです。
そこで,補充するのが,修習生の中で代々受け継がれているマニュアルを参考にすることです(あくまで参考で,妄信してはいけない。)。
我々の時代は,「お作法」だったか「お手前」というある優秀な修習生が書いたマニュアルがありましたが,現在は,「楽しい起案」か「嬉しい起案」等といったマニュアル本があるようです(これ以外もあります。)。
これらを早く入手して,ざっと目を通し,最低限点が取れて失敗しない方法を覚えておくべきだと思います(ただし,あくまで二回試験対策なので,実務では役に立つとは限らないですが。)。
(1)の①については,民裁では,要件事実は出ないとの噂もあり(あくまで噂ですが),主として,事実認定に気をつけるべきだと思います。
民裁の事実認定は,一般論としては,原告が勝つか被告が勝つかは,決まっていません。
問題によって,原告が勝つ(教官室で,ほとんどの教官が原告勝つという心証),被告が勝つ(教官室で,ほとんどの教官が被告勝つという心証),どちらの勝ちもありうる(教官室で心証が分かれている。)という問題があります。
これらを的確に把握する必要があります。この見極めを間違えると,落ちる可能性が高くなります。
これに対する対策は,多くの修習生がどっちを書くかを考えるべきです。そのためには,数少ない起案の中で,他の修習生の心証を聞いておく必要があります。
刑裁については,全部無罪判決を書かす問題が出る可能性は極めて低いです。仮にそういう問題が出ても,半分近くの修習生は有罪起案をします。
つまり,修習生の半分は落とせないので(おそらく,まだ,1割を落とせても2割は政策的に落とせないはずです。),間違った結論を書いても,その中で出来の悪い人だけ落とすわけです。
仮に,「これは無罪起案だ」と思っても,その方向で書くためには,十分な検討と覚悟が必要です。
その判断が間違っていれば,落ちる可能性が極めて高いです。
そうならば,有罪を書いて,他の修習生よりいい答案を書くことに専念した方がましです。
ただ,無罪起案と言っても,故意の有無が争点になっている場合などには,教官室で結論が分かれる可能性があるので,一部無罪起案はありえます。
そうは言ってもやはり多くの修習生はどっちを書くを考えて,慎重にあるべき結論を考えるべきです。
検察については,不起訴裁定書に手を出すと落ちる可能性が高いと言われています。
検察の不起訴裁定書は,右端が赤くなっており(私は「赤紙」と呼んでいます。),入っていると答案を一見してすぐにわかります。
受験会場を見渡して,他の修習生の大半が赤紙を手を出していない場合には,手を出さない方が無難です。
刑弁は,有罪起案,情状弁論は,原則ありませんので,刑裁で無罪起案,検察で不起訴裁定書に手を出すくらいの覚悟が必要です。
刑事系全体で言えば,罪刑法定主義に反する起案は絶対に注意すべきです(司法試験でも同じですが)。
民弁は,私の期(59期)で出た問題で,「不動産の即時取得」などのあり得ないミスをすると,落ちます。
民弁は,概して,①事実認定の間接事実・間接証拠による総合判断による事実認定をするパターンか(例えば,二段の推定を破る場合など),②過失,表見代理など規範的要件について,評価根拠事実から総合的に判断するパターンが出ます。
つまり,総合判断について,事実と証拠を拾って,ガリガリ書かないと点数がつかないので,落ちます。
②点数にならないことを思いつきで書くことについては,起案の現場でひらめいたこと書くの危険で,慎重に吟味する必要があります。
つまり,多くの修習生が書くかどうかを慎重に吟味すべきです。
点数にならないことに時間を費やすと必然的に点数があることを書く量や時間がなくなり,採点者の心証は悪くなり,相対的に点数が落ちります。それに,点数にならないことを書いて間違ったことを書くと,減点される可能性が高いです。
(ただし,ひらめきが起きやすい人は,発想力が豊かなので,弁護士になると意外に伸びる可能性は秘めていると思います。ただ,二回試験には不向きなので,二回試験ではそれは封印した方がいいでしょう。)
③途中答案については,必ずしも落ちるわけではないでしょうが,
まず,点数のあるところを書ききれないことで落ちる可能性が増します。
また,途中答案というだけで,減点される可能性もあります。
この対策ですが,なるべく早く記録を読み,精査し(精査を怠ると,間違ったことを書く可能性が増すので,急ぎながらも十分記録をよく読む。),答案構成を早くする訓練をし,時間配分をよく練ることが肝要です。
また,起案の現場で,どうしても時間が足りないと思ったときは,はやく優秀答案を書くことを諦め,残り30分程度で,とりあえず,書くべき項目だけ書き,それぞれに一言二言ずつでも言及するべきだと思います(ポイントは堅い証拠,争いのない事実や客観的な証拠を中心に拾うこと。)。
おそらく,項目ごとに点数があり,一言二言でも,それらに点数が割り振られているからです。
あと,途中答案で気をつけたいのは,表紙も含めて,すべての起案を,きちんと紐でつづることです。噂によるといくらいい起案をしても,起案すべてを紐でつづっていない人が落ちたらしいです。
これの対策は,残り事案が少なくなったときは,とりあえず,白紙の用紙も含めて,紐につづり,紐を結んでから,起案を続けることです。
白紙が残ったら,白紙部分を破って外したり,白紙部分をバッテンできたりできますし,最悪「以上」と書いていれば,途中答案扱いされません。
次に(2)の落ちるパターンに対する対策ですが,
①できない人は,基本的に他の修習生や教官が手を差し伸べてくれますが,やる気のないテンションが低い人は,どの試験でも共通ですが,落ちやすいです。
なるべく,二回試験人対するテンションを高め,起案能力をつけ,いい人になり,手を差し伸べてくれる友だちを作るべきです。
②テンパりやすい人は,任官,任検希望以外も,テンパらないように,十分,危機管理をすべきでしょう。
③の相談できない人,一匹狼タイプは,他の人がどう書くかわからず,あるべき結論を間違えたり,点数にならないことを書いたりします。
こういう人はつらいでしょうが,友だちをなるべく多く作ったり,他の人の起案を見せてもらったり,他の人と起案終了後合議したりしないと,落ちる可能性が増します。
①~③の条件に合った人の多くが落ちるわけではありませんが,落ちる可能性が人より高いことを自覚して,対策を練っておく必要があるでしょう。
二回試験対策が早く万全にできれば,修習や就職活動にそれだけ専念できます。
3 修習の実
いい実務家になるためには,実務修習中,どれだけ,修習に集中できるかにかかっています。
そのためには前述のとおり,就職活動や二回試験対策をできるだけ万全にした方がよいでしょう。
これらが万全でなくても,うまく切り替えて,修習には集中する必要があります。
修習の実をあげることは,二回試験対策や就職活動にもつながりますが,何より,二回試験合格後,就職した後,実務家として,早く一人前になることにつながります。
そのためには,内部的に,配属中の実務3庁会で,いかにその実務家を見て,実務家と議論し,あるべき法曹像を固めるかと,外部的に,配属中でない他の3庁会の実務家をよく観察し,客観的にあるべき法曹像を固めることが,肝要です。
つまり,内部的に,法曹実務家の本音や思考パターンを観察し,外部的に,いい法曹は何かをよく見て,自分なりにあるべき法曹像の基本を徹底的にたたみこむべきです。
こういった基本ができていると,実務家になって道に迷っても,基本にすぐに戻ることができるので,自分を見失わず,失敗が少なくなり,いい実務家になれると思います。
あと,忘れてはいけないのが,社会勉強です。
法曹実務家の基本は,事実認定能力が大事ですが,事実認定能力の基本は,「経験則」です。
なるべく多くの社会勉強をしたり,法曹以外の人の考え方や行動をよく観察し,自分の血肉にすべきでしょう。
これは,実務家になっても同じで,おごらず,謙虚に人の話を聞けるかが問われます。
5 その他
まず,受験生も含めてですが,この業界に入る以上,勉強をしないことを諦めること,楽をすることを諦めることが大事だと思います。
もちろん,趣味や遊びまで捨てる必要はありません。うまく仕事・勉強と遊びのバランスを取る必要があると思います。
(費用対効果は重要ですが,努力や苦労をおそれてはいけません。)
今の修習生は,大学・法科大学院時代の奨学金等借金,修習中の貸与制により借金に苦しんでいると思います。
もし就職に失敗したなら,これらの借金をどうするかについて,真剣に考えるべきです。
ただ,保証人問題が残ってしまいますが・・・・
この記事によって,多くの修習生が救われることを,切に願います。
司法試験合格後の司法修習(裁判官,検察官,弁護士等の法曹になるための研修)は,第52期(主として平成9年司法試験合格者)の修習生までは修習期間が2年,その後,我々第59期(主として平成16年司法試験合格者)の修習生までは1年半でしたが,現在は,たった1年になっています。
以前は,前期修習⇒実務修習⇒後期修習⇒二回試験(修習生の卒業試験)という流れでしたが,現在は,実務修習(8か月)⇒選択型修習(2か月)・司法研修所での修習(正式名称は忘れましたが,以前の後期修習に当たる)⇒二回試験となっています。
今の修習生は,かわいそうなことに,起案(裁判文書の作成。二回試験の主たる問題)のいろはも前期修習で十分に教えられず,いきなり実務修習に行き,昔は3~4か月あった後期修習(起案の仕方の総仕上げ)もたった2か月で,しかも二回試験不合格者は昔より相当多く,二回試験対策が不安な状態だと思います。
また,司法試験合格者増員・司法修習生増員に伴い,就職難に陥っており,就職活動に対しても不安いっぱいだと思います。
そのため,二回試験対策,就職活動に気を取られ,修習を充実したものにできていないじゃないかと心配しています。
この記事は,二回試験,就職活動で不安を抱えている修習生に対し,一つの道筋になれば幸いだという気持ちで書きました(もちろん,この記事が絶対ではないです。)。
2 就職活動
採用する弁護士としては,できるだけ,①即戦力で,②費用対効果がよく(数年単位でトータルで給料や経費より売上がよいなど),③事務所または自分に合う弁護士が欲しいです。
①即戦力かどうかについては,法律実務だけではなく,プラスアルファの社会人としての能力やその他の能力も問われます。
つまり,社会人としてどれだけ成熟しているかです。
これは,社会常識やビジネスマナーや外見や社会経験が問われます。
社会常識や社会経験は,すぐに身につくものではないですが,ビジネスマナーや外見は,ある程度短期間で修正がききます。
ビジネスマナーや外見は,弁護士以外の就職活動の基本です。
ですから,ビジネスマナーや外見などは,弁護士以外の就職活動のマニュアルがとても参考になります。
手紙の書き方,面接の仕方,面接時の服装等身だしなみなどは,そう言ったマニュアルにほぼ全部書いています。
私は,現在の弁護士の就職活動の前提として,就職活動のマニュアルを読み,身につけておく必要はあると思っています。
もちろん,マニュアルはあくまでマニュアルなので,絶対ではなく,あくまで基本であり,TPOに合わせて,応用していく必要があります。
応用は基本をマスターしないと,なかなか難しいですが,端的にマスターするには,やはり,机上ではダメで,実体験(場数)です。
つまり,行きたい行きたくない事務所かどうかは置いておいて,なるべくたくさん事務所に履歴書出し,なるべくたくさん面接に呼んでもらい,面接をたくさん受けることが肝要だと思います。
そこで,自分が覚えた就職活動のマニュアル(法曹への志望動機,応募先への志望動機,自分の長所・短所,自分のやりたいことが応募先にどう合うか,貢献できるか,履歴書の書き方,履歴書に貼る写真の撮り方,挨拶の仕方,話し方,話の聴き方,座り方,応募先への事前事後の連絡の仕方,服装,髪型,口臭・体臭・・・・詰めようと思えばいくらでも詰めれます。前提として,徹底した自己と応募先の分析が必要です。)をいろいろ試してみたり,他の応募者の対応をよく観察して,いいところは盗み,悪いところは直すなどの試行錯誤をします。
たくさんの事務所の面接を受けることはしんどいですが,他の事務所を内側から見る機会にもなり,弁護士になった後での参考にもなります。
これらが,就職活動のみならず,就職後,顧客や相手方や他の法曹に対する対応として,相手の気分を悪くしない,社会人としての力につながるわけです。
その他の能力については,語学や簿記の知識や弁護士以外の専門知識(建築,医学,金融商品,税務,特許関係等)ですが,少なくとも,簿記の知識くらい(簿記3級レベル)くらいは,簡単だし,身につけて欲しいですね。
②費用対効果については,能力もありますが,給料が安くするか,給料は安くなくてもボスが元は取れるまでは独立しないなどの誠実さ・義理堅さは欲しいです(ただし,誠実さ・義理堅さは,一朝一夕に身につくものではないですが)。
③事務所に合うか合わないかは,個性・相性の問題なので,なかなか難しいですが,相性が合わない者同士がくっつくと不幸以外ありません。修習生としては,たくさん面接を受けて,相性がよい事務所を探すしかありません。
就職活動の基本は,自己の能力・人間力を高めて,就職成功率を高め,数を打つこと以外ありません。
能力の高い人は,多くの内定を取りますが,必ずしも100%ではなく,それでも数か所受ける必要がありますが,能力が上がりきらない人は,たくさん面接する必要はあると思います。
多くの募集事務所は,採用予定人数が1~2人で,一事務所で採用される可能性は極めて低いです。また,ほとんどの事務所が弁護士の数が少なく,弁護士の個性もあり,必要とする人材は十人十色です。ある事務所では評価されなくても,他の事務所では評価される可能性は十分あります。
行くか行かないかは別にしてたくさんの事務所・インハウス企業を受けるメリットは,就職成功率を高める以外に,履歴書の書き方がうまくなる,面接のノウハウがわかってくる,自分に合う事務所を探すことができるなど,いろいろあります。
就職活動で失敗を続けると,自分自身に対する自信を喪失する時期があります。
しかし,たくさん受けていると,そのうち自分を評価するところが出てきたり,内定が出たりと,自信が回復します。不屈の精神で諦めず,やってほしいと思います。
合格者に言いたいことではありますが,発表前から行く気がなくても,就職活動(サマークラークや事務所説明会等も含む)は,なるべく応募すべきだと思います。
就職活動のポイントは,とくかく,自己と応募先分析をし(孫子「敵を知り,己を知れば百戦危うからず。」),能力を高め,人格を高め,めげずに数打つことです。
あと,採用する側から言うと,本当にこの事務所に来たいのかその熱意を見せて欲しいです。
履歴書等を読んで,結局どこの事務所でもいいんでしょ,就職難だからとりあえず応募しただけなんでしょと感じると,よほど他で光るものを見せてもらわないと正直面接に呼ぶ気が起こりません(まあ会わないとわからないことの方が多いから,もう少し基準は落とすかもしれないですが)。
うちのような少数の事務所では,イソ弁は,長い間,毎日一緒にいて,一緒に働くわけです。
自然と一緒にいてしんどくないか,仕事のパートナーとして適しているかという基準になるわけです。
なるべく早く就職先を決めれば,それだけ修習,二回試験対策に集中できます。頑張って欲しいものです。
3 二回試験
まず,落ちるパターンと落ちやすい人について述べます。
自分の経験や落ちた修習生を分析すると,私なりに一定の傾向が見えましたので,今後の参考にしてください。
まず,
(1)落ちるパターンですが,
①絶対にやってはいけないことをする(民裁:要件事実の異なる訴訟物の間違え,刑裁:全部無罪判決,検察:不起訴,刑弁:有罪弁論・情状弁護,民弁:不動産即時取得など法律上ありえないことを書く:原告と被告を間違え逆の立場で書く。)
②点数のあることを書かず,点数のないことばかり書く(閃いたことを中心に書く。パニクる。)。
③途中答案(時間配分を間違える。パニクる。紐を結べていない等々)
次に,
(2)落ちる人のパターンですが,
①できない人(意外に成績の悪い人は落ちず,主にやる気のない人が落ちる気がします。)
②気負っている人・テンパっている人(いい点を取ろうして変なことを書いたり,思わぬ失敗をする。)
③相談しない人・わが道を行くタイプ(独創的すぎ,点数ないことばかり書いたり,点のあるとこを省いたりする。)
(2)の②は,主として,裁判官,検察官希望の人でしょう。
これらは人は,パニクった場合どうするかなど,危機管理(パニクった場合どう対処するか,体調管理,当日体調が悪い時どうするかなど)を詰めておけばよいと思います。
その他については,二回試験さえ受かればいいという人向けに書きます。
まず,(1)落ちるパターンについて書きます。
まず最初に言いたいのは,各科目について,無難な答案の書き方をマスターしろということです。
各教官室が書いた答案の書き方のマニュアルをマスターすればよいのですが,それらは概して総論的でなかなか理解しにくいです。
反対に,教官の講評は,概して各論的すぎ,わかりにくいです。
そこで,補充するのが,修習生の中で代々受け継がれているマニュアルを参考にすることです(あくまで参考で,妄信してはいけない。)。
我々の時代は,「お作法」だったか「お手前」というある優秀な修習生が書いたマニュアルがありましたが,現在は,「楽しい起案」か「嬉しい起案」等といったマニュアル本があるようです(これ以外もあります。)。
これらを早く入手して,ざっと目を通し,最低限点が取れて失敗しない方法を覚えておくべきだと思います(ただし,あくまで二回試験対策なので,実務では役に立つとは限らないですが。)。
(1)の①については,民裁では,要件事実は出ないとの噂もあり(あくまで噂ですが),主として,事実認定に気をつけるべきだと思います。
民裁の事実認定は,一般論としては,原告が勝つか被告が勝つかは,決まっていません。
問題によって,原告が勝つ(教官室で,ほとんどの教官が原告勝つという心証),被告が勝つ(教官室で,ほとんどの教官が被告勝つという心証),どちらの勝ちもありうる(教官室で心証が分かれている。)という問題があります。
これらを的確に把握する必要があります。この見極めを間違えると,落ちる可能性が高くなります。
これに対する対策は,多くの修習生がどっちを書くかを考えるべきです。そのためには,数少ない起案の中で,他の修習生の心証を聞いておく必要があります。
刑裁については,全部無罪判決を書かす問題が出る可能性は極めて低いです。仮にそういう問題が出ても,半分近くの修習生は有罪起案をします。
つまり,修習生の半分は落とせないので(おそらく,まだ,1割を落とせても2割は政策的に落とせないはずです。),間違った結論を書いても,その中で出来の悪い人だけ落とすわけです。
仮に,「これは無罪起案だ」と思っても,その方向で書くためには,十分な検討と覚悟が必要です。
その判断が間違っていれば,落ちる可能性が極めて高いです。
そうならば,有罪を書いて,他の修習生よりいい答案を書くことに専念した方がましです。
ただ,無罪起案と言っても,故意の有無が争点になっている場合などには,教官室で結論が分かれる可能性があるので,一部無罪起案はありえます。
そうは言ってもやはり多くの修習生はどっちを書くを考えて,慎重にあるべき結論を考えるべきです。
検察については,不起訴裁定書に手を出すと落ちる可能性が高いと言われています。
検察の不起訴裁定書は,右端が赤くなっており(私は「赤紙」と呼んでいます。),入っていると答案を一見してすぐにわかります。
受験会場を見渡して,他の修習生の大半が赤紙を手を出していない場合には,手を出さない方が無難です。
刑弁は,有罪起案,情状弁論は,原則ありませんので,刑裁で無罪起案,検察で不起訴裁定書に手を出すくらいの覚悟が必要です。
刑事系全体で言えば,罪刑法定主義に反する起案は絶対に注意すべきです(司法試験でも同じですが)。
民弁は,私の期(59期)で出た問題で,「不動産の即時取得」などのあり得ないミスをすると,落ちます。
民弁は,概して,①事実認定の間接事実・間接証拠による総合判断による事実認定をするパターンか(例えば,二段の推定を破る場合など),②過失,表見代理など規範的要件について,評価根拠事実から総合的に判断するパターンが出ます。
つまり,総合判断について,事実と証拠を拾って,ガリガリ書かないと点数がつかないので,落ちます。
②点数にならないことを思いつきで書くことについては,起案の現場でひらめいたこと書くの危険で,慎重に吟味する必要があります。
つまり,多くの修習生が書くかどうかを慎重に吟味すべきです。
点数にならないことに時間を費やすと必然的に点数があることを書く量や時間がなくなり,採点者の心証は悪くなり,相対的に点数が落ちります。それに,点数にならないことを書いて間違ったことを書くと,減点される可能性が高いです。
(ただし,ひらめきが起きやすい人は,発想力が豊かなので,弁護士になると意外に伸びる可能性は秘めていると思います。ただ,二回試験には不向きなので,二回試験ではそれは封印した方がいいでしょう。)
③途中答案については,必ずしも落ちるわけではないでしょうが,
まず,点数のあるところを書ききれないことで落ちる可能性が増します。
また,途中答案というだけで,減点される可能性もあります。
この対策ですが,なるべく早く記録を読み,精査し(精査を怠ると,間違ったことを書く可能性が増すので,急ぎながらも十分記録をよく読む。),答案構成を早くする訓練をし,時間配分をよく練ることが肝要です。
また,起案の現場で,どうしても時間が足りないと思ったときは,はやく優秀答案を書くことを諦め,残り30分程度で,とりあえず,書くべき項目だけ書き,それぞれに一言二言ずつでも言及するべきだと思います(ポイントは堅い証拠,争いのない事実や客観的な証拠を中心に拾うこと。)。
おそらく,項目ごとに点数があり,一言二言でも,それらに点数が割り振られているからです。
あと,途中答案で気をつけたいのは,表紙も含めて,すべての起案を,きちんと紐でつづることです。噂によるといくらいい起案をしても,起案すべてを紐でつづっていない人が落ちたらしいです。
これの対策は,残り事案が少なくなったときは,とりあえず,白紙の用紙も含めて,紐につづり,紐を結んでから,起案を続けることです。
白紙が残ったら,白紙部分を破って外したり,白紙部分をバッテンできたりできますし,最悪「以上」と書いていれば,途中答案扱いされません。
次に(2)の落ちるパターンに対する対策ですが,
①できない人は,基本的に他の修習生や教官が手を差し伸べてくれますが,やる気のないテンションが低い人は,どの試験でも共通ですが,落ちやすいです。
なるべく,二回試験人対するテンションを高め,起案能力をつけ,いい人になり,手を差し伸べてくれる友だちを作るべきです。
②テンパりやすい人は,任官,任検希望以外も,テンパらないように,十分,危機管理をすべきでしょう。
③の相談できない人,一匹狼タイプは,他の人がどう書くかわからず,あるべき結論を間違えたり,点数にならないことを書いたりします。
こういう人はつらいでしょうが,友だちをなるべく多く作ったり,他の人の起案を見せてもらったり,他の人と起案終了後合議したりしないと,落ちる可能性が増します。
①~③の条件に合った人の多くが落ちるわけではありませんが,落ちる可能性が人より高いことを自覚して,対策を練っておく必要があるでしょう。
二回試験対策が早く万全にできれば,修習や就職活動にそれだけ専念できます。
3 修習の実
いい実務家になるためには,実務修習中,どれだけ,修習に集中できるかにかかっています。
そのためには前述のとおり,就職活動や二回試験対策をできるだけ万全にした方がよいでしょう。
これらが万全でなくても,うまく切り替えて,修習には集中する必要があります。
修習の実をあげることは,二回試験対策や就職活動にもつながりますが,何より,二回試験合格後,就職した後,実務家として,早く一人前になることにつながります。
そのためには,内部的に,配属中の実務3庁会で,いかにその実務家を見て,実務家と議論し,あるべき法曹像を固めるかと,外部的に,配属中でない他の3庁会の実務家をよく観察し,客観的にあるべき法曹像を固めることが,肝要です。
つまり,内部的に,法曹実務家の本音や思考パターンを観察し,外部的に,いい法曹は何かをよく見て,自分なりにあるべき法曹像の基本を徹底的にたたみこむべきです。
こういった基本ができていると,実務家になって道に迷っても,基本にすぐに戻ることができるので,自分を見失わず,失敗が少なくなり,いい実務家になれると思います。
あと,忘れてはいけないのが,社会勉強です。
法曹実務家の基本は,事実認定能力が大事ですが,事実認定能力の基本は,「経験則」です。
なるべく多くの社会勉強をしたり,法曹以外の人の考え方や行動をよく観察し,自分の血肉にすべきでしょう。
これは,実務家になっても同じで,おごらず,謙虚に人の話を聞けるかが問われます。
5 その他
まず,受験生も含めてですが,この業界に入る以上,勉強をしないことを諦めること,楽をすることを諦めることが大事だと思います。
もちろん,趣味や遊びまで捨てる必要はありません。うまく仕事・勉強と遊びのバランスを取る必要があると思います。
(費用対効果は重要ですが,努力や苦労をおそれてはいけません。)
今の修習生は,大学・法科大学院時代の奨学金等借金,修習中の貸与制により借金に苦しんでいると思います。
もし就職に失敗したなら,これらの借金をどうするかについて,真剣に考えるべきです。
ただ,保証人問題が残ってしまいますが・・・・
この記事によって,多くの修習生が救われることを,切に願います。