弁護士NOBIのぶろぐ

マチ弁が暇なときに,情報提供等行います。(兵庫県川西市の弁護士井上伸のブログです。)

離婚等の際の年金分割制度がもうすぐ始まります

2007年03月17日 | ⑤法律問題について
この4月から離婚等の際の年金分割制度がスタートします。
世の男性,特に定年退職を迎える,団塊の多くの企業戦士だった方(奥さんより収入の多い人)は,恐怖のどん底に叩き落とされることでしょう。
そんな多くの男性方々の恐怖は置いておいて,この制度について説明しようと思います。


まず,これは,平成19年以後に離婚(婚姻の取消や内縁関係の解消をする場合も含む。)する場合のみに適用されます。
そして,分割の対象となるのは,厚生年金や共済年金のみ(いわゆる2階部分といわれるところ。以下「厚生年金等」といいます。)で,国民年金(基礎年金)(いわゆる1階部分),国民年金基金や厚生年金基金や企業年金などの3階部分は対象になりません。
つまり,夫婦の一方又は双方が厚生年金や共済年金加入者(いわゆる第2号被保険者)でないと全く関係ない話になります(厚生年金に加入している企業に働いているか,公務員等)。
また,内縁関係(入籍はしていないが,事実上夫婦生活をしている場合。同棲とは異なる。)の場合は,内縁の配偶者が,第3号被保険者(社保において被扶養者となっている場合)に限られます。


ここが一番誤解が多いところかと思いますが,分割されるのは,年金を受ける権利ではなく,夫婦双方の婚姻期間中の保険料納付記録です。

保険料納付記録とは,厚生年金保険料の算定の基礎となった標準報酬(標準報酬月額と標準賞与額)のことを言います。
わかりやすくいうと(正確な表現とはいえませんが),婚姻期間中夫婦双方で支払ってきたどれだけ厚生年金支払ってきたかということです(厚生年金受給額の算定の基礎になるもの)。
これを分割するということになります。
したがって,当然に,相手方もらっている年金又は将来もらえる年金の半分がもらえるようになるわけではありません。

したがって,相手が既に年金を受けていても,自分が年金をもらえる年になってなければ年金はもらえませんし,厚生年金等の受給資格には影響ありません(厚生年金等がもらえるだけの年数の計算には関係なく,もらえる総額が増えるだけ。)。

また,内縁関係の場合は,配偶者が第3号被保険者(扶養)になっている期間の記録しか分割されません。

内縁関係の後,入籍した場合は,入籍後の全期間が年金分割の対象になることはもちろんですが,内縁関係の間に扶養に入っていた期間も分割の対象になります。

逆に,戸籍上夫婦になっていた後,戸籍上離婚して,内縁関係になった場合には,戸籍上の離婚の際に,一度きちんと年金分割しないと,内縁関係を解消した際,戸籍上の婚姻関係の際の年金分割はできなくなるので,注意が必要です。


年金分割の手続については,まず,①分割の割合(「按分割合」)をいくらにするかを決める手続をして,その後,②最寄りの社会保険事務所に,実際に年金分割請求手続をしないといけないという,2段階の手続が必要です。

①の按分割合は,夫婦間の協議で決めることもできますし(その場合は公証役場に行って,公正証書を作成しないといけません。),それができないなら,裁判手続(年金分割調停・年金分割審判・離婚訴訟)で決めることになります。
裁判手続は,離婚の調停・訴訟と同時にもできますし,離婚後に離婚とは別個に調停・審判ですることができます。

②については,原則,離婚(内縁関係の解消,婚姻の取消も含む)成立した日の翌月から2年以内にしないといけません(つまり,平成19年4月1日に離婚が成立したときは,平成21年4月1日までは社会保険事務所に年金分割請求ができます。)。
但し,裁判手続により按分割合を決めたときは,離婚から2年が経過していても,その調停・和解が成立した日又は,審判・判決が確定した日の翌日から1ヶ月が経過するまでは,年金分割請求ができます(つまり,平成20年1月1日に調停がが成立したときは,平成20年2月1日までOK。ちなみに,平成21年1月29日から31日の間に調停が成立したときは,平成21年2月28日までしか請求できません。)。

だから,年金分割の按分割合が決まったからと言って安心して,社会保険事務所に実際に分割請求をしないとすべてが徒労に終わるので注意する必要があります。

また,①,②の前提として,必要な情報(分割の対象となる期間,分割の対象となる期間に係る離婚当事者それぞれの保険料納付記録,按分割合の範囲等)の提供を社会保険庁に請求することができます(既にこの制度は昨年10月より開始してます。)


詳しくは,社会保険庁のHPである程度わかりやすく解説してますので,これをご参照頂くか(解説*Q&A*),最寄りの社会保険事務所*,弁護士(弁護士会*),弁護士検索*),社会保険労務士(社労士)(全国社会保険労務士会連合会HP*)に問い合わせるといいと思います。

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映画って本当にすばらしいですね

2007年03月11日 | ⑫雑談
めずらしく2週間続けて,映画館に行き,映画を観ました。
両方ともたまたまタダ券を手に入れたので,いっただけですが。

先週見たのは,「幸せのちから」です。
前情報なくなんの先入観もなく見たのでですが,映画館に入ったときから眠かったので当然寝るかなと思っていたら,おもしろくて全然眠れませんでした。
実話を元にした,親子愛と努力の話でした。
司法試験受験時代で,勉強をやりまくったり,人に頭を下げまくっていた苦労時代を思い出してしまうなど,泣けました。

とにかく,これは超オススメです。


今週見たのは,周防監督の我々の業界の話題作
「それでもボクはやってない」です(ごくごく一部ネタばれ注意!!)。

ほんとにリアルで,全く映画を見ているような気がしませんでした。
刑事裁判における法曹界の問題や悩みがよく出ていたように思います。
そこから類推すると,おそらく我々があまり見ることがない警察署や検察庁の中の出来事,取調べや監獄の中のこともきっとリアルに再現されているのでしょうね。

特に裁判劇の方は,ごくごく普通に行われていることで司法研修所の作った教材用のビデオを見ているような雰囲気でした。

この映画のいいところは,
①リアルであること,
②刑事司法の問題点や悩みをよく出していること(無罪推定原則の形骸化,裁判所・検察・警察・弁護士の理想と現実のギャップなど),
③主人公が本当にやっているかいないかがはっきりあえてさせず,とにかくやっていないと言い張っている被告人の目を中心に刑事裁判をとらえていることでしょうか。

個人的に一番印象に残ったシーンは,
主人公の友人が居酒屋で,保釈の要件を自慢げに話しているのですが,見事に間違っていたことでしょうか。
(刑事訴訟法60条では「逃亡のおそれ」があることが勾留の要件とされていますが,刑事訴訟法89条では,保釈には「逃亡のおそれ」があるかどうかは関係ないとされています。)
多分わざとなんでしょうね。
しかも弁護士ではなく素人に言わせ,同席している弁護士役の役所さんや瀬戸さんは何も突っ込ませていないのも,微妙な感じがリアルで,面白かったです。

話が変な方向に行きましたが,とにかく
これも是非一度ご覧になる価値がある映画かと思います。

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サラクレ無料相談

2007年03月04日 | ⑤法律問題について
私の所属している弁護士会で今年の1月から,いわゆるサラクレ事件,個人でサラ金(今は消費者金融と言っているらしい)とクレジットの支払に困っている人ための無料相談を始めました。

司法書士等が同じようなことをやっていて,依頼者を食われるからいうのが本音らしいです。
まあ依頼者を取られるお金の問題だけではなく,司法書士の申立事件でいい加減な事件が比較的たくさんあって,破産管財人が苦労するのも困るというのもあるらしいですが。
とはいえ,うちの弁護士会の中では比較的司法書士の先生方が頑張っておられるらしく,簡単な案件は司法書士のほうがいいかもしれませんが,やはりややこしい案件は弁護士に頼まないとしんどいというのはあるんでしょうね。

先日,私はこのサラクレ無料相談に行ってきたのですが,相談者のひとりがおっしゃるにはTVコマーシャルを見て来たとか。
本当がどうかはよくわかりませんが,とうとう弁護士会もTVコマーシャルをするようになったのですね。
せっかく作ったいい制度を広く世間に知ってもらいたいというのはいい感じと思いますが,もっと知ってもらった方がいいこといっぱいあるやろと思うのですが,組織というのはお金の問題から動くのでしょうかね。

このサラクレ無料相談は,弁護士もボランティアで行くので,同じ弁護士会所属の弁護士には人気はなく,約月イチで順番が回ってきます。

私は,このようなボランティアも弁護士の仕事の一部かなと思いつつ行ったのですが,TVコマーシャルのせいか,弁護士にとってはいい事件ばかりでびっくりしました。
サラクレ事件で弁護士にとっていい事件と言ったら,少し前にこのブログで紹介しました「過払金返還請求事件」です。
これは弁護士や司法書士がやるとほぼ100%勝てて,依頼者にお金が返って来るというものです。
依頼者の方には,借金がなくなるだけでなく,お金まで返ってくるというので,とても感謝されますし,弁護士も楽に勝て,弁護士費用自体も過払金で十分すぎるほどまかなえるので,とてもありがたい事件です。

ちなみに,相談者のおひとりから聞くには,相談者が個人で貸金業者に請求しても業者はなかなか受け付けてくれないそうです。
その相談者は一人で取り返せず弁護士費用を取られることを非常に悔しがっていて,結局弁護士費用をかなり値切られました。
この方が自分で取引の履歴を取ってきており,こちらが貸金業者から取る手間が省けたので,私は特別に少し値切りに応じました。

過払金は,25%以上で貸しているところで,だいたい平成8年か9年ころから借りてほとんど遅れずに返している人に発生することが多いです。

私が行ったサラクレ無料相談では,6件中5件が過払金が少なくとも一部は発生している事件で,その5件すべて受任して帰りました。
しかも,そのうち1件は,昭和の時代から借り続けていて,取引履歴を計算し直すと,なんと過払金が1000万円超えちゃいました(ここまで多額になることはとても珍しいですが)。
おいおいどんな借り方と返し方してたんや。
ほとんどこの20年間,サラ金のために生きていたということやないかい。
ほんま可哀想なことでしたが,弁護士を依頼してその努力が少しは返ってくることになりますね。
まだ依頼者には報告していないけど,報告したらきっと大喜びされるのではないでしょうか。
早く依頼者の喜ぶ顔が見たい!!

うちの地域ではほとんどこういう事件は解決済みだと思っていたのですが,意外に埋もれているものですね。
TVコマーシャルのおかげで,こういう事件がたくさん埋もれていることがよくわかりました。

過疎地ではこういう事件がたくさん埋もれているらしいです。
田舎の人はサラ金から借金していることが人に知れると恥だと思っている人が多く,人知れず苦労して払い続けているそうです。
これはサラクレ相談だけでなく,他の事件でもたくさんの人が泣き寝入りして我慢し続けているということを示しています。

法テラスやひまわり公設事務所が全国津々浦々まで浸透し,弁護士過疎が本当の意味でなくなったこういう泣き寝入りする人が少なくなるのでしょうかね。

逆にいうと,現在就職で困っている修習生は,弁護士過疎地にはいくらでも事件が埋もれている可能性が大なので,是非積極的に弁護士過疎地に行かれてはいかがでしょうか。
当初は,こういう過払事件ばかりに負われるかもしれませんが,それはそれでいいかせぎになるので今後の貯蓄になるでしょうし,その他一般事件についてもたくさんあるでしょうから,きちんと勉強さえし続ければ,都市に戻ってきても弁護士として十分通用するはずです。

私は結婚していたので,地元を離れることはできなくて,過疎地には行けませんでしたが,若い人なら数年行って戻ってくることもできるはずです。

是非これから法曹を目指す若い人たちには,企業法務や渉外だけでなく,過疎地や本当に困っている人のために働ける仕事にも目を向けて行ってほしいものです。

中途半端な町の弁護士をやっている私には,数年過疎地に行くのはとても魅力的な感じがします。

また,10年以上高い利息を払い続けている人は,是非法律事務所(弁護士の事務所)の門をたたいてほしいと思います。
借金苦から逃れられるだけでなく,運がよければお金が返ってくる可能性がありますので(10年以上借入れしてない人も弁護士に依頼すれば借金を大幅に減らすことができる可能性が高いです。)。

ちなみに私個人もサラクレ相談は無料でやっておりますので,10年以上とはいわずお困りの方は,気軽に相談下さい。
しかるべきアドバイスまたは事件処理をさせて頂きます。
くわしくは,deppa@mail.goo.ne.jp までメール下さい。

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