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H16年商法第1問

2004年07月20日 | ③H16年司法試験論文試験再現答案集
【問題】
 P株式会社の代表取締役Aは,第三者割当ての方法で,取引先Q株式会社に対し,発行価額50円で大量に新株を発行した。P社株式の株価は,過去1年間1000円前後で推移していたが,この新株発行により,大幅に下落するに至った。ところで,この新株発行は,取締役会の決議を経てはいたが,株主総会の決議を経ないままされたものであった。
 P社の株主Bは,商法上どのような手段をとることができるか。新株発行事項の公示(商法第280条ノ3ノ2)がされていなかった場合はどうか。

(出題趣旨)
 本問は,株式会社において違法な新株発行が行われた場合に,不利益を受ける旧株主には,商法上どのような救済手段が存在するかを問う問題である。具体的には,株主総会の特別決議を経ることなく,株主以外の者に対し特に有利な価額で新株が発行された場合に,旧株主は,当該新株発行の効力を争うことができるか,関係者の民事責任を追及することができるか,当該新株発行事項の公示がされていなかった場合はどうかについて,判例・学説の状況を理解した上で,整合的に論述することが求められる。


【実際に私が書いた答案】(再現率85%~90%)評価A(7287人中2000番以内)

1 設問前段
(1)本問新株発行は,株価が過去1年間1000円前後のP社株式を50円で発行するものであり,明らかに「株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル発行価格」(280条ノ2第2項)による発行であり,株主総会の特別決議(343条)が必要である。
 にもかかわらず,本問新株発行は,株主総会決議を経ずになされており,違法な新株発行である。また,かかつ新株発行は。P社株主に対して,株価を大幅に下落させるという経済的損害を与え,大量発行により持株比率低下させるという損害を与えている。
 そこで,P社株主Bは,かかる新株発行に対して,いかなる手段をとりうるか。

(2)代表取締役Aや他のP社取締役に対する手段
ア かかる違法な新株発行をなした代表取締役AやAの行為を承認した取締役は,266条ノ3第1項により連帯してBの受けた株価下落の損害を賠償する責任を負い,Bはこれらの者にかかる賠償請求をなしうる。

イ Bが6月以前より総株主の議決権の100分の3以上の株式を保有する場合には,株主総会を招集することができ(237条),取締役の解任決議案(237条1項)を提出できる(232条ノ2)。
 そして,かかる解任決議案が否決されても,100分の3以上の株式を保有するBは,裁判所に取締役の解任請求をなしうる(257条2項)。

(3)P社監査役に対する手段
ア P社監査役は,Aらの違法な新株発行を監査する義務を怠った場合には,278条により,Aらと連帯してBの受けた経済的損害を賠償する請求を負い,BはP社監査役にかかる賠償請求をなしうる。

イ かかる場合,Bが,6月以上前から議決権の100分の3以上の株式を保有する場合は,Bは,P社監査役を取締役の場合と同様解任請求をなしうる(280条,257条)。

(4)Q社に対する手段
 P社株式は,過去1年間1000円前後で推移していたのであるから,本件新株発行が「著シク不公正ナル発行価格」によるものであることは明らかであるので,Q社は代表取締役Aと共謀したものといえ,280条ノ11により1000円と50円の差額950円にQ社が引き受けた株式数を乗じた金額をQ社はP社に対して支払う義務を負う。
 そして,Bは,株主代表訴訟により,Q社にP社に対して上記金額を支払うよう請求しうる(280条ノ11第2項)。

(5)新株発行無効の訴え
ア Bは,280条ノ2第2項違反の瑕疵を理由に新株発行無効の訴えを提起しうるか。280条ノ2第2項違反の瑕疵が無効原因になるか,280条ノ15の明文上無効原因が明らかでないことから問題となる。

イ 新株発行の無効は,新株主や増資を信用して新たに取引した会社債権者に不測の損害を与えるので,無効原因は厳格に解すべきである。具体的には,他の手段によっては瑕疵が回復し得ないような重大な瑕疵がある場合に限り無効原因になると解する。

ウ 本問では,Bは,まず持株比率の低下の損害を受けているが,割当自由の原則(280条ノ2第1項)から,持株比率はそもそも保護されていない。
 また,Bの株価下落の損害については,前述の損害賠償等の手段によって回復しうる。
 よって,Bは新株発行無効の訴えを提起し得ない。

2 設問後段
(1)AやP社取締役や監査役,Q社に対する手段については,設問前段と同じである。

(2)新株発行無効の訴え(280条ノ15)を提起しうるか。
 280条ノ3ノ2の公告は,新株発行差止請求(280条ノ10)の前提であり,これがなされないと,かかる差止制度が無意味になる。
 そこで,公告がされても新株発行差止ができない等の特段の事情がない限り,他の手段では瑕疵は回復されないので,原則無効原因になる。
 本問では,280条ノ2第2項違反でBら株主に経済的損害を与えているので,差止請求でき,上記特段の事情はない。
 よって,Bは新株発行無効の訴えをなしうる。

以上


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