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H16年憲法第1問

2004年07月20日 | ③H16年司法試験論文試験再現答案集
【問題】
 13歳未満の子供の親権者が請求した場合には,国は,子供に対する一定の性的犯罪を常習的に犯して有罪判決が確定した者で,請求者の居住する市町村内に住むものの氏名,住所及び顔写真を,請求者に開示しなければならないという趣旨の法律が制定されたとする。この法律に含まれる憲法上の問題点を論ぜよ。

(出題趣旨)
 前科に関する情報を公表されない個人の利益と子供の安全のためにその情報を得る利益が対抗関係に立つような法律が成立したと仮定して,当該法律の憲法上の問題点につき,それぞれの利益の性質やその重要性等を踏まえながら,その立法目的や具体的な利益調整手段の在り方を論理的に思考する能力を問うものである。


【実際に私が書いた答案】(再現率85%~90%)評価A(7287人中2000番以内)

1 本問法律は,一定の犯罪を犯した者の氏名・住所・顔写真の開示を国に認めるものであり,その者のプライバシー権を侵害し違憲とならないか問題となる。

2(1)プライバシー権は,憲法上明文がないが,憲法上保障される人権か。
 この点につき,憲法上明文がない権利であっても,個人の人格的生存に不可欠な利益については,個人の尊重の原理(13条前段)に直結する幸福追求権(13条後段)により具体的権利として保障される。
 高度に情報化された現代社会においては,個人が自己情報をコントロールすること(情報プライバシー権)が,人格的生存に不可欠である。
 よって,かかる情報プライバシー権は,13条後段により保障される。

(2)本問の一定の犯罪者の氏名・住所・顔写真は,その者が犯した犯罪と結びつけて開示されると,その者の自律した個人としての生活を困難にするものであるので,情報プライバシー権として13条後段により保障される。

3(1)もっとも,かかる情報プライバシー権も,全く無制限に保障されるものではなく,人権相互間の矛盾・衝突を調整する実質的公平の原理である公共の福祉(13条後段)によって制限を受ける。

(2)では,本問の制限は,公共の福祉による制限として許されるか。その合憲性判定基準が問題になる。
 情報プライバシー権は,前述のとおり個人の人格的に生存に不可欠な極めて重要な権利である。
そこで,その判断基準は,厳格な基準,具体的には,規制目的が重要で,その手段がより制限的でない他に選びうる手段がなければ合憲とする基準によるべきである。

(3)ア 本問では,その規制目的は,子どもを性犯罪から守ること,及び,そのために性犯罪を抑止すること,また,国民の知る権利(21条1項)を実現することにあり,極めて重要である。

イ そして,その手段は,一定の犯罪者の氏名・住所・顔写真を開示することである。
確かに,本問法律は,その請求権者を13歳未満の子どもの親権者に限定し,また,開示される者も,子供に対する一定の性的犯罪を常習的に犯して確定判決が確定したものと厳格に限定され,さらに,開示の範囲も,請求者の居住する市町村に住む者に限定されており,より制限的でない他に選びうる手段はないようにも思える。
 しかし,高度に情報化した現代社会においては,インターネットやデジタルカメラ等が普及しており,13歳未満の子供の親権者である者が,秘かに開示された者の全情報をデジタルカメラでとり,インターネットに載せることもあるし,13歳未満の子供を持たない者でも,13歳未満の子供をもつ知人や,他の地域に住む者に頼み,これらの情報を容易に取得することができ,請求権者等の限定は,あまり実効的な限定とはいえない。
 また,氏名・住所・顔写真が知れ渡ってしまうと,その者はいわゆる村八分のような状態に陥り,人間としての人格的な生活が著しく困難になってしまうおそれが強く,その被害は刑罰より重大なものともいえる。
 一定の犯罪者の人間としての生活を著しく困難なものとしてくても,13歳未満の子供を性犯罪から守ることは,13歳未満の子供に対する常習の性犯罪を特に厳しく処罰したり,周りの大人が知らない人には連いていかないよう教えるなどの自衛手段によっても達成しうる。また,知る権利は,裁判の公開(82条)やマスコミ等の報道によっても十分確保される。

ウ 以上からかんがみれば,本問法律の目的を達成するためのより制限的でない他に選びうる手段はあるといえる。

(4)よって本問法律は,13条後段に違反し違憲である。

以上



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