弁護士NOBIのぶろぐ

マチ弁が暇なときに,情報提供等行います。(兵庫県川西市の弁護士井上伸のブログです。)

PRDC債について

2012年02月16日 | ⑨投資被害
NOBIです。
実は,私の名前がWikipedia(ウィキペディア)の仕組債の記事の一部に載り,Wikipediaでプティデビューをしていて,ひそかに喜んでいました。
その仕組債の記事*は,「井上伸弁護士は、仕組債(PRDC債)について問題を指摘している(2009年11月25日)」という内容のものでした。
これは,神戸先物・証券被害研究会のHP*内の1ページを引用しているものでしたが,このたび神戸先物・証券被害研究会のHPがリニューアルし,その結果,Wikipediaで引用しているページが削除されてしまいました。

修習生時代は,目立つの嫌いつつましかった私も,弁護士としてのキャリアを積み,独立し,証券被害弁護士として,まさに売りだそうとしている最中で,いつの間にか,人前で話をすることについての苦手意識も少なくなり,少しくらいは目立ちたくなるという性格になってしまいました。
そのため,神戸先物・証券被害研究会のHPに該当記事を復活するように,研究会のHP担当者に言ったのですが,HP担当者がなかなか載せてくれません。
そこで,昔の原稿を探し出し,ここで紹介しようと思った次第です。
(昔の私からすれば考えられない目立ちたがりであり,とんだ醜態ですね・・・)

言いわけは置いておいて,とにかく,以下,その記事を引用します。


最近,地方公共団体や大学がPRDC債等の仕組債(デリバティブを組み込んだ債券)を保有し,時価評価で含み損を出していると,新聞や雑誌で報道されることがありました。
まだ明るみに出ていませんが,地方公共団体や大学以外にも,宗教団体,財団,医療法人等の団体,個人でいうと富裕層を中心に被害が出ているものと予想されています。我が兵庫県は,特に,地方公共団体の被害が全国的に見ても多いとされています。

PRDC債とは,パワー・リバース・デュアル・カレンシー債の略で,簡単にいうと,元本部分が円建て,利息が為替相場に連動する債券のことです。
PRDC債は,公募ではなく私募で発行され,顧客のニーズに合わせてオーダーメイドされることが多いので,一概には言えませんが,多くのPRDC債の特徴は次のとおりです(注:すべてのPRDC債に当てはまるわけではありません。)。
① 金利(クーポン)が,1年目だけ固定で他の債券に比べ非常に高く設定されている(元本保証されるもので3~5%。元本割れの危険があるもので10%程度)。2年目以降は為替相場に連動し,円高が進むと最悪の場合,金利が0%になってしまう。ただし,金利が0%になるのは,各契約内容にもよるが,購入時から1米ドル当たり30円弱~40円程度円高になった場合である。
② 償還期限は20~30年と超長期であるが,円安が進んだ場合または一定の金利が支払われた場合には,自動解約される条項(トリガー条項)または発行体が解除できる条項(コール条項)が付いている。その条件を満たした場合には,早期償還の可能性がある。逆に,購入客の側から解約することは原則できないことになっているか,多額の違約金が発生することになっている。
③ 債券の発行体は,高格付を取得した金融機関(海外政府系金融機関等)である。

 以上の特徴を踏まえ,PRDC債は,「元本が保証され,発行体も高格付で信用できる安全な債券」「他の債券よりも高金利な債券」「このままほとんど円高にならなければ,早期償還され,短期で利回りのよい債券」として,売り出されることが多いです。

 はたして,本当にPRDC債は,安全で利回りのよい債券なのでしょうか。
 PRDC債のリスクには以下のようなものがあります。
① 円高が進むと期待していた金利より低い金利になり,20~30年もの超長期間元本が償還されず,資金が塩漬けになる。
② 債券には時価があるが,金利が下がるとPRDC債の時価評価が大幅に下がってしまう。
③ 塩漬けを避けて途中解約しようと思うと,多額の違約金が発生する。また,解約が原則できないものについては,オーダーメイドで発行されたものであり,取引市場もなく,転売が事実上不可能で,時価以下の金額で発行体等に買い取ってもらうしかなくなる。このように,円高が進むと大幅な元本割れを起こしてしまう可能性がある。
④ 20~30年後には元本が保証されるとしても,20~30年後には物価が上がり,貨幣価値が下がっている可能性が高く,実質的に大きく損をしてしまう(ちなみに,物価は日本の場合35年で10倍になると言われています。)。
⑤ 発行体が高格付なのは,その発行体自体であって,PRDC債自体ではなく(目論見書には,格付は「参考」とされている。),20~30年後の発行体の信用力は保証されていない。

PRDC債が安全で高金利である債券であるということについては,円高がさほど進まないことという前提になっています。
しかし,相場というものは予想不可能であり,必ず,大幅な円高が起こらないという保証はどこにもありません。現に,一時的ながら,1995年に1米ドル=70円台まで下がったこともありました。
また,現在の経済の常識的見解では,現在,円高傾向にあるようです。実際に金融機関のシミュレーションでPRDC債の金利が0%になるというものもあります。

 PRDC債は,一件安全に見える点で問題がある商品です。上記のリスクについて十分な説明がなされているかが,ポイントになると思われます。
また,解約権が購入顧客にとって一方的に制限されている点でも問題がある商品と思われます。
以上

(参考)吉本佳生「デリバティブ汚染」講談社
    週刊ダイアモンド2009年10月17日号p74以下