◇カティンの森(2007年 ポーランド 122分)
原題 Katyn
staff 原作/アンジェイ・ムラルチク『死後 カティン』 監督/アンジェイ・ワイダ 脚本/アンジェイ・ワイダ、ヴワディスワフ・パシコフスキ、プシェムィスワフ・ノヴァコフスキ 撮影/パヴェウ・エデルマン 美術/マグダレーナ・ディポント 衣裳デザイン/マグダレナ・ビェドジツカ 音楽/クシシュトフ・ペンデレツキ
cast マヤ・オスタシェフスカ ダヌタ・ステンカ アグニェシュカ・カヴョルスカ アンナ・ラドヴァン
◇1943年4月13日、カチンの森虐殺事件報道
たしか歴史の授業では「カチンの森」と習ったような気がする。
だからぼくはずっとカチンで通してきたから、それに従う。ま、それはともかく、カチンの森で虐殺に遭ったポーランド国軍の将校と兵士らの数は今もってよくわからない。4421人と公式な文書にはあるみたいだけど、それが真実だとはかぎらないし、実際、ソ連が出した射殺命令書の人数はほかの地域のと合わせると25,700人いて、その内21,857人が殺害されたらしい。けど、それは氷山の一角で、戦時中、ロンドンのポーランド亡命政府はソ連に対して約25万人ものポーランド軍兵士と民間人が行方不明だと告げ、その消息を質している。けど、ソ連はまったく知らぬ存ぜぬを通した。ひでえ話もあったもんだ。
その恐るべき実態のかけらとなったのがカチンの森の虐殺死体発見で、これについてアンジェイ・ワイダが渾身のおもいで撮ったのがこの作品らしい。まあ、ワイダのインタビューとかで父親がカチンの森の犠牲者であったとか、けれど自分が撮ろうとしたのは個人的なものではなくカチンを核にした当時の実際と祖国ポーランドの戦中戦後史なのだというような話は、ここでは書かない。だって、もういろんなところに出てるしね。
で、映像なんだけど、ひたすら重かった。
象徴的だったのが主人公の女性ふたり、マヤ・オスタシェフスカとダヌタ・ステンカが国境となってる川の上ですれちがうところだ。マヤは夫に会うためにソ連の支配地域へ、ダヌタは大将となっている夫の消息をたしかめるためにドイツの占領地域へ向かうんだけど、もちろん、移動しているのは彼女らだけじゃなくて、橋の上もたもともそこへ至る道もどこもかしこも難民があふれてる。難民たちはドイツとソ連によって分割された祖国の中を右往左往するだけで結局どこにも行き場がない。こんなめちゃくちゃな話はなく、いったい、当時のナチスやソ連はなにをしたかったのかよくわからない。ソ連の虐殺にいたっては戦勝国という隠れ蓑を着たまま、20世紀の終わりまで秘密にされてきた。マヤとダヌはそれぞれがその秘密を知らぬまま、ひたすら夫の帰りを待つことになる。これが誇り高く描かれてはいるんだけど、いやもう重い。重量級のぐったり感だ。
ワイダはさすがに上手いな~とおもうところももちろんあった。マヤの夫が手帳にいろいろと書き留めていることで、これが事件の直前まで書き記されているため、手帳の回想というふしぎな視点をもたらしてくれる。それとセーターの使い方が上手で、発掘された死体の中にセーターを着ている兵士が発見されたんだけど、それは夫ではなくセーターの持ち主だということで、夫の消息は未確認とされる。このあたり、伏線もあってよくできてる。
まあ、なんというか、とにかくリアルに徹してるのはひとりひとりの兵士を処刑していく件りとかもそうで、マヤの曾祖父もまたカチンの犠牲者だったらしいから、スタッフ・キャストともに凄まじい執念をもって撮り上げたんだろうってことはほんとによくわかる。観てる方はけっこう辛いものはあったけどね。
でも、おもいきり、ちからは入ってた。
監督となったからには撮らざるをえない映画ってのがあって、ことにワイダはポーランド史と共に映画人生を送ってきたようなものだから、この映画に行きついたのはまったく無理もないし、それだけ堂々とした大作だったことはまちがいない。