◎イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密(2014年 イギリス、アメリカ 114分)
原題 The Imitation Game
監督 モルテン・ティルドゥム
◎時として誰も想像しないような人物が想像できない偉業を成し遂げる
ベネディクト・カンバーバッチをはじめて映画で観たとき、たぶん『アメイジング・グレイス』だとおもうんだけど、なんだか妙に上品で背のひょろっとした鼻の下の長いのっぺりした顔のふしぎな役者が出てきたな~とおもい、こいつ絶対に変な奴だろな~ともおもったりしたものだ。
ところが、この妙に気になるやけに自信たっぷりで困っちゃうくらいに堂々とした変な役者はその他の追随を許さない完璧な演技でどんどんと頭角を現し、やがてテレビシリーズの『シャーロック』で、誰もが絶賛してやまないだろうきっと、とおもえるような当たり役を得、ついにこの映画にも主演した。なんでこいつが世界でいちばんセクシーだとかいわれるんだ、おかしいだろそれ、みたいなことをおもったりもしていたんだけど、このどうにも気になるナメクジとウーパールーパーを足して2で割ったような長い顔とひょろりんとした体格のみょうちくりんな役者は今やおしもおされぬ大スターになってしまった。なんでかね、まったく。
それはともかく、ナチスの作り出したエニグマほど、過去に何度も映像化や小説化された暗号機はないだろう。でも、そのとき、この暗号の解明に挑戦していたアラン・チューリングが描かれていたかといえばどうもそうではなさそうだ。だって、ぼくは、おぼえてないんだもん。まあそれだけエニグマについては多方面からアプローチしても尚、語り尽くせないところがあるんだろうけどね。ただ、この映画が世界的な成功をおさめ、いろんなところで絶賛されるのはやっぱりアラン・チューリングが主役とされているからなんじゃないかしらね。
映画そのものはなにも恐ろしいほど感動的ってわけでもないし、暗号解読を臍にした映画というだけであればそれほど特出するべき筋立てでもない。ところがアラン・チューリングが当時としては違法とされる同性愛者であり、戦後になってそれが図らずも暴露されてしまったときに去勢やホルモン療法かを選ばなければならなくなり、まあアラン・チューリングは後者を選んだんだけど、そういう別な側面が絡んでくるものだから、筋立てがちょっとばかり込み入ってくるし、そこへさらにアラン・チューリングを愛してしまったジョーン・クラーク(演じたのはキーラ・ナイトレイね)が描かれ、女性蔑視の時代から女性の自立を招いた生き方についても同時に描かれているものだから、同性愛と女性解放というふたつの側面を併せ持った暗号解読ドラマとして成立しているんだな、これが。ま、そんなこともあって、人権派の人々をはじめ色んな人達がこの映画を後押ししてるんじゃないかしらね。
ところで、音楽がいい。アレクサンドル・デスプラ。ピアノの主旋律が美しいんだよ。
(以下、2022年12月29日)
チューリングマシンのできた背景は何度観ても「ほう、コンピューターの前身ってこんな感じだったのかあ」とかって納得し直すんだけど、同時に「それもエニグマへの挑戦ってのが味噌だよなあ」ともつくづくおもったりする。それにしてもカンバーバッチ、うまいな。気弱ながらも意思の強い同性愛者、見事だわ。みんな、うまいんだけどね。