◇キャスト・アウェイ(2000年 アメリカ 144分)
原題 Cast Away
staff 監督/ロバート・ゼメキス 脚本/ウィリアム・ブロイルズ・ジュニア 製作/スティーヴ・スターキー、トム・ハンクス、ロバート・ゼメキス、ジャック・ラプケ 撮影/ドン・バージェス 美術/リック・カーター 衣装/ジョアンナ・ジョンストン 音楽/アラン・シルヴェストリ
cast トム・ハンクス ヘレン・ハント ジェニファー・ルイス クリス・ノース
◇FedExとWilson
ハリウッドの俳優はときおりとてつもない減量をしたり、強靭な肉体を造ったりする。かれらの芝居に対する態度はとても真摯なもので、こういうところ、どの国とはいわないが、役者なのかタレントなのかよくわからない中途半端な感じのする人々は見習ってほしいとおもったりする。その昔、老いさらばえた役だからと歯を抜いてしまった役者もいるにはいたが、ハリウッドの役者たちのような凄さはもうない。
で、トム・ハンクスなんだけど、がんばってる。
物語の出だしと最後では体重差が25キロあるそうだ。たしかに痩せこけてる。たいしたものだっておもうし、髪や髭についても同様だ。もっとも、かれの場合、もともと大柄なせいもあってそんなに減量したのかっておもわせちゃうところもあるけど、全編の約8割をひとりで芝居しなくちゃならなかったわけだし、当然、その肉体も目立つことがわかってるから徹底した減量とメイクの必要には迫られたにちがいない。役者根性の凄さだ。
ロバート・ゼメキスはこういう大掛かりなエンターテイメントはお得意なんだろうけど、それでも相当な予算が掛かったんだろうか。国際航空貨物取扱業のFedEx Corporationの敏腕社員という設定で、もう画面のいたるところにロゴが登場する。けど、FedExもたいしたものだなっておもうのは、自社の航空機が墜落し、荷物もばらばらになったりして、もう大変な状況に追い込まれる話ながら、文句のひとつもつけないところだ。映画と現実とは違うんだと胸を張っているところは、実にたいしたものだ。映画なんだから楽しんでくれればいいのさという声まで聞こえてきそうだ。タイアップってのはこうやってやるんだっていう見本みたいなものだよね。
タイアップといえばもうひとつ。
ウィルソン・スポーティング・グッズ社のバレーボールだ。そもそも、ぼくたち日本人にはあまり多くないかもしれないけど、アメリカ人は愛用品に名前をつけるのは大好きだ。だから、孤独な人生を送っている人間はときおり大切にしている物に名前をつけて話をする。たったひとりで無人島に漂着しちゃったんなら、なおさらだ。この設定がよくできてる。というのも、トム・ハンクスが怪我をし、おもわずバレーボールに血の手形がついてしまったことで、まるで炎の化身が刻印されたかのように見え、それにちょっと手をほどこしていかにも赤ら顔の相棒のようにして、ウィルソンと名づけるんだけど、いや、よく考えてるよね。
だって、孤独な人間にとって、独り言を喋るよりも、なにか話し相手になる物があった方がいいわけで、それは鏡の中の自分だったり、写真だったり、絵だったりするんだけど、ともかくそこに目鼻のある物でないと話し相手にはなりにくい。だからボールじゃダメなんだけど、手形による顔で、しかもそれが自分の血であればもはや分身に等しい。これでトム・ハンクスの鬱はすこしは治まるし、なにより観客に対して心模様を語って聞かせられるという抜群の効果まで生み出す。
劇中、トム・ハンクスは何度「ウィルソン」って呼ぶんだろう。もはや数え切れない。さらには途中からウィルソンにはなんの植物かわからないけど毛も生えて、どんどん擬人化が進んでくる。バレーボールだから当然受け答えてくれるわけもないんだけど、話が進んでいく内に妙な実在感が漂い始める。いや、実際、ウィルソンは大切な相棒となり、筏に乗って島から脱出していくときも一緒に行く。けど、やがて離れ離れになって海へ消える。これって、無人島という異世界から現実の社会へ戻るときの儀式のようにも感じられる。もはや、バレーボールの相手はいらない。これからは生きた人間が相手になるんだっていうような。ともかく、こういうところはうまい。
まあ、解釈はいろいろあるだろうけど、ウィルソン社にとってはほんとに拍手物だよね。
ところで、最後まで開けなかった羽の描かれた箱なんだけど、この中身については実はどうでもいい。トム・ハンクスがそれまでの恋人が待ってくれているものと信じていたところで、現実はなかなか夢のようにはいかない。いろんな事情と機会が重なり、別れざるをえなかった。ところが、Federal Expressの勇気ある社員トムは、この羽の箱を届けることにこだわる。それは自分の仕事に対する義務感や責任感つまりは誇りを最後まで持ち続けるってことにつながるんだろうし、なにか運命的なものを感じたのかもしれない。で、その運命は、羽をモチーフにしている芸術家で、しかも冒頭では結婚していたはずが最後の場面では離婚しているっていう展開で、ふたりの次なる恋へ導くものになるわけだから、中身なんざどうでもいいんだよね。
こういう展開は嫌いじゃないけど、ちょっとここにいたるまでが長いんだよな~。
もうちょっと刈り込めなかったんだろかっておもうんだけど、無理か~。