◎炎上(1958年 日本 99分)
監督/市川崑 音楽/黛敏郎
出演/市川雷蔵 仲代達矢 中村鴈治郎 北林谷栄 新珠三千代 中村玉緒 浜村純
◎追悼市川崑その5
打楽器に拘る音楽が良好。驟閣の小ささは気になるけど、美術も見事。撮影は言うことなし。美を汚されたものへの葬送となる海岸の荼毘と、堕した美を葬る炎もまた見事。
惜しむらくは、官能美への憧憬が物足りない事くらいだけど、それは、ないものねだりというものだろね。
◎炎上(1958年 日本 99分)
監督/市川崑 音楽/黛敏郎
出演/市川雷蔵 仲代達矢 中村鴈治郎 北林谷栄 新珠三千代 中村玉緒 浜村純
◎追悼市川崑その5
打楽器に拘る音楽が良好。驟閣の小ささは気になるけど、美術も見事。撮影は言うことなし。美を汚されたものへの葬送となる海岸の荼毘と、堕した美を葬る炎もまた見事。
惜しむらくは、官能美への憧憬が物足りない事くらいだけど、それは、ないものねだりというものだろね。
◇キル・ビル Vol.2(2004年 アメリカ 136分)
原題/Kill Bill : Vol.2
監督・脚本/クエンティン・タランティーノ 音楽/RZA ラーズ・ウルリッヒ
出演/ユマ・サーマン ダリル・ハンナ サミュエル・L・ジャクソン ゴードン・ラウ
◇エンディングは『怨み節』
棺桶ってのは、強烈だ。
子どもとの邂逅も含めて『ダブル・ジョパティ』にも同じような場面があったような。
西洋人は棺桶に閉じ込められる事に潜在的な恐怖があるらしいけど、実をいえば、ぼくもそうだ。
棺桶の中はやすらぐとか、癒されるとかいうけど、冗談じゃない。お葬式が終わって火葬場に移動してから蘇生したらどうするんだ。棺桶に入れられたまま火をつけられたらどうするんだ。そんなことを考えると、夜、眠れない。
究極的な閉所に閉じ込められるようなもので、この恐怖の引き金になったのは、江戸川乱歩の『白髪鬼』だったんじゃないかっておもうんだけど、そういえば『白髪鬼』も復讐の話だったんじゃないかな?
ま、それはさておき、服部半蔵役のサニー・千葉の出番はちょっとで、物語の上では余計なことかもしれないけど、やっぱりもう少し活躍してほしかったわ。なんだか、おまけ的な印象だったし。
◇キル・ビル Vol.1(Kill Bill: Vol.1 2003年 アメリカ)
原題/Kill Bill : Vol.1
監督・脚本/クエンティン・タランティーノ 音楽/RZA ラーズ・ウルリッヒ
出演/ユマ・サーマン ダリル・ハンナ 千葉真一 栗山千明 大葉健二 國村隼 風祭ゆき
◇挿入歌は『修羅の花』
梶芽衣子の「やっちまいな!」という声が聞こえてきそうだ。
ま、ともかく、無国籍な迫力は超一流だ。
もちろん、作品中の日本は、タランティーノのオマージュに過ぎない。とはいえ、心象世界の中の日本として、十分に成立している。それと、冒頭のハードボイルドさは、尋常じゃないわ。さらにいえば、タランティーノの作品って、どうしてこんなに音楽がかっちょええんだろ?
この作品も、例外じゃない。
3日くらいは頭の中に響き続けるだろう。
そういうこともおもうと、梶さん、出演するべきだったんじゃないかな~。
◇星になった少年(2005年 日本 113分)
監督/河毛俊作 音楽/坂本龍一
出演/柳楽優弥 常盤貴子 高橋克実 蒼井優 倍賞美津子 加藤清史郎 武田鉄矢 佐藤二朗
◇Shining Boy & Little Randy
なんだか小品な印象がある。タイロケまでしてるのに、その割に、小粒な感じを受けちゃうんだよな~。
星になるっていう事実を、題名からして使ってるわけだから、そこらへんを話の臍に据えないのは、いったいなんでなんだろう?
そういう筋立ての疑問はさておくと、象の使い方は、いや、見事だった。一斉に泣く所とか。でも、そのあたり、感情を抑えたのは、果たして良かったんだか悪かったんだか、よくわからないけど。
◇トリック劇場版(2002年 日本 119分)
監督/堤幸彦 音楽/辻陽
出演/仲間由紀恵 阿部寛 生瀬勝久 山下真司 竹中直人 石橋蓮司 伊武雅刀 野際陽子
◇カムバック、前原一輝!
やっぱり、刑事のコンビはこの最初の組が一番ではないかと。
TV向きな話ってこともあるんだけど、でも、ユルイ世界観をきちんと残しているところとかは、きわめて満足だ。見るたびに新鮮さは失われちゃうけど、それはこういうマンネリを逆手にとった作品の宿命というしかないよね。
実際『トリック』でおもしろかったのはテレビでもいちばん最初のシリーズで、あのとき、阿部寛にも仲間由紀恵にもある種の切迫感があって、それはまじにリアルな切迫感だった。それをまったくもって開き直った観がありありと観てとれて、それはそれでなんともすかっとした雰囲気だった。
余裕が出てくると、マンネリを逆手に取った作品化しちゃって、それがかえって意識のマンネリっていうのか、思考のだらけ化っていうのか、本人が自覚したところでどうにもならないところに達してしまう。
むつかしいところだけど、この劇場版第一作目はそうした切迫感が達成感になった清々しさみたいなものがあって、なんともいえない若々しさもあったりして、なんとなく、いい。
◇それでもボクはやってない(2007年 日本 143分)
監督・脚本/周防正行 音楽/周防義和
出演/加瀬亮 瀬戸朝香 もたいまさこ 山本耕史 光石研 大森南朋 小日向文世 役所広司
◇西武新宿線第1事件
裁判と警察に対する庶民の怒りを、淡々と捉えてゆく手法を鑑賞していると、やはり漠然とした憤りを感じる。いかにも現実的な被害者の証言と結末にしたのは正解だったんだろう。
ま、それはさておき、なんでか知らないけど『帝銀事件』をおもいだした。戦後の日本は、大変な時代を迎えてた。陰謀がそこらじゅうで渦を巻いて、冤罪事件がいたるところで発生してた。それは軍隊がらみだったり政治がらみだったり、ともかくも熱い日々だったはずだ。
で、こんにち。まあ、いろんな免罪事件はあるものの、なんとも特徴的なのが、痴漢の疑いをかけられることだ。世の中、痴漢として貶められるのは、かなり恥ずかしい。それどころか、信望を失い、職も失い、ことによれば妻子も失う。ちんまい話になったといっているのではなく、これが、現代の日本のひとつの象徴でもあるということなんだよね。
そういう意味でいうと、うん、いいところをついてるとおもうわ。
◇日本橋(1956年 日本 111分)
監督/市川崑 音楽/宅孝二
出演/淡島千景 山本富士子 若尾文子 品川隆二 船越英二 沢村貞子 川口浩 浦辺粂子
◇追悼市川崑その4
様式美の発露は見られるし、男と女の如何ともし難い業の哀しさもよくわかる。
でも、もうすこし、鏡花らしい妖しさが欲しかったなと。
あ、品川隆二の二枚目時代は貴重だ。
ただ、セットはいかにも往時の代物で、こればかりは仕方ない。ただ、市電の走りっぷりは、頑張ってる。なんというか、市電がなくなり、東京の風景は変わり、日本橋ももう観る影すらない。でもさ、変わり果てたのは風景だけではないんだよね、たぶん。
だって、いまの時代に『日本橋』のような男と女の修羅場と合縁は見られないもんね。
ああ、それと、これは市川崑とは関係ないんだけど、映画化されたのは溝口健二の方が先で、1929年のサイレント映画だ。ところが、このフィルムはフィルムセンターにもなく、幻の作品なってる。う~む、観てみたいぞ。
◇突入せよ!あさま山荘事件(2002年 日本 130分)
監督・脚本/原田眞人 音楽/村松崇継
出演/役所広司 宇崎竜童 天海祐希 伊武雅刀 藤田まこと 天海祐希 串田和美 豊原功補
◇佐々淳行、当時指揮幕僚団
この「あさま山荘事件」が起こったとき、ぼくはまだ小学生だった。
でも、教師が授業なんてそっちのけで、教室に置かれてたテレビにかじりついていたもんだから、必然的にぼくたちも延々と観る羽目になり、気がついたら、6時間目まで全部、テレビ中継に終始してた。ところが、ちっとも画面に変化はないんだよ、これが。
でも、ぼくたちはずっとテレビ中継を観てた。のんびりした時代だった。
立脚点というか視点というか、撮り手の立場というのは、とっても難しい。原作が実際の担当官だから、突入側の視点になるのは否めない。でも、事件の背景や犯人側の心情もえぐってほしかった、という気分は捨てがたいものがある。
だって、主題が「あさま山荘」なんだから。
これを書き始めて、黒澤明の『暴走機関車』をおもいだした。ハリウッド版の脚本では、暴走する機関車にたまさか乗り込んでしまった人間たちの、それまでの過去が丁寧に語られていて、黒澤はそれが気に入らなかったらしい。活劇というのは、因縁話なんていらないんだっていう意見によるものだ。
この「あさま山荘」については、どうだろう?
突入する側の視点から描かれているから仕方がないんだけど、ぼくとしては「あさま山荘」にいる人間については知りたかったんだけど、突入する側の葛藤はその場での葛藤だけに留めてほしかった気もする。主役の家庭の話は裏話に留めておいてもよかったんじゃないかと。だって、観客は「あさま山荘」の攻防と真実が観たいし知りたいんだもん。
ちなみに、物語の展開もやや緩慢な印象ではあるけれど、いやまあ、撮影は頑張ってました。
◇処刑の部屋(1956年 日本 96分)
監督/市川崑 音楽/宅孝二
出演/川口浩 若尾文子 宮口精二 中条静夫 川崎敬三 中村伸郎
◇追悼市川崑その3。
佳境からラストのリズミカルなドラムと、血の海から路地へ這いずる川口浩の苦悶の対比は、いやもう、出色の出来映えだ。
メインタイトルのカットバックも良好。
でもそこにいたるまでの中身は、様式美はあまり感じられず、気弱な大学生の勘違い根性譚に終始してる。
なんでだろうとおもうんだけど、石原慎太郎の原作を読んでないから想像するしかないものの、もしかしたら、物語の構成そのものが、市川崑の様式と合ってなかったのかもしれないね。
ちなみに、助監督は増村保造。
◇ミリオンダラー・ベイビー(2004年 アメリカ 133分)
原題/Million Dollar Baby
監督・音楽・主演/クリント・イーストウッド
出演/ヒラリー・スワンク モーガン・フリーマン リキ・リンドホーム
◎Mo Chuisle
イーストウッドの才能にはいまさらながら敬服するしかない。演出や編集の冴えもそうだけど、音楽までも才能を持ってることに唖然とする。
けど、ときとして、イーストウッドは、物事に対して突き放した怜悧な見方を取る。そういうことからすれば、この作品は充当な展開と結末だし、アカデミー作品賞を獲得するのもわからないじゃない。
でもな~。夢物語を現実の嵐が吹き飛ばす構成はわかるにしても、夢や希望を叩き潰す必要はないんじゃないかともおもったりする。主題はいったいなんだったんだろうと、ぼくみたいに事象を深く探求できない人間には、ちょっとばかり見えにくい作品でもあったような気がするんだよね。
◇8人の女たち(2002年 フランス 111分)
原題/Huit Femmes
監督/フランソワ・オゾン 音楽/クリシュナ・レヴィ
出演/ダニエル・ダリュー カトリーヌ・ドヌーヴ ヴィルジニー・ルドワイヤン
◇ロベール・トマの戯曲
女優だったら、この舞台や映画には出たいだろうな~っておもわせるところが、この台本のいいところだ。
原作となってる戯曲が1961年に初上演されてるから、まあ、舞台が1950年代になるのは当たり前かもしれない。
そんなことはいいとして、おおむね、愉しかった。特に、ミュージカル仕立てになってるもんだから、なんにも知らずに観たこちらとしてはちょっとばかり戸惑っちゃうんだけど、でも、ドヌーヴの歌は嬉しかった。
んだけど、いくつになったのか、脂肪がぽってりとついちゃったかなと。哀しみのドヌーヴってところだわ。とはいえ、さすがに高い気位を守ろうとする哀れさは良いね。
◇アーサーとミニモイの不思議な国(2006年 フランス 104分)
仏題/Arthur et les Minimoys
英題/Arthur and the Invisibles
監督/リュック・ベッソン 音楽/エリック・セラ
出演/ミア・ファロー マドンナ デヴィッド・ボウイ ロバート・デ・ニーロ
◇声の出演は豪華
ベッソンらしからぬ一般的世界だったような気が。
それと、マドンナとデニーロとボウイはおまけの嬉しさがあるものの、アフリカとアメリカとどう繋がるか説明不足な気もしたりする。
「小宇宙を撮るなら山岸涼子の妖精王の方が好きよ」
ってな事をいっても仕方ないんだけど、少しばかりありきたりな印象を受けたのは、ぼくだけだろうか?
どういうわけか、ベッソンは世界的に人気だ。だから、ゲストも多岐にわたるんだろうけど、ね。
◇ゲゲゲの鬼太郎(2007年 日本)
監督/本木克英 音楽/中野雄太 TUCKER
出演/ウエンツ瑛士 井上真央 田中麗奈 大泉洋 室井滋 間寛平 小雪 西田敏行
◇鬼太郎初恋篇
とでもいうべきなんだろね。
どうせならCGを徹底的に多用するべきかと。
少年の願いが稀薄で、物語が自然開発阻止なのか親子の情愛なのか、焦点の定まらない昔馴染みな展開だったような気も。
なんていうか、詰め込み過ぎで、落ちついた印象がないのが残念でもあるし。
でもまあ、真央ちゃんが可愛かったし、これはこれでいいんじゃないかしらね。
☆墨攻(2006年 中国、日本、香港、韓国 133分)
監督・脚本/ジェイコブ・チャン 音楽/川井憲次
出演/アンディ・ラウ ファン・ビンビン アン・ソンギ ウー・マ ウー・チーロン
☆原作は森秀樹 酒見賢一 久保田千太郎
邦画、ではないとおもうんだけど、括りはどうなるんだろう?
どちらにしても、日本人が演じ且つ撮らなくて良かったとおもうわ。アンディ・ラウ、ええわ~。年食うにつれ、どんどん良くなってくるような気がする。ま、アンディもさることながら、絵作りが見事だった。
モブシーンもロケセットも良く、邦画だけ置いてきぼりにされそうな気がして、そっちが不安だ。
ただ、主役の設定がちょっとな~。高潔すぎるんじゃないかっておもうんだけど。それと、佳境のお涙頂戴にもっていくための伏線がちょっとな~。
◇明日の記憶(2005年 日本 122分)
監督/堤幸彦 音楽/大島ミチル
出演/渡辺謙 樋口可南子 吹石一恵 大滝秀治 香川照之 袴田吉彦 坂口憲二 木梨憲武
◇製作総指揮、渡辺謙、大健闘
映画はやはりプロデューサーの物だ。だって、作品賞を贈られるのはプロデューサーなんだから。ま、日本では製作総指揮にあたるのかもしれないね。にしても、渡辺謙、よく頑張ってるわ。拍手。
で、物語なんだけど、現実の辛さがこれからってあたりで、物語を切らざるを得ないのが少しね。
夫婦仲の良過ぎるのも、ちょっとね。
現実の若年性アルツハイマーがどんなものかはわからないけど、そりゃもう筆舌につくしがたい苦労があるんだろうし、そのあたりには食い込まずにいるのが、ちょっと異色の恋愛映画として成立してる所以なんだろう。
病気物はぼくはあんまり得意じゃないんで、これくらいしかいえない。