◇黒の試走車(1962年 日本 92分)
監督/増村保造 音楽/池野成
出演/田宮二郎 叶順子 船越英二 白井玲子 高松英郎 上田吉二郎 中条静夫
◇くろのテストカー
漢字にカタカナのルビをふることが、当時は流行ったんだろか?
漫画にもそういう傾向があったような気がするけど、カタカナがカッコイイ時代だったんだろね。
ちなみに、この映画は大映のサラリーマン・スリラーの第1弾で、黒のシリーズとも呼ばれた。
高度経済成長期のサラリーマンはまだまだ戦前の日本のひきずってる観があって、会社は戦場で、産業スパイにいたっては陸軍中野学校の卒業生なんじゃないかって観もある。
で、その鉄の扉の向こうに部署のある産業スパイ課をひきいているのが、高松英郎。星一徹みたいなおじさんだけど、過多な熱演で、生臭い話をより一層なまなましく演じてる。いや、まじな話、高松英郎の代表作かもってくらいの大熱演だ。
話のあらすじは、タイガー自動車とヤマト自動車のスポーツカー開発と販売の合戦なんだけど、タイガーの新車はパイオニアで、ヤマトの新車はマイペット。なんだか、いまの時代のぼくらは混乱しそうなネーミングだよね。
高松英郎の部下が田宮次郎なんだけど、恋人の叶順子がいい。貞操を守る女性にしては濃い雰囲気だけど、すごく綺麗だ。増村保造らしい演出で、ぶっきらぼうで、すてっぱちな台詞まわしなのが、なんともこの時代らしいし、それでいて、妙に突っ張った可愛らしさもある。
なんといっても、ふっくらした頬に、濃いめの眉と、大きな眼も印象的だけど、やけに肉感的なくちびるは、日本人ばなれしたバタ臭さが漂ってて、照明で目に支障をきたしたことで引退したみたいだけど、実に惜しい。
恋人のためにクラブに潜入し、試走車の情報を手に入れるどころか、ちからづくで敵方に貞操まで奪われながらも、冷たくあしらわれてゆくのを見てると、なんだか、主役は田宮次郎っていうより、叶順子なんじゃないかっておもえてくる。
ところで、試走車(テストカー)が完成した時の車体も、悪くない。これ、誰のデザインなんだろ?どこかに残ってないかな?
昔、京都の大映撮影所には、大魔神がずっと残ってた。いまは、調布多摩川の大映角川撮影所に行けば、大魔神もガメラもお目見えしてるけど、この試走車も残ってないかな~?もし残ってたら、展示してほしいってくらいだ。