◎男はつらいよ 寅次郎紅の花(1995年 日本 110分)
監督/山田洋次 音楽/山本直純
出演/渥美清 倍賞千恵子 吉岡秀隆 後藤久美子 前田吟 笠智衆 三崎千恵子 浅丘ルリ子
◎第48作 1995年12月23日
美作滝尾駅で駅長桜井センリが新聞の尋ね人欄を見ると、向こうに寅という構図で、寅が蝶々を捕まえようとするんだけど逃げられる。なんだか、不安な出だしだな。
で、美作の山車祭のタイトルバックで、久しぶりに帝釈天の山門に立つさくらから始まる。
シリーズの最後の出だしだし、つくづく、これでよかったとおもうわ。
それに、阪神淡路大震災のボランティアで映る行方知れずの寅というのもよかったんじゃないかしらね。
でもまあしかし、寅に世話になったとお礼にくる宮川大助の「寅がふられていなくなった」という報告に、さくらは「やっぱり、迷惑をかけたんですね、兄は」とあやまる。さくらは、結局、こういうあやまりどおしの半生だったってことなんだね。
ただ、満男が後藤久美子のお見合い結婚のショックで姿をくらますまで、寅は出てこない。
当然、寅の物語は進展しない。
たしかに、渥美清の体調を最優先されなくちゃいけないから仕方ないんだけど、そんな状態でも尚、撮影したということに驚くわ。
夏木マリも三人並びのタイトルになっちゃうのは仕方ないけど、せっかくの朝丘ルリ子のリリーがもったいない気もしないではない。ルリ子さんは山田監督に「寅と結婚させてください」と頼んだそうだけど、どうなんだろう。寅はどこまで幸せになってよかったんだろう。この長い長い寅の物語は、寅の成長譚でもあるわけだけれど、どうかなあ。
なんていうのか、やっぱり、48作中の白眉はリリーとの物語で、ときどき、それに匹敵するようなおもしろさの回はあったけれど、このふたりの物語は突出してた。そういうことからいえば、合わせて400分を超えるリリーとの物語は再編集して一本の映画にしてもいいかもしれないね。
その一方で、このところ挿入される甘ったるい歌謡曲は、すべていただけないな。なんで、挿入してたんだろう?
で、津山で卒業まがいの花嫁車押し戻し事件を満男が仕出かすわけだけれども、このあとようやく沖縄だ。
しかし、そうか。満男の逃避行の船長は田中邦衛か。じゅん~とはいわないで、沖縄弁だ。北海道から奄美大島に移っての共演か。成長というのは、いいものだね。邦さんもそうおもってたんじゃないかな。なんだかまるで関係ないけど、しみじみしちゃうよね。
朝丘さんは、あいかわらず啖呵を切る。寅は「ぐにゃちん」だそうな。
それにしてもなんだ、柴又の歓迎ぶりは。鼻つまみ者だから寅なわけで、ほんと、ここ数作はなんだかね。加計呂麻島まで犬塚弘のタクシーで行ってくれといって去ったところで終わってもよかったんじゃないかな。さくらの気持ちも伝わったわけだし、それで大団円な気もするけどなあ。
たしかに、神戸の長田地区の復興の現場に顔を出す寅の図というのも最後らしくていいかもしれないけど、チョゴリを着て踊る円陣はわからないでもないけど、う~ん、最終話だからねえ、寅の身近なところに収束した方が良かった気もするし、ひるがえって寅という存在がこの国のなにか大切なものになってしまったということからすれば震災復興の場で良かった気もするし、まあいずれにせよ、どうもご苦労様でした。