☆ドリーム・ホース(Dream Horse)
イギリスはときどきこういう珠玉のような映画を撮ることがある。
ただ、イギリスといってもこの作品はウェールズ作品といってもいいような感じで、とにかくウェールズ愛に満ちている。
ぼくは競馬の知識はないし、障害競馬についてももちろんわからない。だから、競馬については素人の集団に近いような市民農園で生まれて育てられたサラブレッドがレースで優勝するまでにどれだけの苦労があるのかもわからないんだけど、とにかくおもしろかった。素人の、それも未来に対する希望を失っちゃったような炭鉱町の労働者たちに希望の火を灯すことになるサラブレッドの物語なんて、さらにいうと、途中で安楽死させられるかもしれない重傷を負いながらも復活して重賞レースで優勝するまでになるなんて、まったくもって素敵じゃないか。
監督のユーロス・リンの演出が肩のちからを抜いてて絶妙なのは、途中で歌われる酒場の歌を、ラストのクレジットタイトルで労働者のテーマソングみたいにみんなで歌うところだ。物語とはまるっきり関係のない、男と女の「いやいやこれまじあるだろ」的な情景の歌で、これがまた好い。
『通りかかると彼女の家の窓に明かりが
ブラインド越しに揺れる男女の影
あいつは俺の女だった
浮気されたと知って俺はキレちまった
ちくしょうめ デライラ
何でだよ デライラ
つきあうべきじゃなかった
なのに沼にハマってしまった
明け方 男が去るまで待った
家を訪ねたらあいつはドアを開けた
笑いながら立ってやがった
俺はナイフで笑顔を葬った
ワァイ ワァイ ワァイ デライラ
ワァイ ワァイ ワァイ デライラ
警察がやって来る前に
俺を許せ 耐えられなかった』
しかしなんといっても好いのは主演のトニ・コレットで、彼女のひらきなおったような演技はじつに好かった。