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アンダー・ザ・スキン 種の捕食

2014年11月14日 21時37分04秒 | 洋画2014年

 ◇アンダー・ザ・スキン 種の捕食(2014年 イギリス 108分)

 原題 Under the Skin

 staff 原作/ミッシェル・フェイバー『Under the Skin』 監督/ジョナサン・グレイザー 脚本/ジョナサン・グレイザー、ウォルター・キャンベル 撮影/ダニエル・ランディン 音楽 /ミカ・レヴィ

 cast スカーレット・ヨハンソン ジェレミー・マクウィリアムス クリシュトフ・ハーディック

 

 ◇捕食することの意味?

 ヨハンソンが一枚一枚服を脱いで男を誘い込み、コールタールの海の中に沈めて体内の水分をなにもかも吸収してしまうという、ただそれだけの狩りを続けているわけだけど、このコールタールなのに水中に入っちゃうと透明にも感じられる不思議な海の正体はいったいなんなのだろう?

 森の中でレイプされかけたときに現れるヨハンソンの正体もまた真っ黒な生命体なんだから、おそらくはあのコールタールの海は映像的な象徴であって、おそらくは異星人であろうヨハンソンの正体が咥え込んで、皮だけ残してすべて吸い取ってしまったのだと考えるのがいちばん妥当なのかもしれない。

 ただ、ヨハンソンの捕食する相手は常に男で、それも海に落ちた夫婦を助けようとして溺れた男を石で殴り殺して運び去ったことを除いて、すべて、自分の色香によって誘い込んでいる。つまり、ヨハンソンは自分の容姿が官能的な魅力を備えていることを承知しているわけだ。もっともこの姿態のせいで、ラスト、木材運搬車の運転手に強姦されかかることになっちゃうわけだから、なんとも皮肉なものだよね。

 ま、それはいいとして、ヨハンソンはおそらく雌で、本物のオートバイレーサーでもあるジェレミー・マクウィリアムスが演じているオートレーサーはほとんど疾走しているだけなんだけど、彼はもしかしたら冒頭にあったように女を獲物にしているんだろうか?

 ヨハンソンがエレファントマンに似た顔の崩れた男を誘い込む場面はちょっと居たたまれないものがあるんだけど、それは言及せずに場面のもたらす結果だけをいえば、ともかくこの男によってなんでか知らないんだけど、人間の美醜と生きていくことの意味について悩み始めるんだよね。食べ物を口に入れてみたいとケーキを食べてみるもののまるで受け付けず、ほんとうのセックスをしてみたいと挑戦するものの外見だけのヴァギナではペニスを受け入れられるはずもないのに、あれこれ挑戦する。もともと色香で誘い込むっていう男の心理はよくわかっているのに、地球の食べ物とセックスについてはまるで無知というきわめてアンバランスな異星人ということになる。

 けれど、この異星人は人間の水分を吸いつくすか、人間の皮をかぶって成り済ますことのほかにはなにもできないという奇妙な異星人で、しかも恐ろしく弱い。だから木材運搬車の運転手に強姦されるがままになっちゃうんだけど、服を一枚ずつ引き破られていく内に、かぶっていた皮膚までも引き裂かれてしまうという惨めさはどうだろう?

 こんなふうに見てくると、実はこの異星人、単なる心象風景だったということも考えられる。

 独立問題で揺れるスコットランドのなんとも陰鬱な大気の中で、たとえば、拒食症の女性がいたとしよう。彼女はもともと均整のとれた体つきをしている。つまり、男好きする肉体を持っている。しかし、処女だ。それも、性に関しては稀有なほど未熟だ。ただし、過去に何があったのかトラウマを抱えており、余人では想像もおよばぬような殺戮願望を抱えている。彼女は行動に出た。強姦されて殺された女をまのあたりにしたとき、突き上げるような衝動に襲われ、死体の顔に似せた化粧をし、それまでとはまるで他人になったような肉感的な格好をするようになり、つぎつぎに男を誘い出し、殺した。死体は腹を裂いておもりをつけ、水中に投棄した。しかし、すべての女性から忌避されるような男を誘ったとき、殺すことができなかった。彼女は変貌した。拒食を直そうと挑戦した。けれどダメだった。男を殺さずにセックスを受け入れようとした。けれどダメだった。自暴自棄になり、樹海をさまよった。そのとき、強姦されかけた。逃げた。だが、捕まり、石油をかけられ、殺された。もしも、この彼女が自分は異星人だと信じていたとしたら、どうだろう。この作品と寸分たがわぬ物語になっちゃう。

 スカーレット・ヨハンソンはほんとうに異星人だったんだろうか。真っ黒な顔と肉体は、彼女の心象風景だったのではないのか。だとしたら、捕食というのはすなわち殺戮を意味しているのに過ぎないのではないのか?

 そんな気にさせる物語だった。

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