かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

渡辺松男の一首鑑賞 42

2015年04月09日 | 短歌一首鑑賞

 渡辺松男研究2(13年5月)【橋として】『寒気氾濫』(1997年)21頁
          参加者:崎尾廣子、鈴木良明、渡部慧子、鹿取未放
          レポーター:鈴木 良明
          司会と記録:鹿取 未放


42 背を丸め茂吉いずこを行くならん乳房雲(にゅうぼううん)はくろぐろとくる

       (レポート)
乳房雲とは、雲底からこぶ状の雲がいくつも垂れさがっている様子から名付けられている。雲底で下降気流や渦流が発生しているときに生まれ、その高度によって乳房雲の形も印象も異なるが、この歌では、「くろぐろとくる」とあるから、雨や雷、雹の前触れのようなおどろおどろしい雲だろう。その下を背を丸めて行く茂吉の姿は、たぶん戦後の晩年の姿だろう。圧倒的な生の力の前に、背を丸めてあてどなく歩く茂吉。そのうち折から雨が降り出して、〈沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨ふりそそぐ〉と、思わず詠んでしまったわけである。(鈴木)


      (意見)
★戦後大石田に引きこもった晩年の茂吉が、体調も悪くて精神もうつうつとして背を丸めていくほ
 かになかった姿が良く出ている。(慧子)
★渡辺さんはお母様を早く亡くされているけど、乳房雲はお母さん助けてっていうイメージかと思
 っていたら、違うんですね。乳房雲をネットで調べたら面白いことに世界共通の呼び名が「マン
 マ」、おっぱいが垂れ下がった形をしているからです。それでアメリカなどではこのマンマが出
 たら竜巻の前兆だから即、地下のシェルターへ逃げ込めっていうんだそうです。そういう恐ろし
 い雲なんですね。鈴木さんが書かれているように戦争責任とか問われないように戦後の茂吉は自
 ら蟄居していたんだけど、黒き葡萄に降り注ぐ雨同様、乳房雲も茂吉を脅迫するものとして渡辺
 さんは描いているんでしょうね。「いずこへ」ではなく「いずこを」であるところに含蓄がある。
    (鹿取)
★乳房雲って渡辺さんのどこから出てくる言葉なんでしょうね。すごいなあ。これが雷雲だったら
 全然歌にならない。(鈴木)
★乳房雲だから茂吉の人間的な弱さが生きる。渡辺さん、雲が好きだからこういう名前もみんな自
 然に頭に入っているんでしょうね。何かでこの名前見つけたから歌に使おうじゃなくて。木や花
 や鳥の名前もそうだけど。(鹿取)
★出版記念会ではこの歌あんまり話題にならなかったよね。(鈴木)
★そう、さりげない歌だから。それに『寒気氾濫』には名歌がいっぱいあるから。馬場先生は『寒
 気氾濫』一冊全部名歌って言っていらした。(鹿取)


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