脱ケミカルデイズ

身の周りの化学物質を減らそうというブログです。 

胆管がんの原因物質と因果関係

2012年07月28日 | 化学物質

朝日新聞2012年7月26日 多量吸入発がんの恐れ 印刷会社の胆管がん 洗浄剤が原因か

印刷会社で働いていた人が相次いで胆管がんになった問題は、インクを拭き取る洗浄剤に含まれる二つの化学物質が原因とみられている。まだ未解明の部分が多いが、どんな仕組みでがんになるのかを探った。

問題の発端となった大阪市の印刷会社では、患者の元従業員は見本を刷る校正印刷という作業を担当していた。印刷機のインクを頻繁に洗浄剤で落とす必要があった。厚生労働省の調査によると、洗浄剤には「1,2ジクロロプロパン」が合まれていたことが確認された。また、「ジクロロメタン」も含まれていた可能性が高いという。いずれも洗浄効果に優れるが、労働安全衛生法に基づく厚労省の指針で、発がん性の恐れがあるとされる化学物質だ。ジクロロメタンは国内外で健康影響に関する研究報告があり、マウスを使った実験では、肝臓や肺での発がん性が確認されている。人間については、米国でジクロロメタンを使う繊維工場の従業員約1300人を調べた論文が1990年に発表され、胆管がん・肝がんの発症率が高いと報告した。だが、さらに長期追跡した93年の調査で、当初の結論は否定された。

ジクロロメタン因果関係、解明へ

ただ、産業技術総合研究所(産総研、茨城県つくば市)の井上和也研究員(環境工学)は「はっきりしていないが、高濃度のジクロロメタンが人間の体内に入れば、発がん物質が生まれる可能性は十分ある」と指摘する。井上さんによると、空気吸入や皮膚接触を通じて体内に入ったジクロロメタンは、血液を通じて肝臓に運ばれて分解される。吸入量によって処理される経路が異なり、少量なら通常の経路で二酸化炭素などに分解される。だが、多量になると通常の経路では処理しきれずに別の経路で分解され、その過程で発がん物質が生まれる。その発がん物質が胆管に運ばれて細胞をがん化させた可能性があるとみられている。この経路は一般的に肝臓にあるとされるが、胆管にも存在するとの研究報告もある。

どれくらいの量が体内に入れば、発がん物質を生む経路が動き始めるのか。動物実験の結果などから「空気中の濃度が約500ppm(ppmは100万分の1)以上と推定される」と井上さんは説明する。1千ppm以上では、がんの発生率は1割との推定もあるという。厚労省は大阪市の印刷会社で実施した再現実験で、約130~360ppmを検出。この数値は、米国産業衛生学術会議の許容濃度(1日8時間労働の場合)の約2・6~7・2倍だった。

一方、1,2ジクロロプロパンは洗浄剤に含まれていたことが確認されているものの健康への影響はあまり研究が進んでいない。マウス実験では発がん性が報告されているが、人間でははっきりしない。ただ人間が空気とおうといっしょに吸い込むと、嘔吐や腹痛、肝臓や腎臓の機能が低下するとの報告はある。厚労省は今後、患者調査や動物実験を実施し、両物質と発がんとの因果関係を詳しく調べる方針だ。(南宏美、編集委員・浅井文和)

 

企業は検診結果を公表せよ

産業技術総合研究所フェロー中西準子さんにきく

化学物質のリスク評価に詳しい産総研フェローの中西準子さんに、現時点での評価と今後の対策について聞いた。

1,2ジクロロプロパンは有害性の評価に関する研究が少なく、マウスで発がん性を示す報告があるくらいだ。ジクロロメタンは人間の疫学データが蓄積されていて、吸入量が少なければ健康に影響はないとみられることがわかっている。今回は胆管がんの発症率が高いことから、高濃度の状態に長時間さらされたと考えられる。厚労省の再現実験では、米国の学会による基準の約2・6~20・6陪の濃度が計測された。だが、当時の換気状況を推定すると、実際の濃度はさらに数倍高かったのではないか。

今回のことでジクロロメタンの使用が禁止されるか、手控える動きが広がって科学的知見の少ない別の化学物質が代用されることを恐れている。ジクロロメタンは適正に使えばリスクが低いことは明らかで、知見の少ない物質に乗り換える方がリスクは高い。ジクロロメタンでさえ、職場での暴露に関する疫学調査は国内にはない。海外と違って企業が濃度や暴露量、検診の結果を公表しないからだ。リスク評価の精度を高めるうえでこうした情報の公開が欠かせない。

 

胆管がん多発問題

産業医大(北九州市)の熊谷信二准教授(労働環境学)らのグループが大阪市の校正印刷会社の元従業員らに胆管がんが多発している事実を突きとめ、今年5月の日本産業衛生学会で発表した。厚労省は大阪市以外に宮城県や東京都などでも同様の患者を確認。厚労省によると、全国で少なくとも24人が発症し、うち14人が亡くなっている。