electric

思索 電子回路 論評等 byホロン commux@mail.goo.ne.jp

差動増幅回路の妙① エミッタ接地増幅回路

2011-04-13 19:29:29 | 電子回路
トランジスタといえば、まず「増幅」を思い浮かべると思います。確かにトランジスタは電流増幅も電圧増幅もやってくれます。しかし基本は電流増幅であり、Ic(コレクタ電流)=hFE×Ib(ベース電流)の関係が成り立つので、Ibを調整することによってIcを制御することができます。hFE(直流電流増幅率)はおおむね100程度と考えてください。

この関係式に沿い、Ib=1mAとするとIc=100mAであり、Ib=3mAとするとIc=300mAとなります。当然ですね。入力電流IbをhFE倍したものが出力電流Icとなる、つまりこれがトランジスタによる電流増幅の意味です。ここで1点、非常に重要な、トランジスタであるが故の性質があります。それはIcが「定電流」だということです。

Icが定電流であればこそ、負荷抵抗Rをコレクタに挿入し、Rによる電圧降下を出力電圧として取出すことができるのです。これを具体的に示しているのが図の「エミッタ接地増幅回路」です。この回路がトランジスタによる増幅回路の原型です。

これはINからIbを流し、hFE倍されたIcが負荷抵抗Rcを流れ、その電圧降下をOUT(Vc)としてコレクタから出力する回路です。

ではこのエミッタ接地増幅回路のゲイン(増幅倍率)はどれくらいでしょう。ゲインは「出力/入力」ですが、出力電圧Vcと入力電流Ibの割算は意味がありません。ゲインは「出力電流/入力電流」あるいは「出力電圧/入力電圧」でなければなりません。この入力電圧に相当するのがVbe(ベース・エミッタ間電圧)です。

そもそもIbも電圧源があるから流れるわけで、電流が単独で流れることはありません。よって、エミッタ接地増幅回路のゲインは「Vc/Vbe」となります。

さてこの先の話は少し難しくなります。また残念なことに、このエミッタ接地増幅回路はこのままでは実用として使い物にならないことが分かります。

NPNトランジスタのB-Eは、PN接合のダイオードと同じですね。左のグラフはダイオードのVf-If特性を、指数関数によってシミュレートしたものです。これをトランジスタのVbe-Ib特性に当てはめてみます。まずVbe=0.7VとするとIb=30mAですね。このVbe=0.7Vを基準(動作点)として0.05V増加させるとIb=70mA辺りになることが分かります。Vbeを0.1V増加させると、スケールオーバーしてもう読めません。

つまりVbeの動作点からの電圧変化に対して、Ibの変化は極めて大きいのです。Icに至ってはIbがhFE倍されるので、Vbeのわずかな変化によりとてつもなく大きな変化になります。これはエミッタ接地増幅回路のゲイン、すなわちVc/Vbeが非常に大きいことを意味し、そのこと自体は悪くないのですが、動作点としたVbe=0.7Vが微動だにせず安定しているということは実際にはあり得ません。ミクロ的に見るといろんな要因がノイズになりVbeの動作点は微妙に変化し続けています。これではIc、あるいはVcの動作点は大きく変動してしまい(信号を入力していないのに、出力が勝手に変化する)、安定した増幅回路にはなりません。

もう1点、致命的な問題があります。実際のトランジスタはコレクタからベースにわずかな漏れ電流があるのです。この漏れ電流がIbを増加させ、それによりIcが増加し、その分さらに漏れ電流が増加し、またさらにIcが増加するという繰返し現象が発生し、最後にはトランジスタが過熱して破壊します。これをトランジスタの「熱暴走」といいます。

というわけで、図のエミッタ接地増幅回路は実用になりません。そこで、上述した様々な問題を修正して考案されたのが、右の「電流帰還(エミッタ接地)増幅回路」です。最大の改良点は1つ。“エミッタ抵抗Reを入れた”ことです。

さて、このReはどのような働きをするでしょう。動作点Vbe=0.7Vの変動を考えてみます。Vbeがわずかに増加したとすると、Ibが増加しIcはそのhFE倍増加します。ここまでは同じです。しかしIe=Ib+Icですから、IbとIcの増加分は共にReに流れます。そうするとReの端子電圧がその分増加し、結果としてエミッタ電圧Veが増加します。すると、Vbe=Vb-VeですからVbeが小さくなりますね。つまり、Vbeが無駄に大きくなろうとしても、ReによってVbeの増加を抑え込み元に戻してしまうのです。Vbeが無駄に小さくなろうとしても同じことです。これにより、Ib、Ic、Vc、すべての動作点が非常に安定します。“あっぱれ!Re”ってところですね。

少し脱線しますが、トランジスタは用途が大きく2つあります。①スイッチとして使う、もしくは、②増幅器として使う、このどちらかです。基板の現物や回路図からトランジスタがどちらの用途に使われているかを見分ける方法は、Reがあるかどうかです。Reのない増幅回路はあり得ないと思っていてもいいでしょう。スイッチとして使われている場合はエミッタがグランド(GND)に直結されています。

さて、Reを取り付けたことによる、大きなメリットはまだあります。ReがなければVbe-Ib特性は上述のように指数関数になりますから、特性が非常にクリティカルになりVbeの値からIbの値を知ることは、測定する以外にまず不可能です。しかしVbeはIbの値に関わらず、ほぼ0.7V近辺にいるわけですから、Vbe=0.7Vと割り切れば、Reがある場合Ve=Vb-0.7Vとなって、Ie=Ve / Reとまずエミッタ電流が簡単に求まります。それから入力電圧:⊿Vb=⊿VeでありIc≒Ieですから、ReとRcの電圧降下の比はRc/Reとなります。よって、結局この増幅回路のゲイン(⊿Vc/⊿Vb)は、ほぼRc/Reで決まるのです。これは嬉しいですね!最後にIbはIc / hFEで求まり、Ic=1mA、hFE=100とするとIb=0.01mAとなります。非常に小さな電流値ですから、Ib=0として扱っても大きな問題はないでしょう。

というように、Reを入れることにより、増幅回路に必要な各要素の計算が簡単にできてしまいます。いかがですか? もういちど、“あっぱれ!Re”。

さて、下のもうひとつの珍妙な図は「差動増幅回路」といい、これもエミッタ接地増幅回路の変形です。非常におもしろい動作をするのですが、これのお話はまた次回ということにしましょう。

関連記事:
差動増幅回路の妙② 入出力とゲイン 2011-04-21
オペアンプを作ろう① 定電圧回路 2010-05-18
定電圧電源を作ろう①ツェナ 2009-12-14

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 原発 緊急情報(49) 新学... | トップ | 福島県内学校の75%が放射能... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

電子回路」カテゴリの最新記事