ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

長野県・東信地域の厳しい産科医療の状況について

2007年06月23日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

地元紙に長野県・東信地域の厳しい産科医療の状況について掲載されていました。東信地域の2次医療圏は、上田市を中心とした「上小医療圏」(人口約22万人)と、佐久市を中心とした「佐久医療圏」(人口約21万人)とに分かれています。

佐久医療圏には有名な佐久総合病院(1190床、職員総数1614名、常勤医師数188名)があり、この地域の医療を支えています。その佐久総合病院でも分娩件数の急増に対応しきれず、分娩制限が始まったと報道されています。

上小医療圏では、常勤の麻酔科医が一人もいないことが特に問題となっているようです。周産期医療にしろ、救急医療にしろ、24時間待ったなしで、いつでも重症患者への迅速な対応が可能な医療体制を構築する必要があります。それを支える常勤の麻酔科医は、地域に一人でもいれば済むという問題ではなく、医療圏内に最低でも5~6名以上は常時必要だと思われます。

産婦人科医も、麻酔科医も、養成には長い時間がかかり、今、地域で必要だからといって急に増やせるわけではありません。今後、10年後も、20年後も、安定的に持続可能な地域の周産期医療体制を構築していくために、地域で一丸となって、この問題と地道に取り組んでいく必要があると思います。

****** 信濃毎日新聞、2007年6月21日

上小の「医師不足」考える

関係19団体 対策協議会が初会合

 県上田保健所は20日、上田小県地域の病院や医師会、市町村など19団体による「上小地域医療対策協議会」を発足させ、上田市の上田消費生活センターで初会合を開いた。今後、「産科・小児科」「救急医療」の2分科会を設け、医師不足対策などを話し合っていく。

 上田保健所が、県内10医療圏ごとに「連携強化病院」を選び、医師を重点配置すべき-とした県産科・小児科医療対策検討会の提言を紹介。上小地域では、長野病院(上田市)に常勤麻酔科医がおらず、産婦人科の連携強化病院が選ばれなかった-と説明した。

 さらに、長野病院の常勤麻酔科医の不在などで、上小地域の2006年の救急搬送患者7499人のうち、前年より0・8ポイント多い16・9%、1266人が地域外に搬送された-と報告した。

 意見交換では「パート医師の所得が常勤医よりおおくなることが問題」(依田窪病院)などの発言があった。

(信濃毎日新聞、2007年6月21日)

****** 医療タイムス、長野、2007年6月21日

麻酔科医の確保など課題に

~上小地域医療対策協議会 分科会を立ち上げへ

 上小地域医療対策協議会は20日、上田市内で初会合を開き、上小地域における産科・小児科医療体制と救急医療体制について協議した。年内にそれぞれの分科会を立ち上げ、何らかの方向性を打ち出す方針を確認。産科医療に関しては、麻酔科医不足の解消や国立病院機構長野病院への産科医集約を視野に入れ、検討を進める考えだ。

 同地域の産科医療を支える立場から、長野病院の大澤道彦副院長は「上小地域は県内の他地域に比べ、もともと産科医1人あたりの出生数が群を抜いており、医師の負担はかなりのもの」と説明。また、同様の立場から上田市山陰の甲藤一男院長は「産科の2次医療を地域で担えないことが課題。また、長野病院に常勤の麻酔科医がいないことも原因の1つ。」産科医だけでなく、麻酔科医の早急な確保も必要」と窮状を訴えた。

 これに対し、国保依田窪病院の三澤弘道院長は「麻酔科医の不足は上小地域だけにとどまらず、国全体の問題」と指摘した上で、「松本地域には比較的多くの麻酔科医がいる。同地域の麻酔科医の協力を受けやすくするためにも、(上田市と松本市を結ぶ)三才山有料トンネルの通行料を医師だけは無料にするなどの対応を県に求めていくべき」と述べた。また、大澤副院長は「現在のところ、当院での麻酔科医の確保は見通しが立ってない。1つの医療機関で採用するのではなく、地域全体で麻酔科医の採用を検討してみては」と提案した。

産科医療の集約化も視野に

 産科医不足については、小県医師会の塚原正典会長が「長野病院への産科集約も視野に入れた上で、地域のお産を担う医療機関の連携方法を検討してみる必要がある」と提案。しかし、この提案に県助産師会上小地区会が反発。塚田典子地区長は「女性にとってお産は命をかけてするもの。その気持ちを考えれば、分娩する医療機関を選びたいはず。住民の声を置き去りにして協議を進めるのはいかがなものか」と述べた。

 上田保健所の小林文宗所長は、「上小地域でのさらなる医療体制の構築を目指し、引き続き分科会で産科・小児科医療などの課題を検討していく」とした。

(医療タイムス、長野、2007年6月21日)

****** 信濃毎日新聞、2007年6月21日

出産受け入れ 佐久総合病院も一部制限

扱い数増加「限界超えた」

 全国的な産科医不足の中、これまですべてのお産を受け入れてきた県厚生連佐久総合病院(佐久市)も、一部で制限を始めたことが分かった。医師1人当たり月間24件を扱い、「物理的に限界を超えた」状態。医療態勢が充実しているとされる佐久地方だが、主な病院が満杯になり、厳しい状況だ。

 佐久地方 主な病院満杯

 佐久病院は、4月に87件、5月に98件の出産を扱い、ともに前年同月の1・3倍。入院ベッドが足りず、産科以外も使ってしのいでいる。今月と7月も80件を超える見通しだ。医療関係者の間では「医師1人年間200件(月17件)が限度」とされるが、産科医4人の同病院では1人当たり20件を超えている。

 このため月間予約70件を目安に、現場で状況判断しながら「県外から電話で申し込んでくる里帰り出産者はお断りしている」という。他病院からリスクの高い出産が転送されたり、婦人科の診療を兼ねていることもあり、夏川周介院長は「物理的に限界を超えている。1人倒れれば現状も維持できず、一病院の努力を超える」と説明している。

 出産を扱う医療機関が減り、昨年から増加傾向だったが、4月から佐久市立国保浅間総合病院が出産受け入れ制限を始めた影響が大きい。同病院は産科医が1人減って2人になり、月40~55件だった出産扱いが4、5月は20~30件になった。「従来通りでは安全を保てない。過重労働による事故を防ぐやむを得ない措置だ」(佐々木茂夫事務長)とする。

 小諸市の県厚生連小諸厚生総合病院も、今年になり、出産件数が月45~53件余の1・5倍以上だ。産科医は2人で、1人当たり25件前後になる。渡辺康幸事務長は「医師が休む時間がない。受け入れ制限を考えざるを得ない」と話す。

 8月に2人目を出産予定の佐久市内の主婦(36)は、佐久地方の病院をあきらめ、夫の実家がある松本市の医院に予約した。しばらくは義父母の送迎で通い、検診を受ける。「医師不足は分かるが、納得できない。少子化問題が論議されるが、産科医確保が最優先では」と訴えている。

(信濃毎日新聞、2007年6月21日)