ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

対応「もう限界」

2007年12月23日 | 地域周産期医療

多くの産科施設が相次いで分娩の取り扱いを中止していることにより、分娩取り扱い施設がだんだん残り少なくなってきました。かろうじて何とか生き残って分娩を取り扱っている施設では、地域の妊婦さん達が集中し、業務量が従来と比べて急増しているため、対応はすでに限界に達しているところも少なくありません。

国全体の産科勤務医の総数がどんどん減っているわけですから、今、現場に踏みとどまって、何とか辞めずに頑張っている産科医達の職場環境は、ますます悪化し続けてます。いくら新人産科医を増やしても、それ以上に現役産科医が辞めてしまうようでは、全く意味がありません。『今、現場に踏みとどまって、何とか辞めずに頑張っている産科医達が、これから先も辞めないでも済むような方策を考えること!』が最も重要だと思います。

産科の勤務で一番つらいのは、勤務医の頭数が少ないと、それだけ当直回数が増えてしまうことだと思います。現在は、悪い勤務環境から逃れるために多くの産科勤務医が離職し、残された者の勤務環境がますます悪化するという悪循環に陥っています。

全体の産婦人科医の数が急減し、当分の間は増える見込みがないということであれば、医療圏の枠をとっぱらって分娩施設をセンター化して、当直業務に関わる産科医の(1施設当たりの)頭数を増やして当直業務の負担を減らすしか手はないと思われます。

しかし、例えば、『人口30万人程度のエリアで産科施設をセンター化する』というような構想を、政策によって短期間のうちに実現するのは並大抵のことではありません。少なくとも、この1~2年では絶対に不可能だと思われます。まだ、現状では多くの人々のコンセンサスを得るのは難しいと思います。

最近は産科施設数がどんどん減っていて、一つの医療圏に一つの産科施設を確保することすら、だんだん危うくなりつつありますから、あと5~6年も経過すれば、自然淘汰的に分娩施設数は適正な数に落ち着いていくのではないでしょうか?

****** 信濃毎日新聞、2007年12月22日

波田総合病院の分娩、最多に 周辺の休止影響か 対応「もう限界」

 東筑摩郡波田町の町立波田総合病院が今年扱った分娩件数が21日現在、例年より約100件多い692件に達し、1955(昭和30)年の産科開設以来最多になる見通しであることが分かった。昨年春以降、松本地域の病院が相次ぎ出産扱いを休止した影響が大きいとみられる。

(中略)

 波田総合病院の過去10年は年間500-600件台で推移していた。が、昨年4月に安曇野市の安曇野赤十字病院、今年9月に松本市の同機構松本病院が出産の扱いを休止。妻が波田総合病院で出産した安曇野市の会社員(22)も「安曇野赤十字はお産を休止していると聞いた」と説明した。同病院の産科医は3人。小松竹美事務長によると、分娩の2割を占める帝王切開は産科医2人が必要なため、夜間は当直に加えもう1人を自宅から呼び出している。「これ以上こなせない」と頭を抱える。松本地域では、松本市の相沢病院も、昨年度510件だった分娩が本年度は600件近くに増える見込みだ。

(以下略)

(信濃毎日新聞、2007年12月22日)

****** 中日新聞、長野、2007年12月3日

県内産科医療 崩壊の危機 住民側の意識改革必要

飯伊に続き松本地域でも 診療分担に理解を

 来年3月以降、県内の産婦人科医約20人が離職し、各地で分べん制限や集約化が進む見通しで、県内の産科医療は危機的状況に陥っている。高い訴訟リスクや日々の激務で、現場の医師も「限界だ」と悲鳴を上げるが、医師数が増えない限り、抜本的解決は望めそうにない。今、医療を崩壊させないために、医療の受け手である私たちができることは何か。(中津芳子)

 「非常に切迫した状況。行政の皆さんにもこの状況をわかっていただきたい」。先月初旬、松本市で開かれた「松本地域の産科小児科検討会」の第2回会合。信州大、県立こども病院などの医師らと、松本地方事務所管内の9市町村長約20人が集まる中、信州大のNICU担当の馬場淳医師らが現場の医師たちの窮状を訴えた。

 県衛生部によると、県内でお産を扱う施設数は49施設(9月現在)。昨年に比べて4件減少した。出産数を制限したり、HPで出産できるか否かを公表するなど、自分たちの医療を守るための対応策をとる病院が増加している。残った勤務医は日々の業務に加え、ギリギリの状態で踏みとどまる若手医師を支える役割を担うなど、負担は増える一方。信大の金井誠医師は「今一番必要なのは、ぎりぎりの状態で頑張っている医師をやめさせない努力」と力を込める。

 医師を追い詰めている要因の一つに、患者側の問題もある。緊急性は認められないのに、仕事や家庭の都合で夜間や休日に受診に訪れる人、定期的に健診を受けない妊婦など、信大にも県内各地から相談が寄せられている。それでいて「待ち時間が長い」などと不平不満をぶつける。「病院がまるでサービス業やコンビニエンスストアのようになっている。医師がやめていく一つの要因」(金井医師)と指摘する。

 さらに、現場の医師が懸念するのが、医療崩壊の危機感が医師や病院関係者の間だけにとどまっていること。検討会の会合で、松本医師会の須沢博一会長は「医療者側からの訴えや説明だけではなく、行政も広報紙などを使って現状を説明してほしい」と求めたが、行政側からの具体的な回答は得られなかった。金井医師は「なぜお産ができなくなったのか、自分たちの地域だけでなく、もっと大きなエリアで考えようという意識を持ってほしい」と訴え、行政の支援を強く求めている。

(中略)

飯田下伊那地域に続き、松本地域でも診療分担を視野に入れた体制作りが進んでいるが、これらは行政の支援と住民の理解が不可欠。男性も女性も医療崩壊寸前の現状を知り、自分に何ができるかを考えることが、今、医療を崩壊させないための方法ではないだろうか。

(以下略) 

(中日新聞、2007年12月3日)