★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽◇NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

2015-12-29 13:35:55 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

 

<NHK-FM「ベストオブクラシック」レビュー>

 

~2015年ハノーファー国際ヴァイオリン・コンクールで第2位の南 紫音と江口 玲の演奏会~

ドボルザーク:4つのロマンチックな小品   
ヤナーチェク:ヴァイオリンソナタ           
チャイコフスキー:ワルツスケルツォ 
チャイコフスキー:なつかしい土地の思い出 
ブラームス:ヴァイオリンソナタ第3番       
ドボルザーク(クライスラー編曲):スラブ舞曲作品72第2(アンコール)              
ブラームス:スケルツォ(アンコール)                  
                      
ヴァイオリン:南 紫音

ピアノ:江口 玲
                              
収録:2015年11月15日、愛媛県・新居浜市市民文化センター

放送:2015年12月14日(月) 午後7:30~午後9:10

 今夜のNHK-FM「ベストオブクラシック」は、南 紫音のヴァイオリン、江口 玲のピアノによる新居浜市での演奏会の放送である。曲目は、南 紫音の先生であるヴェグジン氏がポーランド人であることに因んで、スラブ系の曲と、それに加えブラームスのヴァイオリンソナタが選ばれた。南 紫音は、福岡県北九州市出身。桐朋学園大学卒業。2004年イタリア・ナポリで行われた第13回アルベルト・クルチ国際ヴァイオリン・コンクールで15歳にして優勝。2005年 ロン=ティボー国際コンクールで第2位、サセム賞受賞し、一躍、国際的注目を浴びる。2008年CDデビューを果たす。2015年、難関で知られるハノーファー国際ヴァイオリン・コンクールで第2位を受賞。2005年北九州市民文化奨励賞、2006年福岡県文化賞、2010年第11回ホテルオークラ賞受賞、2011年第21回出光音楽賞をそれぞれ受賞。現在、ドイツのハノーファーに在住し、クシシトフ・ヴェグジンに師事している。

 ピアノの江口 玲は、東京都出身。東京芸大附属音楽高校を経て東京芸術大学音楽学部作曲科を卒業、その後同校にて助手を務めた後、ジュリアード音楽院のピアノ科大学院修士課程、及びプロフェッショナルスタディーを修了。2011年5月までニューヨーク市立大学ブルックリン校にて教鞭を執る。2006年より洗足学園音楽大学大学院の客員教授を務めるほか、2011年4月より東京芸藝術大学ピアノ科の准教授に就任。現在もニューヨークと日本を行き来して演奏活動を行っている。母校ジュリアード音楽院のアジアツアーのソリストに抜擢されたほか、アメリカ、アジア、ヨーロッパ諸国等、今まで演奏で訪れた国は25カ国に及ぶ。2009年7月には「ライヴ!ソナタ集」(スクリャビンのソナタ第4番、フランク/コルトー編のソナタ、その他)と「ライヴ!小品集」(スーク、ドヴォルザーク等の小品、及びホロヴィッツのカルメン変奏曲)が発売され、その2枚ともがレコード芸術誌から特選盤に選出された。

 最初の曲のドボルザーク:4つのロマンチックな小品は、ドヴォルザークが1887年1月に作曲したヴァイオリンとピアノのための組曲で、弦楽三重奏のための作品75aからの改作である。最初、ドボルザークは、三重奏曲ハ長調作品74を書いたが、新たに素人音楽家たち向けに弦楽三重奏曲「ミニアチュール」を作曲した。そして、この曲を基にヴァイオリンとピアノのための編曲を完成させた。この新しい版をドヴォルザークは「ロマンティックな小品集」作品45と名付けた。この曲は、平易な中に、和やかな雰囲気がが漂う、ドボルザークの愛すべき作品だ。南 紫音は、素直に、情念を込めて、丁寧に、この曲を弾きこなす。南 紫音は、育ちの良さが窺えるような温和さと清く澄んだ音色の演奏が身上と思えるが、この曲は、そんな南 紫音にピタリと合う佳品だ。ドボルザークの人懐っこさが辺り一面に響き渡る。2曲目は、ヤナーチェク:ヴァイオリンソナタ。この曲は、ヤナーチェクが作曲した中で唯一の完成したヴァイオリンソナタ。ヤナーチェクは、汎スラヴ主義を信奉する愛国主義者で、作品にもそれらが滲み出た曲が少なくない。ここでの南 紫音の演奏は、揺れ動くヤナーチェクの心情を巧みに捉える。それに加え、江口 玲のピアノ伴奏が表現力豊かな演奏を聴かせる。

 3曲目は、チャイコフスキー:ワルツスケルツォ。この曲はもともと、ヴァイオリンとオーケストラのために書かれ、チャイコフスキーのバレエ音楽の中に出てくるワルツの特徴をよく表し、洗練された華麗な雰囲気が漂う、陽気で活気に満ち溢れた曲。4曲目は、チャイコフスキー:なつかしい土地の思い出。この曲は、ヴァイオリンとピアノのための3つの作品(瞑想曲、スケルツォ、メロディ)からなる小品集だが、グラズノフによって管弦楽法が施された。チャイコフスキーのこれら2曲における南 紫音の演奏は、彼女独特の素直さに加え、チャイコフスキーの持つ、民族的な泥臭ささも十分に発揮され、より奥深い表現の創出に成功したようだ。江口 玲のピアノ伴奏も力強さと巧みなコントロール感が発揮され見事。最後の曲は、ブラームス:ヴァイオリンソナタ第3番。この曲は、1886年から1888年にかけて作曲された。当時ブラームスは避暑地のトゥーン湖畔に滞在中で、作曲に専念していたが、友人の音楽学者の訃報を聞いた以後、孤独に苛まれるようになる。この曲には、ブラームスの晩年の寂寥感が滲み出る。若い南 紫音には、少々荷が重い曲にも思われるが、そんな懸念を払しょくするように、伸びとこの曲をスケール大きく、若々しく一気に弾き切った。これには、江口 玲の表現力のこもったピアノ伴奏が大いに貢献したと思う。(蔵 志津久)


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ◇クラシック音楽◇コンサート情報 | トップ | ◇クラシック音楽◇コンサート情報 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー」カテゴリの最新記事