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◇クラシック音楽◇NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

2018-03-27 10:25:18 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

 

<NHK-FM「ベストオブクラシック」レビュー>

 

~ヴァイオリン:ルノー・カプソンとピアノ:カティア・ブニアティシヴィリのドイツ、ワルトブルク城での演奏会~

ドボルザーク:4つのロマンチックな小品 
グリーグ:ヴァイオリンソナタ第3番 
フランク:ヴァイオリンソナタ         
クライスラー:愛の悲しみ(アンコール)              
パラディス:シチリア舞曲(アンコール)             

ヴァイオリン:ルノー・カプソン

ピアノ:カティア・ブニアティシヴィリ
                              
収録:ドイツ、アイゼナハ、ワルトブルク城、2017年7月9日

提供:中部ドイツ放送協会

放送:2018年3月7日(水) 午後7:30~午後9:10  

 今夜のNHK‐FM「ベストオブクラシック」は、ヴァイオリンのルノー・カプソンとピアノのカティア・ブニアティシヴィリのドイツでのコンサートの放送である。ヴァイオリンのルノー・カピュソン(1976年生れ)は、フランス、シャンベリ出身。14歳でパリ国立高等音楽院に入学し、室内楽とヴァイオリンのプルミエ・プリを獲得。1998年から2000年までは、クラウディオ・アッバードの指名によってマーラー・ユーゲント・オーケストラのコンサートマスターを務めた。モダン楽器のヴァイオリニストではあるが、バロック奏法の影響を受け、さらにフランコ・ベルギー派の伝統も受け継いでいると言われる。ピアノのカティア・ブニアティシヴィリ(1987年生れ)はジョージア(旧グルジア)出身。2003年「ホロヴィッツ国際コンクール」特別賞受賞。トビリシ国立音楽院、ウィーン国立音楽大学で学ぶ。2008年「アルチュール・ルービンシュタイン国際ピアノコンクール」3位並びに最優秀ショパン演奏賞、オーディエンス・フェイヴォリット賞受賞。2010年「ボルレッティ・ブイトーニ財団賞」受賞。そして、2012年ベルリンにおいて権威ある「エコー賞」を受賞した。

 最初の曲、ドボルザーク:「4つのロマンチックな小品」は、ドヴォルザークが1887年に作曲したヴァイオリンとピアノのための組曲で、原曲は弦楽三重奏のための「ミニアチュール」である。最初に作曲した弦楽三重奏曲を基に、新たにアマチュア向けに弦楽三重奏曲「ミニアチュール」を作曲した。この曲は、第1楽章「カヴァティーナ」、第2楽章「奇想曲」、第3楽章「ロマンス」、第4楽章「悲歌(あるいはバラード)」 からなる。シューマンに感化されて、それぞれ異なる曲調の、互いに関連性のない楽曲からなる性格的小品集を完成させた。この曲でのルノー・カプソンは、深い情感を一面に漂わせた演奏内容に徹して、リスナーの心をぎゅっと掴んでしまう。普通、このような演奏は、オーバーともいえる表現が聴く者にとっては食傷気味となりがちであるが、ルノー・カプソンのヴァイオリン演奏の場合は、まったくそのようなことにはならず、逆に説得力のある表現力に聴き惚れてしまう。ピアノのカティア・ブニアティシヴィリは、そんなルノー・カプソンにぴたりと寄り添い、伴奏役に徹して演奏したことが多いにリスナーに好印象を与えたと思う。

 次の曲はグリーグ:ヴァイオリンソナタ第3番。グリーグは3つのヴァイオリンソナタを作曲したが、この第3番は3曲のヴァイオリンソナタの中では最も人気の高い作品である。イタリアのヴァイオリニスト、テレジーナ・トゥアがグリーグのベルゲン近郊の家庭を訪問したことが作曲の動機となったと言われている。初演は1887年12月10日のライプツィヒで行われたが、残念ながらお目当てだったテレジーナ・トゥアはこの曲の初演者とはならなかった。第1楽章アレグロ・モルト・エド・アパッショナート、第2楽章アレグレット・エスプレッシーヴォ・アラ・ロマンツァ―アレグロ・モルト、第3楽章アレグロ・アニマートの3つの楽章からなる。この曲でのルノー・カプソンは確信に満ちた、安定したヴァイオリン演奏を聴かせる。彫の深い構成力に支えられ、本来の持ち味である抒情性がことのほか印象に残る。豊かな北欧の自然が、あたかもそよ風に乗ってリスナーの頬に吹きかけられるような心地よさに酔わされる。ここで特筆すべきは、ピアノのカティア・ブニアティシヴィリの生き生きした演奏内容である。単なる伴奏の範疇をはるかに超え、自在に自己主張をするその演奏内容は、ヴァイオリンのルノー・カプソンと一対となり、豊穣そのものの音楽を奏でる。

 最後の曲は、フランク:ヴァイオリンソナタ。同郷の後輩であるヴァイオリニスト、ウジェーヌ・イザイに結婚祝いとして作曲され献呈された曲。全部で4つの楽章からなる、フランス、ヴァイオリン音楽の最高傑作に位置づけられている作品。フランクが得意とした循環形式(いくつかの動機を基にして全曲を統一する音楽形式)に基づいている。初演は、この作品の献呈者であるウジェーヌ・イザイによって、1886年12月16日にブリュッセルで行われた。ピアノ、フルート、チェロ、コンチェルトなどの編曲版もあり、この曲の人気のほどが窺われる。ルノー・かプソンは、この曲が持つ懐の深さをより一層強調した、緻密な表現力が一際輝く、豊かな音楽性を湛えた演奏を聴かせる。時に、自分自身に言い聞かせるようにも聴こえる、深い精神性に根差したその演奏は、強い説得力を持っている。そしてピアノのカティア・ブニアティシヴィリのピアノ演奏が、ヴァイオリンのルノー・カプソンと対等に渡り合い、見事な相乗効果を上げている。ヴァイオリンとピアノが微妙に絡み合い、相互に触発されたかのように有機的なひらめきに満ちたその演奏内容は、そうめったに聴かれるものではない。
(蔵 志津久)                           


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