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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇若き日のムター&小澤共演のラロ:スペイン交響曲/サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン

2015-02-09 15:30:53 | 協奏曲(ヴァイオリン)

ラロ:スペイン交響曲

サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン

ヴァイオリン:アンネ=ゾフィー・ムター

指揮:小澤征爾

管弦楽:フランス国立管弦楽団

CD:ワーナーミュージック・ジャパン WPSC23053

 ヴァイオリンのアンネ=ゾフィ・ムター(1963年生まれ)は、ドイツ・バーデン州出身。6歳からヴァイオリンを始め、11歳でドイツ青少年コンクール第1位。13歳でヘルベルト・フォン・カラヤンに招かれ、ベルリン・フィルと共演し、天才少女としての国際的知名度を得る。1976年のルツェルン国際音楽祭で世界デビューを果たす。1977年にザルツブルク音楽祭、さらに1980年にはアメリカ・デビューを飾った。1997年に設立した「アンネ=ゾフィー・ムター友の会財団」を発展させ、2008年には、才能ある若手音楽家たちのさらなる世界的支援のために、「アンネ=ゾフィー・ムター財団」を設立。同財団は、医療問題や社会問題にも強い関心を寄せ、様々な慈善運動にも定期的に支援を行っている。 2010年には、トロンハイムのノルウェー科学技術大学から名誉博士号を授与された。2008年、国際エルンスト・フォン・ジーメンス音楽賞とライプツィヒ・メンデルスゾーン賞を受賞。翌2009年には、平和に貢献した個人や団体に贈られる賞であるヨーロッパ聖ウルリッヒ賞と、クリストバル・ガバロン財団(スペイン)の国際舞台芸術賞を受賞。この他、ドイツ連邦功労勲章一等、フランス芸術文化勲章オフィシエ章、バイエルン功労勲章、オーストリア科学・芸術功労十字章なども受章している。現在、世界を代表するヴァイオリニストの一人としてとして、世界各地で活発な演奏活動を展開している。

 指揮の小澤征爾(1935年、中国・瀋陽生まれ)は、2015年9月1日に80歳を迎える。これを記念して長年親しまれてきた「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」の名称は、2015年から「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」に変更された。小澤征爾は、2010年に食道ガンの手術をし、以後、「サイトウ・キネン・フェスティバル」での出演回数が減ったり、予定がキャンセルされたりで、2012年には指揮は行わず、総監督としてのみの参加であったが、2013年から復帰している。恩師である齋藤秀雄の没後10年を偲び、小澤と秋山和慶の呼びかけにより、世界中から齋藤の門下生100名以上が集まり、1984年9月に、「齋藤秀雄メモリアルコンサート」を東京と大阪で開催したが、このコンサートが後の「サイトウ・キネン・オーケストラ」とつながる。1992年からは同オーケストラの音楽監督としての活動も開始している。これまで、トロント交響楽団首席指揮者(1965年―1969年)、サンフランシスコ交響楽団音楽監督(1970年―1977年) 、ボストン交響楽団常任指揮者・音楽監督(1973年―2002年) 、ウィーン国立歌劇場音楽監督(2002年―2010年)などを歴任。そして2002年1月には、日本人指揮者として初めてウィーン・フィルの「ニューイヤーコンサート」を指揮した。2010年、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団により、名誉団員の称号を贈呈された。2008年、内外の音楽界への貢献によって文化勲章を受章。

 このCDの最初の曲目のスペイン交響曲(ヴァイオリン協奏曲第2番に当たる)などで知られるエドゥアール・ラロ(1823年―1892年)は、フランス・リール出身の作曲家。1839年にパリへ出て、音楽の勉強を開始し、1845年からは作曲活動を行う。1874年にヴァイオリン協奏曲第1番をサラサーテのヴァイオリンにより初演し、大成功を収めることができ、これが出世作となった。その時ラロ50歳というから典型的な大器晩成型の作曲家だったのであろう。その後もスペイン交響曲やノルウェー幻想曲などがサラサーテによって初演され、ラロの人気は決定的なものとなる。次いで1874年に完成したのが、5楽章からなるスペイン交響曲。交響曲といっても、ヴァイオリン協奏曲と変わりはない。ラロは、ヴァイオリン協奏曲をぜんぶで4曲書いたが、ヴァイオリン協奏曲第3番に当たるものが、「ノルウェー幻想曲」、第4番目に当たるものが「ロシア協奏曲」と名付けたように、独特なネーミングが目を引く。このCDでのムターのヴァイオリン演奏は、録音時21歳と如何にも新進気鋭のヴァイオリニストらしく、若々しく、限りなく力強い内容となっている。自信に満ち満ちており、小澤征爾指揮フランス国立管弦楽団を引っ張りかねないような迫力が感じられる。このためか、若さゆえのぎこちなさも多少垣間見える。一方では、十分に起伏の富んだ演奏内容となっているため、強気一点張りの平坦さは、微塵も感じさせない。スペイン交響曲の全5楽章は、すべて美しいメロディーに覆われ、ジュニア層からシニア層まで楽しめる曲に仕上がっているいるが、ムターは、そんな曲を存分にお楽しみください、とでも言っているかのように、説得力を十分利かせた演奏内容となっている。小澤征爾指揮フランス国立管弦楽団も、ムターに合わせるように起伏の富んだ伴奏を披露し楽しめる。

 次の曲目は、サラサー:ツィゴイネルワイゼン。サラサーテ(1844年―1908年)は、スペイン・パンプローナ出身のヴァイオリニスト、作曲家。パリ音楽院で学ぶ。1860年代ごろから演奏家としての活動を始め、作曲家のサン=サーンスと演奏旅行を行う。サン=サーンスはサラサーテに「序奏とロンド・カプリチオーソ」「ヴァイオリン協奏曲第3番」などを献呈している。また、サラサーテは、ラロの「スペイン交響曲」の初演者かつ被献呈者でもある。作曲家としてのサラサーテの作品の代表作が、1878年に作曲されたジプシー(ロマ)の民謡による、管弦楽伴奏付きのヴァイオリン曲「ツィゴイネルワイゼン」である。「悲しげながらも堂々とした旋律を持つ」最初の部分、「ハンガリー民謡にそのまま題材をとった旋律を、弱音器を付けたヴァイオリンが奏でる」中間部分、「急速なテンポ」の最後の部分の3つの部分から構成されている。ここでのムターの演奏は、ラロ:スペイン交響曲の演奏より、肩の力を抜いた、軽快な演奏内容を聴かせる。全体に非常に滑らかな出来栄えで、充分に楽しめる演奏内容となっている。色彩感も感じられるようなきらびやかさが何とも言えない。将来の巨匠性を髣髴とさせるような堂々とした演奏内容を聴くと、若い時から周囲から注目を浴びたヴァイオリニストであることを、再確認できる優れた演奏内容となっている。(蔵 志津久)  


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