ブラームス:愛の歌/新愛の歌
ソプラノ:バーバラ・ホエネ
アルト:ギゼラ・ポール
テノール:アルミン・ウーデ
バリトン:ジークフリート・ローレンツ
ピアノ:クラウス・べスラー
指揮:ヴォルフ=ディター・ハウシルド
CD:徳間ジャパン(ドイツシャルプラッテンレコード) 32TC-165
ブラームスの作品は、ドイツ音楽らしく、どれも厳格で、深みがあることが大きな特徴となっている。このようなブラームス特有の特徴をこの上なく愛する人々がいる反面、どうも分りづらくて、独特な陰鬱な雰囲気に対し、近づきがたい感覚に陥る人々もいる。日本は、明治維新以来この方、教育の影響もあって、フランス音楽などのラテン系音楽よりも、ドイツ音楽に代表されるロマン系のクラシック音楽のファンの方が多いようだ。しかし、これも考えようで、「ワーグナーのオペラを聴いていて、思わず居眠りし、起きてみたら、前と変わらない音楽が奏でられていた」というリスナーも決して少なくないのだ。要は、慣れのの問題で、「フランス音楽はどうも分らない」といっても分っているかもしれないし、「ドイツ音楽なら分る」といっても分ってないかもしれないのだ。
そんなことで、今回は厳格な作風で知られるブラームスの「愛の歌」「新愛の歌」を取り上げたい。この4声部(ソプラノ/アルト/テノール/バリトン)とピアノ伴奏からなる合唱(重唱)曲は、全くブラームスらしくない、明るく、軽快な音楽に仕上がっている。ブラームス自身も大いに気に入っていたというから、ブラームスも本音は、意外にネアカに憧れていたのかもしれない。私もこの2曲は以前から大好きで、時々聴いているが、どうもブラームスらしくないせいからか、演奏会で取り上げられることも多くはないし、ラジオ放送でも滅多に聴くことはない。もし、「ブラームスはどうも」というリスナーがいたら、私は「ほかは聴かなくてもいいからこの『愛の歌』と『新愛の歌』だけは聴いてください」と申し上げたい。
このCDの演奏(録音=1974年3月8-16日、ベルリン・キリスト教会)は、「愛の歌」「新愛の歌」を聴くのに、4声部の合唱およびピアノ演奏について、最上の仕上がりを見せているといってもいい。当時、東ドイツでの録音と思うと、何か歴史の重みを感ぜざるを得ない。この2曲の聴かせどころはというと、4人の歌手がそれぞれ独唱をしたかと思えば、今度は4人の重唱に一挙に変わるなど、その組み合わせと、チームワークの良さがウリであり、ただ大歌手が4人揃えばいいというものでもないのだ。その点このCDの4人の歌手のチームワークの良さは抜群だ。
ブラームスは、楽譜に「レントラーのテンポで」と書いているそうである。ドイツ語で「Libeslieder Walzer」「Neue Libeslieder Walzer」と書いてあるから、前々からワルツであると信じていたのに、実際はレントラーだったんだということが今回分った。そこでウイキーの力を借りると・・・「レントラー(独:Ländler)は、3/4拍子の南ドイツの民族舞踊である。18世紀末ころまで、現在のドイツ、オーストリア、スイスにあたるドイツ圏南部一帯で踊られた。13世紀頃から今日のチロル州とバイエルン州の農民が踊っていたヴェッラー(Weller)から発展した民族舞踊。2人一組で、飛んだりはねたりもする踊りである。・・・これはワルツの前身だと考えられているが、系列的にはワルツ、及びウィンナーワルツの親戚である」とある。ワルツの親戚だからまあいいか。そう言えば、シューベルトにもレントラーの名曲が数多くあることを思い出した。(蔵 志津久)