シネマ見どころ

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「人生スイッチ」(2014年アルゼンチン=スペイン合作)

2015年08月11日 | 映画の感想・批評
 まるで、ロアルド・ダールやサキの名短編を読むようなオムニバス映画の逸品である。
 冒頭アルゼンチンの空港を飛び立った飛行機の中で美人モデルと中年男が通路を挟んで隣同士となり、いつしか会話がはずむ。男はクラシックの音楽評論家だという。女性が昔つきあっていたパステルナークという作曲家志望の男がコンクールに落選したことがあると話すと、男は自分が審査委員長を務めたコンクールだからその彼氏なら覚えているといい、それにしてもひどい作品だったとこきおろす。前に座っていた老女がパステルナークなら私の教え子だと話に加わり、とんでもない問題児だったという。すると前方から若い男が自分は同級生だと名乗り出る。堰を切ったようにあちらこちらからパステルナークの知り合いが現れる。という具合で「そんな馬鹿な」と思っていると、これがとんでもない落ちにつながって観客は唖然とするのだ。クリスティの「そして誰もいなくなった」を想起させるこの短いエピソードの次にタイトルとなる。
 全部で6つのエピソードから成る(原題は「ワイルドな物語」という意味)。それがどれも強烈な印象を残し、悲惨で残酷な物語をブラック・ユーモアで包み込むという手法。ラテン気質というか、喜怒哀楽が激しく曖昧さを嫌い、ことに復讐となると「目には目を歯には歯を」の精神である。
 たとえば三つ目のエピソードはスピルバーグの名作「激突!」のバリエーションといえばよいか。高級新車に乗る男が郊外の道をのろのろ走るおんぼろ車に苛立ち、追い抜きざまに悪態をつく。しばらくしてパンクに気づいた男が道端に車を停めタイヤ交換に四苦八苦していると、そこへ例の車が追いついて来る。あとはご想像にお任せしよう。恐らく映画は皆さんの想像を遥かに超える結末へと進む。
 そうして、最後のエピソードで観客はまたしても裏をかかれる羽目になるのだが、それは見てのお楽しみだ。(健)

原題:Relatos salvajes
監督:ダミアン・ジフロン
脚本:ダミアン・ジフロン
撮影:ハヴィエル・ジュリア
出演:リカルド・ダリン、リタ・コルテセ、ダリオ・グランディネッティ、フリエタ・ジルベルベルグ、レオナルド・スバラーリャ、オスカル・マルティネス