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シネマ見どころ

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「終わりの鳥」(2024年 イギリス・アメリカ映画)

2025年04月30日 | 映画の感想・批評
 A24制作の作品である。A24とは2012年設立のアメリカの独立系エンターテイメント企業で、映画の制作・配給を専門としている。ニューヨークを拠点として革新的で芸術性に富んだ作品を次々と世に送り出している。アカデミー賞では作品賞ほか数々の受賞歴を誇り、次世代型映画企業として多くのファンを獲得している。本作で長編監督デビューを飾ったのはクロアチア出身のダイナ・O・プスィッチ、40歳の女性監督である。
 難病におかされた15歳の少女・チューズデーは自分の身体はそう長くは持たない事に気付いていた。母のゾラとの二人暮らし。ゾラは看護師のビリーがやって来ると仕事に行くふりをしてカフェや公園で時間をやり過ごし、自宅の置物を売っては治療費を捻出していた。ある日、チューズデーの元に一羽の鳥がやって来る。人間と同じ大きさになったり手の中に収まるほど小さくなったり、変幻自在で言葉を操る奇妙な鳥。地球を周回して死期が間近に迫っている生き物に終わりを告げる『デス』だった。留守の母を案じたチューズデーは彼をジョークで笑わせ、時間稼ぎをすることに。帰宅したゾラはデスの存在に驚き、娘からデスを遠ざけようと、まさに体当たりで死闘を繰り広げ小さくなったデスを飲み込んでしまう。
 デスの居なくなった世界では混乱が続き、世界はパニックに陥っていく。突然巨人化したゾラはチューズデーを背負って、死を待つ人々を解放するための旅に出る。それはゾラが娘と別れるための旅、娘の死を受け入れる旅でもあった。
 チューズデー役のローラ・ペティクルー、ゾラ役のジュリア・ルイス=ドレイファスは共に作品の世界に入り込み惹きつけられる。母娘の関係が逆転する場面のチューズデーの冷めた眼、デスと戦うゾラの凶暴な暗い眼が印象に残る。デスはポップな赤い鳥。色々な種類のコンゴウインコをモデルにデザインされたと聞くが、死の化身にしては感情豊かだ。嫌われ者としての自己を省みて愚痴やジョークも飛ばす、皮肉屋のキャラクターは極めて人間的だ。デスの眼も鳥でありながらも視線で物語っているところがより人間的だ。
 ゾラが喪失感に向き合おうとしている時、ゾラの前に現われたデスは彼女に静かに語りかける。この最後のデスの言葉は、是非劇場で直接聴き体験してほしい。本作品のすべてがこの言葉に集約されている。悲しみに浸りながらも、結末は寧ろ希望に満ちている。(春雷)

原題:TUESDAY
監督・脚本:ダイナ・O・ブスィッチ
撮影:アレクシス・サベ
出演:ジュリア・ルイス=ドレイファス、ローラ・ペティクルー、リア・ハーヴィ、アリンゼ・ケニ