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「去年の冬、きみと別れ」(2018年日本映画)

2018年03月14日 | 映画の感想・批評
 原作の中村文則は芥川賞作家である。芥川賞作家がミステリを書いて大成したのは松本清張が代表的だが、ほかにも五味康祐、宇能鴻一郎など純文学から娯楽小説に転身して成功した人たちがいる。そういえば、大岡昇平、坂口安吾だってミステリの名作を書いた。
 この映画は冒頭、目の不自由な若い女性が点字で手紙をしたためたあと、封をして涙を流すという意味ありげな場面ではじまる。実は、これが後半で重要な意味を持つという伏線になっている。そういう場面が多く仕掛けられていて、スリラー・サスペンスの定石を踏んでおり、そこは合格点だろう。
 フリーライターの若者(岩田剛典)がある事件の真相究明記事をさる週刊誌に売り込みに来る。モデルの盲目の女性を撮影中の火事で焼死させ死なせてしまった若手写真家(斎藤工)が保護責任者遺棄罪で執行猶予付の判決を受けるのだが、実はそれは芥川龍之介の「地獄変」に想を得た写真家の故意による焼殺事件だというのである。半信半疑で話を聞く記者(北村一輝)は編集長の頼みでとりあえずその若者の面倒をみることになる。
 ずばり見せ場は後半、話が意外な方向へ急転換するところから始まるといってよい。まあ、その間はよくある話として聞き流しておくのがいい。なにか物足りない映画だなあとさんざんひっぱっておいて、後半俄然面白くなるという仕掛けが施されているのだ。
 第一の意外な事実が明かされると、観客はある「偶然」に気がつき、ひっかかりを覚える。ミステリにとって「偶然」は禁忌だから、そこで興醒めするのだけれど、もう少し話が進展すると、実は偶然ではなく必然だったことがわかる。原作は未読だが、このようにミステリのツボをよく心得ているところに好感を持った(これ以上書くとネタバレになるのでやめる)。
 ひとつ、難点をいえば、真相を追う若者が写真家の邸宅に飾られた巨大なモノクロ写真を見て、それに惹き込まれる場面があるのだが、この写真の被写体がひと目ではよくわからないというのは私だけだろうか。のちほど改めて写真のテーマが明かされ、そこで何が写っているのかようやくわかる。アート写真の多くがモノクロだといわれればそれまでだが、ここはカラーにすべきではなかったか。(健)

監督:瀧本智行
原作:中村文則
脚色:大石哲也
撮影:河津太郎
出演:岩田剛典、山本美月、斎藤工、北村一輝、浅見れいな


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