定年した自分へのご褒美として、弓を買おうと以前から思ってはいたが、
こんなに簡単に買ってしまうとは思ってもみなかった。
銀座山野楽器のチェロフェアーに行ったのは、プロの職人さんに見てもらって、
いろいろなパーツを交換してもらうつもりだったからだ。
専属の職人さんに、結果としてお願いしたことは下記4点になった。
1)弦の全張り替えと毛替え
2年間取替えてこなかった弦を全取替えしてもらうこと(調弦もお願いした)
同じく毛替えも、チェロ購入後、2回目だ
2)駒の高さの調整
「駒が高いですね、これじゃハイトーン大変でしょ」と先輩に言われていたことから、
A線側で1ミリ、C線側で2ミリ下げてもらうことにした。
(職人さんが計測すると、標準的な高さの範囲内ではあったが、調整をお願いした)
<低くなった駒>
3)ペグ穴の調整・改善
ペグが上手に止まってくれず、とりわけD線のペグがズルッというか、クルッと回ってしまう症状を相談すると
「新作楽器は乾燥とともに、ホールが歪みますから」と 空の状態でペグを回してみて
「楕円形に変形してきていますね」とのことだった。
確か回してみると回転にムラがあることがはっきり感じられたので、その調整もお願いした。
<穴を削って真円に>
4)毛替えを終わったあと、グリップからエンドのネジの間の木部が汗で色が変わってしまっているのを見て
「すぐ出来ますから」とニスを改めて塗ってくれた。(これも放っておくとよくないらしい)
さて、修繕などをお願いしたあとで、7Fの特設会場に向かった。
今日はチェロフェアーでもあり、会場には沢山のチェロ、チェロケース、弓が並べられていた。
普段は置いていない300~500万クラスのチェロも沢山置いてある。
弓は会場中央に数十本はあったと思う。
どうしても弓に目がいってしまう。
あれこれ触ってみても、何が良い弓なのか、高いのか安いのかもわからない。
チェロレッスンの師匠は「バランスがいいい弓を買うといいですよ」とアドバイスをくれていたものの、
バランスといわれても、どのバランスなのか、重さのバランスを天秤のように計ってみてもよく分からない。
結局 馴染みの店員さんに
「お勧めの弓、考えてあるんでしょ?」とたずねると
「もちろんです。お客さんのチェロに一番合った弓を探しておきましたから」と一本を見せてくれた。
(以前、予約していた毛替えをキャンセルしたとき「次は弓のランクアップですね」と勧誘を受けていた)
「いくらなの?」(触ってもみないで、ここから聞いてしまうのが悪い癖かもしれないけど・・)
「○○十万です」(・・完全に想定以上)
「で、いくらまでにしてくれるの?」
「△△までなら」(○○×80%)
「やっぱそれくらいまでですよね・・・」
などと、冷やかし気分で始めた会話だったけど、渡された弓を持ってみて驚いた。
「なんてしっくりくるんだろう。手に馴染むとはこういう感触か!」
今まで使っていた弓は、ドイツ製のチェロを購入したときに一緒に買った中級品だった。それでもかなり高額。
それから、サイレントチェロを買ったときに付属していたYAMAHAのカーボン弓の2本だった。
別に不満ではないけど、師匠がレッスンのとき先生の持つ様々な弓を弾き分け、
次にマイ弓を使って演奏してくれるけど、必ずしも満足できる弓でもないという感触を持っていた。
ところが、この弓は・・・何というか軽やかで、持っているだけで温かみを感じる。
色も赤みがかったお洒落なつくり
(弓を色で買う人はいないとは思うが、なんてきれいな弓だろうと感じた)
つまり気に入ってしまったのだ!
衝動買いというのは面白いもので、第一次決断は、無自覚のうちに行われているのだと思う。
そして第二次決断では、理屈や言い訳を並べて自己説得するプロセスを踏むのではないだろうか。
たとえば
・そんなに高給取りではないのに、友人の国立大学教授が100万円で
バイオリンの弓を購入して自慢していたけど、それに比べればいいか・・・とか、
・30数年働いてきたのだから、自分へのご褒美なんだから、誰も文句は言わないよな・・・とか、
・クレジットカードの限度額が低いから、ひょとしたら買えないかもしれないし・・・とか
これらが30秒くらいの間にさまざまに駆け巡ったあと
「じゃこれください」と言ってしまっているではないか!
そして、どうせ自分で弾いても分からないだろうと思ったので試し弾きなしで
リペア中のチェロケースに入れておいてもらうようお願いした。
そのあと、弦と毛の交換、チェロ全体の調整に3時間かかるというので、久しぶりに銀ブラを楽しんだ。
昼間の銀座は女性と老人、外国人の街だ。
今一番聞こえるのは中国語ではないかと思う。
ひときわ人だかりになっていたのは、ミキモト前のクリスマスツリー。
「つま恋」から根っこごと移植し、クリスマスが終わると公園に寄付されるのだという。
<ミキモト前のツリー>
さて、飛んで帰ってチェロを弾いてみた。
なんと素晴らしい響きだろう!
弦を交換した効果なのか、毛を取り替えたからか、はてまた職人さんの調整によるものか
音が輝かしい。良く耳を済ませると、チェロの中に残響が多くなっているのだ。
今度は3本の弓を持ち替えては、聞き比べた。
始めは「ちょっとしくじったか!」と思わないではなかった。大した差が認められなかったから。
しかししばらく聞き比べをしてゆくとはっきりと違いが分かった。
<3本の弓、奥がカーボン、手前を新規購入>
まずカーボンの弓は、音色が均一で、くぐもっている。
まるで均質な、細長いプロセスチーズのようなイメージの音色に聞こえてくる。
次にこれまで使ってきた弓を試す。
カーボンに比べ音が複雑になり残響も豊かだ。
ところが、本日購入した高額な弓は、その残響の量と幅が全然違って聞こえてきた。
恐らく倍音の量と種類が多いのかもしれないが、一言で言えば、これまでの弓より「太い音」がする。
太いけど、輝かしい高音も豊かに混じっているのだ!
これからチェロとの付き合いが変わるとはっきり感じた。
これまでうは、正確に、速く、上手に弾きこなすことばかり気にしてきたけど、
美しい、豊かな音色を手に入れられると思うと、ただチェロの音色と共にあるだけで
幸せな気持ちになれるのだと思う。
よく釣り人が、門外漢からみると「何でそんな竿に何十万も掛けるの?」といわれながらも
”ためつすがめつ”飽きることなく竿を眺めているように、何度でも新しい弓を眺めてしまった。
きょうは 本当にラッキーだったし、いい買い物をしたと思う。
ルンルンが伝わります。
自然とチェロに触る時間も増えることでしょう。
僕も頑張ろう
「恋人」いいですね
この歳で恋する相手には丁度いいかも。
触る時間も確かに増えました。
でも飽きたら大変!金かかるんですよね。
こんな理屈初めて聞きましたねー。
ハリーさんの謎の一つがわかった気がします。
僕には、この「理論」を真実にするためにも
練習あるのみです。
楽器XリードX本人=演奏水準、
と聞きました。
弦楽器の場合は楽器=チェロ本体X弓
になるのでしょうか。
私も含めてあとは本人の品質向上を図らなければ。
そうなら、僕も水準アップに一歩前進ですね。
ただ買うだけならお金でなんとかなるでしょうが、音色や感触の違いが分かるレベルというのも実力だとしたら、それもいえるかも知れませウ。
老哲さんの真似じゃないですが、昨日ミラノ入りし、今日からベネチアです。
チェロの産地クレモナは素通りというパックツアーですが、音楽のゆかりある場所を尋ねて見たいです。