10月定期演奏会の客演指揮者・中島章博さんによるブラームス交響曲第2番の初合わせがあった。
「ドイツ音楽、ブラームスのエッセンス、音の形、調性感とかかなり積み込みましたね。」
とご本人が最後にまとめられたように、大変示唆に富んだ有意義な初練習だった。
でも一度聞いただけでは忘れてしまうので、きちんと復習しなければと、録音のディクテーションをしてみた。
以下なるべく中島さんのアドバイス、指示を書き留めてみよう。
●リピートについて
「まずは音を聞きながら、初めて通させてもらうので、やりたいテンポでやります。離脱しても結構ですが、特に4楽章は危ないですが。
今回は1楽章は繰り返しなしてやりましょう。私はリピートにはこだわらないので、本番はどちらでもかまいません。」
●ピッチカート
1楽章終わったところでいったん止めて・・
「一番気を付けてほしい点は、弦でいうとピッチカートです。ピチカートはオーケストラの持病みたいなもので、必ず走る。
ピッチカートの表と裏が重なってしまったのもそれが原因。ただすごくいい音してますね(一同笑い)。
あとはバランス、節度を持って行けばよくなる」
●フレージング
「1楽章は4分の3と書いてあるが、管楽器の方1小節ごとにスラーが掛かっていると思いますが、フレージングとしては4小節のフレーズがある。
ドイツ音楽は音があるべき場所にしっかりあるというのは基本ですが、同時に音楽はどこに向かっているかを感じるとすごく良くなると思う。
たとえば冒頭に4小節のフレーズ(起承転結)があるけど、それを受けたあとの木管は4小節を起承転結とすると「転」の部分ですね(と転を強調して歌う)
ブラームスはリズムの重さ感覚がひっくり返ったりするところが沢山出てきますが、そういうところはブラームスが引っかけているんだということを分かって
”これは”というところがあるともっとよくなり、面白いと思います。」
●カウントの仕方
2楽章を終わったところで・・・
「2楽章の面白いところは、初めに16分音符軍団が出てくる、途中8分の12で3つに分割する軍団が出てきて、
最後に4つ軍団と3つ軍団がせめぎ合うところが面白いのです。気を付けないと付点8分や16分は必ず3連符になります。
そうするとこの曲の持つ面白さは半減しますから、必ず16分音符で数えてください。遅い楽章ほど細かくカウントしましょう!」
●ブラームスと調性について
4楽章終わって・・・
「ブラームスは気難しいと感じるかもしれませんが、大人に対して自分の意見言えなくて、本当は心の中はピュアで、子供が好きで自然が好き。
Gdurというのはベートーベンの第9の調で、歓喜の部分をフィーチャーしている。ブラームスらしさにはドイツ音楽の重たさがあるんですが、
重たいものを感じるときは、相対関係として、軽かったり、進んでゆくものがあるから重たさを感じるわけです。
一番良い演奏は自然であることだと思うんですが、自然はなぜ綺麗だなと思うかというと、シンメトリーっぽくてシンメトリーではなかったり、
コントラストがあるところが面白いと思います。音楽もコントラストがあるから面白い。
人間は欲しいものがあると、ピュアであるほど手を伸ばして、欲しいものに向かって行きたくなる、行きたくなるんだけど、
ちゃんとスーッと息を吐く重たさが必要です。そういった人間の感情と一致した形で入ってゆくといい演奏になると思うんです。
4楽章になると、始めに生き生きとした部分、spiritoと書いてあるけど、重さも軽さも感じられればいいなと思っています。」
(恐らく緩急のことなんだろうな~)
休憩後は第1楽章に集中し、下記のやり取りがあった。
●冒頭のチェロ、バス
「嫌な出だしだけど、怖がらず、2小節目につなげて柔らかく、拾ってあげるように弾くこと。
ダウンで開始するのは私も好きだけど、弓の根元ではなく、中間より上で弾くこと。弓を返す時はアクセントがつかないようにすること。」
「息を凝らさず、硬いものに乗っかって弾いているのではなく、息を吐きながら弾く。」
「怖いフレーズだけど、怖い時ほど弓を使うこと。」
「32小節目の3泊目Fはすごく大事。」
●3拍子
「3拍子は難しい。3は三位一体で完全を表す。ちなみに4拍子のCはABCのCではなく、完全ではない欠けていることを表している」
「チェロ3拍目から出るところ、重さがある。3拍子は1・2・3で1に重さを感じて」
「(低弦のピチカート2拍目が大きすぎを受けて)、2泊目を弱くすると、柔らかさや寂しさのような感じが出ます」
●sf(スフォルツァンド)
「ブラームスは、ドイツものは全てそうですが、スフォルツァンドは全てエスプレッシーボだと思って下さい。例外はありません。きつくなりすぎないように。」
●cant.(カンタービレ)
「82小節のCant.は歌ですね。歌の形式には、1+1+2というのが良くあります。1+1のあとは長いんです。
ここの部分は、ちょっとブラームスの子守歌に似ていますね。(4小節で)そういうのを感じながら演奏しましょう。」
●スタッカート
「スタッカートは「切ること」と思っている人はいますか?」
(あえて尋ねられれば、違うんだろうなと思いつつ手を挙げると・・・)
「20世紀の音楽が出てくるまでは、それは忘れてください。短いというのは20世紀の感覚です。
基本的には大昔の話ですが、昔の弓は均一に弾くのは難しかった。
バロックまではスタッカートは必ず2つ付いていた。この意味は減衰しないで弾いてくださいという意味です。
そこから転じて音と音の間を離すことがスタッカートの意味です。ということはセパレートという意味です。
ドイツ音楽らしさを出すには、大体音価半分にしてテヌートで弾くと、いつも皆さんが聞いているCDみたいになるはずです(笑い)、
どうしても日本人は三味線みたいにペンペンとはじいてしまう。
ちなみにモーツアルトはセパレートというより均一の意味が強くなってくるんですが、ベートーベンは必ずそうです。」
(ここらあたり、いずれ取り組む「コリオラン序曲」「ハフナー」の前ふりもあってのことだと感じた)
●メゾ・スタッカートの意味
84小節のメゾ・スタッカートについての質問に答えて・・・
「もともとは一弓でウワン、ウワンとやっていたんですが、音と音の間を空けてワンフレーズで弾く、少し音は離れるけどフレーズはくっついている奏法です」
(スラースタッカートってメゾスタッカートとも言うのね(^^;)
●fとff
「フォルテ1個とフォルテ2個はブラームスはきちんと使い分けています。」
●poco f espr.の意味
「136小節から始まり繰り返される旋律は、最後の付点2分音符とタイでつながった4分音符は伸ばし過ぎかもしれない。
少し呼吸を感じてみてください。それがpoco f espr.の意味です。」
●piu f の意味
「ベートーベンだとかなり確率が高く9割5分くらいで、ブラームスで8割、ワーグナー7~8割はですが、
ピウフォルテはフォルテとフォルテシモの間に挟まれて使われる確率が高いです。
ピウフォルテが出てきたら、そこから強くする意味はありますが、それよりはffに向けて、どんどん力強く向かってくださいという、矢印が見える役割があります。
ベートーベンはすごくわかり易く、大体どの曲もfとffの間に使われていて、クレッシェンドに近いかも知れませんが、感情の変化を力強く引き出して
ffに音楽を向かわせてくれという意味です。これはドイツ音楽ではほとんど例外はありませんので、覚えておくといいかもしれません。」
●4分音符の奏法
「ドイツ人はドイツ語で考えています。」
(へ~そうなんだ!)」
「全部の言葉に間があるんです。」
(イッヒ・リーベ・ディッヒと隣のお嬢様がつぶやく)
「そうです。ちょっとだけ音と音の間に隙間がある。これが何も書いてないときの4分音符です。」
(ベタ弾きではないんですね?の問いに)
「私はよく言うのですが、羊羹や蒲鉾に切れ目が入っているような感じです。その蒲鉾を半分食べたのがスタッカートです。
だからはねる音というのはなかなか(ドイツ音楽には)ないんです」(わかり易い!)
以上、ドイツ音楽講座のような、高校の授業に戻ったような、和気あいあいとした楽しい時間だった。
ブラームス楽しみになってきた。でも今週末は、モーツアルトとベートーベンなので、頑張らないと。