昨年秋ごろだったと思う。
市原フィルで「ラフマニノフ交響曲第2番」が決まったころ
古巣の茂原交響楽団では「マラー交響曲第5番」を演奏すると聞いた。
どちらも生きている間に一度は参加したい夢の演目。
マーラー5番は、アマチュアが演奏することは、ほとんど無理だと話し合ったことがある・・・
でも茂原のみなさんは、この曲を選んだのだ。なんという気合の入った大胆なチャレンジだろう。
あの美しいマーラー5番にもし参加できるなら参加したいものだな・・・
茂原の定演は毎回聴きに行っているものの、退団した楽団にお願いするのも気が引ける・・・
自分の力だと、市原フィルでラフマニノフ2番を演奏するだけでも精いっぱいだよなぁ・・・
でもこの可能性を逃すと、おそらくこの世でマーラー5番の演奏参加は無理だよな・・・
こんな迷いの時に、茂原の弦楽器の皆さんが大勢で、市原フィルの演奏会を聴きに来てくれ、
「ぜひ一緒にやりましょう」「マーラーでともに苦しみましょう」と誘ってくれたのだった。
「こんなチャンスは絶対ない!」「いつやるの!今でしょ!」と思い切って参加を願い出ると
「団員としてちゃんと練習に参加するなら」と入団を許したいただいた。
「サイは投げられた」「ルビコン越え」「清水の舞台から」的な心境で
2つの楽団に同時所属し、難曲に取り組むことに至ったのだった。
以来、年末年始も休みの日も、いや仕事を後回しにしてでも、
全ての時間を見つけて、マーラーとラフマニノフに食らいつこうとしてきた。
ところがところがである。
どちらの曲も、とても手におえるシロモノではなかった。
楽譜をいくら読もうとしても、全然頭に入ってこない。実感できないからすぐ眠くなる。
特にマーラーの譜面はめちゃくちゃ細かく、限りなく読みにくい表記になっている。
曲はハ音記号、ヘ音記号、ト音記号が、数小節ごとに目まぐるしく入れ替わってゆく。
「マーラーは転調が趣味なの」というくらいやたらと入れ替わる。
しかも♭6個(こんなにくっつける必要あるの?)その直後に#5個みたいに。
後から指揮者が言っていたけどマーラー本人が「すごく演奏するのが難しい曲ができた」と自慢していたとか。
大学の友人は「マーラー5番やるの!? めまいがするよ」と警告してくれてたっけ。
というわけで、マーラーもラフマもなかなか手に収まってくれない。
そんな状態でできることは何か。
それはCDで曲を聴き、譜面とにらめっこし、作曲者のバックグラウンドを調べることはできる。
マーラーといえばバーンスタインという話を聞いたので、とりあえずマーラー全集を買ってみたり
マーラーの書籍を購入したり、ラフマニノフのDVDを借りたりもした
読んだり、聴いたりして演奏が上手くなるなら「世話~ない」んだけど、気休めにはなった。
しかし実際に、CDと譜面を何回も照合していても、何が何だかわからなくなり、どうにもならない。
それなりに個人練習をしたあと、リハに参加しても、弾けるところは限られているし、やはりタイミングがつかめない。
曲と楽譜との連携がなできないままに時間が過ぎてゆく。
曲の隅々が体に入ってくるまでは、合奏は不可能なんだと改めて気づかされる。
そんな中でBS放送でイスラエルフィルのマーラーの素晴らしい演奏を聴くことができた。
「これはやっぱり生の演奏を見るべきだ!」と思い至り、演奏会でラフマとマーラーを探した。
たまたま関西出張の日に、飯森範親さんで日本センチュリーのラフマニノフ2番がある。
シンフォニーホールのオーナーを知っていることもあり、最高の席を提供いただいた。
東京では、読響の定期演奏会に、下野竜也さんの指揮で「マーラー5番」を聴くことができた。
やはりプロの生演奏は素晴らしかった。
マーラー5番もラフマニノフ2番も、いつも演奏会をやっているわけではないのに、
まるで針の穴を通すような、奇跡的タイミングで2つの演奏会を聴くことができ
こんなすごい曲に参加できるわが身の幸運を改めて感じながら1月を過ごすことができた。
(ただ、大きな反響を得た東大オケのマラ5と、中島さんによるラフマニノフは諸事情で
チケットを他の人にプレゼントしたり、キャンセルせざるを得なかったのは本当に残念・・・)
さまざまな手段でセルフモチベートしながら、空き時間があれば譜面やスコアーを見ているし、
仕事の行き帰りも、家に帰ってからも、マーラーとラフマニノフばかり聞いていると、
うたた寝の間にもマーラーの2楽章が鳴っていたり、朝目覚めてからもラフマが頭から離れなかったりする。
ちょっと脅迫観念になってきてるのか、無理がたたっているのか、高血圧が発覚。
個人練習だけでは、なかなか前に進まないな~と、壁の高さにうんざりし始めているころ2月になった。
すると、市原フィルでは正指揮者が練習を開始し、茂原ではチェロのパートトレや、指揮者による弦トレがあり
ようやく譜面と楽曲の流れがくっつき始めている。
演奏できるようになるのはまだまだだが、弾くか弾かないかを選択できる耳がだんだんできてきているのだろう。
「これなら何とかなるかもしれない」と春らしい気分になってきている。
茂原のマーラーの定演は5月の連休明け。市フィルのラフマニノフは6月の予定。
それまで、すべての週末、祝日は2つの楽団のリハーサルやトレーニングで埋め尽くされた感じだが
この調子なら、少なくとも自分は何をやっているのか分かって参加できるようになる予感を感じている。
無謀と自分でもわかったうえでの「人生最大のチャレンジ」なのだが、
苦痛の量 < 喜びの量 と変化するように、練習あるのみだ。
としか言えない。(笑)