市原フィル恒例の、定期演奏会前の合宿があった。
一週間前の総練では弦楽器を中心に「綱渡りの定期演奏会になるのでは・・・」と懸念していたけど、
合宿最後の「通し練習」の録音を聞くと、見違えるような まとまりを見せた。
この背景には、仕掛け屋・我がコンミス言う所の「お楽しみアンサンブル」が絶大な効果を発揮していると感じる。
交響曲の一部を切り取って弦楽アンサンブルを組むというアイディアは、コンミス殿がどうやって発明したかは分からないが、
賞罰があるわけではない発表会に全員が真剣に取り組み、力量アップという絶大な効果を生んだと思う。
その「お楽しみアンサンブル」の仕組みはこういったもの。
step1:コンミスが合宿前に演奏重要or難易箇所をメールし、宿題を出す(今回はチャイコフスキーの1番から4コース)
step2:合宿初日にくじ引きで、弦楽器を8組の弦楽四重奏の形に編成する(一部にコントラバスも入る)
step3:編成されたグループに分れて4コースを演奏してみて、グループに合ったコースを選択する(初顔合わせだし全員ソロなので難しい)
step4:管楽器を含め団員全員が見守る前で、練習成果を演奏を発表する(ミニミニ室内楽大会みたいに)
【これが今回の組合せ表】
宿泊所の食堂のホワイトボードに、コンミスがさりげなく書いているけど、毎回ドキドキする。
普段ならチェロ主席に合わせていれば何とか曲に着いてゆけるし、“エアー・チェロ”も可能だけど、
弦楽四重奏形式だと自分が丸裸になるだけでなく、他のパートに迷惑かけるのだから。
今回コンミスがチャイコの1番から選んだのは下記の「4コース」
◆コースA:2楽章でチェロが主旋律を朗々と歌う見せ場がある。チェロの頑張りどころ。
◆コースB:3楽章で1stバイオリンとチェロが、曲中最も美しい旋律を聞かせる場所。
◆コースC:4楽章の前半、チャイコらしい速い動きとシンコペーションが組み合わさったメカニカルな箇所。
◆コースD:4楽章の中ごろで、ビオラが主題を演奏した後、各パートがそれぞれ違った動きをするところ。
我が「み組-A2」グループでは4コースとも一通り合わせてみた後、コースAとコースDの決選投票になり、3対1(?)でコースDに決定した。
(実は後ほど分かるのだけど、8つのグループの誰も選ばなかった無謀な賭けのコースだった)
いざ練習を始めると、全然合わない、曲が続かない、ごちゃごちゃになった。
1回目、チェロ全く歯が立たず、始めから入れず。
2回目、やはりチェロ落っこち「すいませんもう一回」
3回目、4回目、チェロが落っこちたり、入り間違ったりボロボロ。
始めの12小節はビオラ独奏なので、我が頼れるビオラ嬢が何度も繰り返してくれ、ただただ恐縮する。
「何度もすみません」「いいの、いいの」と嫌な顔ひとつしないビオラ譲。
5回目くらいになってチェロも入ってゆけたのだけど・・・
「おかしい、合っちゃった!」とビオラ嬢が渋い顔・・・
「合ってるならいいんじゃ・・・」と僕
「ここはビオラとチェロが合っちゃいけないの!」とビオラ嬢
「そうなの・・・」と僕は、アホみたい。だっていままで隣のビオラ聞いてなかった証拠
【これがそのビオラとチェロパート】
Allegroの速度で、ビオラとチェロが同じ旋律を、1拍だけずれて弾いているとは・・・
6日目、7回目・・・チェロ主席も見回りにきて付きっ切りで歌ってくれ、ビオラとのずれは「確保」できるようになってきた。
何回か前のオケ総練習で、辻さんが”阿弥陀如来”と笑わせて練習した部分の、本当の難しさを実感した。。
ところがである、チェロとビオラが「正しいズレ」で演奏できるようになると、
今度は1stバイオリンOさんが「合わないと首を傾げ、
さらに2ndバイオリンTさんが「おれ間違って演奏しているみたい・・」と雲行きが怪しくなってきた。
チェロ主席に「俺、間違って弾いてる?」などとTさんが聞いたりしてる。1stと2ndも1拍ずれてるのだ。
(ちなみに、チェロ主席も「僕も間違った音で弾いていた」と言い出す場面もあったっけ)
そのうちエキストラのMさんが支援に登場して、速度を2倍に落として手拍子を繰り返して手伝ってくれるという大騒ぎ。
速度を遅くすると、遅くしたで、これまた合わなくなってくる・・・
ビオラ嬢も掛け持ちの「み組-A1」グループを、ほとんどほったらかしにして取り組んでくれる。
途中顔を出したコンミスだけはちょっと違った。
「すご~い、コースD他のグループはどこも選ばなかったのに、選んでる!」と
ニコニコしながらまたどこかに巡回に去ってゆくのだった。
その後も練習は続くのだが・・・
隣の「み組-A1」からはビオラ抜きの3重奏が聞こえてくるし・・・
我が「み組-A2」グループに関わりっ切りとなっているビオラ嬢の髪の毛は逆立ってくるし・・・
1stバイオリンのOさんの眉間にはますます深いしわが刻まれてくるようだし・・・
2ndバイオリンのTさんは首を傾げつつだし・・・
チェロの僕は「この選択は全く間違っていた!」と心のなかでブツブツ自分を責め続けているし・・・
そんなグループの回りを回って、チェロ主席は立ちっぱなしで指導するし・・・
行き掛かり上からんでしまったMさんの手の平は腫れ上がってくるし・・・
1stバイオリンのOさんから「茨の道を選んでしまったようだ」と皆が納得し過ぎる言葉を吐きはじめるし・・・
・・・とうとう夕方の練習は、一回も合うことなく終了。
独奏の連続でクタクタのビオラ嬢は「コースAにする?」とポロリ。そのまま一旦解散となった。
自分だけ合宿を抜け出し、初孫の顔をみに帰宅したものの、へとへとになっているのに、
明日の発表を考えると、おちおちしてられず深夜までスコアと首っ引きで練習をした。
そこで再発見したのは、チャイコフスキーはこんなところに罠をしかけていたんだと改めて実感。
「あみだにょらい」と辻さんが笑わせた箇所の奥の深さに思い至ると共に、
誰もが選ばなかったDコースを仕込んでおいたコンミスの恐ろしさを実感しつつ夜は更けていったのであった。
【これが 阿弥陀如来 】
しかし しかし、奇跡は起こった!
発表会場は民宿の食堂。春の盛りのような日差を浴び、外には水仙が咲き乱れている。
発表会トップで演奏した我がグループだったが、練習でただの一回も同時に終わることが出来なったにもかかわらず、
コースDを見事に一致して終了することが出来たのだった。(無論Mさんの手拍子に助けられたけど)
終わった瞬間、会場も1.2秒ほど沈黙のあと「ウォー!」と喚声と拍手が沸き起こり、
自分も信じられない気持ちで 「やっと合った~!」と叫んでしまった。
「コースDを選んだので、すごい意欲的、向上心高いって思た」とビオラ譲はつぶやいてたけど、
本当の理由はチェロは始めから12小節休みだし、途中も4小節、6小節と休みが多いので
「楽チ~ン(^^)v」 というだけで選んじゃったんだけどね。ごめ~ん。
帰宅後、コンミスからの合宿前メールを見直してみた。
すると、こんなコメントが書かれていた。
【コースD:できたらすごい!チャレンジコース。
フーガにチャレンジ!正しく弾けたら天才!
メトロノーム付でOK。でもなしでできたら神様レベル!
みんなやっていること違うので、アンサンブルしようと思わなくてOKです。
拍通り正しく弾いて、そのうち他の人がなにやっているかわかってきたらGood!
文句はチャイコフスキーに言ってくり 】
文句はチャイコフスキーに言ってくり~って・・・・
はいはい、それほど難しい場所だったのね。
メールをきちんと読まないおじさんが多かったからこういうことになってけど、チャレンジは楽しかった。
それにしてもこんな場所をきちんと選択するコンミスの選択眼の素晴らしさを思い知らされたし
次々と支援にやってきてくれる弦楽器の団員やエキストラの皆さんの暖かさを感じた合宿だった。
皆さんありがとう! 今度はちゃんと事前にメールを読んどくね~(^^)
おまけ:今回チェロ主席も参加している発表シーンです(今回の模範演奏です)