チェロ五十代からの手習い

57才でチェロに初めて触れ、発見やら驚きを書いてきました。今では前期高齢者ですが気楽に書いてゆこうと思います。

いばらの道の選択が、歓喜につながった合宿アンサンブル

2014年01月27日 13時56分59秒 | 市原フィル

市原フィル恒例の、定期演奏会前の合宿があった。
一週間前の総練では弦楽器を中心に「綱渡りの定期演奏会になるのでは・・・」と懸念していたけど、
合宿最後の「通し練習」の録音を聞くと、見違えるような まとまりを見せた。

この背景には、仕掛け屋・我がコンミス言う所の「お楽しみアンサンブル」が絶大な効果を発揮していると感じる。
交響曲の一部を切り取って弦楽アンサンブルを組むというアイディアは、コンミス殿がどうやって発明したかは分からないが、
賞罰があるわけではない発表会に全員が真剣に取り組み、力量アップという絶大な効果を生んだと思う。

その「お楽しみアンサンブル」の仕組みはこういったもの。
step1:コンミスが合宿前に演奏重要or難易箇所をメールし、宿題を出す(今回はチャイコフスキーの1番から4コース)
step2:合宿初日にくじ引きで、弦楽器を8組の弦楽四重奏の形に編成する(一部にコントラバスも入る)
step3:編成されたグループに分れて4コースを演奏してみて、グループに合ったコースを選択する(初顔合わせだし全員ソロなので難しい)
step4:管楽器を含め団員全員が見守る前で、練習成果を演奏を発表する(ミニミニ室内楽大会みたいに)

【これが今回の組合せ表】

 
宿泊所の食堂のホワイトボードに、コンミスがさりげなく書いているけど、毎回ドキドキする。 
普段ならチェロ主席に合わせていれば何とか曲に着いてゆけるし、“エアー・チェロ”も可能だけど、
弦楽四重奏形式だと自分が丸裸になるだけでなく、他のパートに迷惑かけるのだから。

 

今回コンミスがチャイコの1番から選んだのは下記の「4コース」
◆コースA:2楽章でチェロが主旋律を朗々と歌う見せ場がある。チェロの頑張りどころ。
◆コースB:3楽章で1stバイオリンとチェロが、曲中最も美しい旋律を聞かせる場所。
◆コースC:4楽章の前半、チャイコらしい速い動きとシンコペーションが組み合わさったメカニカルな箇所。
◆コースD:4楽章の中ごろで、ビオラが主題を演奏した後、各パートがそれぞれ違った動きをするところ。

 

我が「み組-A2」グループでは4コースとも一通り合わせてみた後、コースAとコースDの決選投票になり、3対1(?)でコースDに決定した。
(実は後ほど分かるのだけど、8つのグループの誰も選ばなかった無謀な賭けのコースだった)

いざ練習を始めると、全然合わない、曲が続かない、ごちゃごちゃになった。

1回目、チェロ全く歯が立たず、始めから入れず。
2回目、やはりチェロ落っこち「すいませんもう一回」
3回目、4回目、チェロが落っこちたり、入り間違ったりボロボロ。

始めの12小節はビオラ独奏なので、我が頼れるビオラ嬢が何度も繰り返してくれ、ただただ恐縮する。
「何度もすみません」「いいの、いいの」と嫌な顔ひとつしないビオラ譲。

5回目くらいになってチェロも入ってゆけたのだけど・・・

「おかしい、合っちゃった!」とビオラ嬢が渋い顔・・・
「合ってるならいいんじゃ・・・」と僕
「ここはビオラとチェロが合っちゃいけないの!」とビオラ嬢
「そうなの・・・」と僕は、アホみたい。だっていままで隣のビオラ聞いてなかった証拠


【これがそのビオラとチェロパート】


Allegroの速度で、ビオラとチェロが同じ旋律を、1拍だけずれて弾いているとは・・・
6日目、7回目・・・チェロ主席も見回りにきて付きっ切りで歌ってくれ、ビオラとのずれは「確保」できるようになってきた。
何回か前のオケ総練習で、辻さんが”阿弥陀如来”と笑わせて練習した部分の、本当の難しさを実感した。。

 

ところがである、チェロとビオラが「正しいズレ」で演奏できるようになると、
今度は1stバイオリンOさんが「合わないと首を傾げ、
さらに2ndバイオリンTさんが「おれ間違って演奏しているみたい・・」と雲行きが怪しくなってきた。
チェロ主席に「俺、間違って弾いてる?」などとTさんが聞いたりしてる。1stと2ndも1拍ずれてるのだ。
(ちなみに、チェロ主席も「僕も間違った音で弾いていた」と言い出す場面もあったっけ)

そのうちエキストラのMさんが支援に登場して、速度を2倍に落として手拍子を繰り返して手伝ってくれるという大騒ぎ。
速度を遅くすると、遅くしたで、これまた合わなくなってくる・・・
ビオラ嬢も掛け持ちの「み組-A1」グループを、ほとんどほったらかしにして取り組んでくれる。

途中顔を出したコンミスだけはちょっと違った。
「すご~い、コースD他のグループはどこも選ばなかったのに、選んでる!」と
ニコニコしながらまたどこかに巡回に去ってゆくのだった。

その後も練習は続くのだが・・・
隣の「み組-A1」からはビオラ抜きの3重奏が聞こえてくるし・・・
我が「み組-A2」グループに関わりっ切りとなっているビオラ嬢の髪の毛は逆立ってくるし・・・
1stバイオリンのOさんの眉間にはますます深いしわが刻まれてくるようだし・・・
2ndバイオリンのTさんは首を傾げつつだし・・・
チェロの僕は「この選択は全く間違っていた!」と心のなかでブツブツ自分を責め続けているし・・・
そんなグループの回りを回って、チェロ主席は立ちっぱなしで指導するし・・・
行き掛かり上からんでしまったMさんの手の平は腫れ上がってくるし・・・
1stバイオリンのOさんから「茨の道を選んでしまったようだ」と皆が納得し過ぎる言葉を吐きはじめるし・・・

・・・とうとう夕方の練習は、一回も合うことなく終了。
独奏の連続でクタクタのビオラ嬢は「コースAにする?」とポロリ。そのまま一旦解散となった。

 
自分だけ合宿を抜け出し、初孫の顔をみに帰宅したものの、へとへとになっているのに、
明日の発表を考えると、おちおちしてられず深夜までスコアと首っ引きで練習をした。

そこで再発見したのは、チャイコフスキーはこんなところに罠をしかけていたんだと改めて実感。
「あみだにょらい」と辻さんが笑わせた箇所の奥の深さに思い至ると共に、
誰もが選ばなかったDコースを仕込んでおいたコンミスの恐ろしさを実感しつつ夜は更けていったのであった。

【これが 阿弥陀如来 】
 

 しかし しかし、奇跡は起こった!

発表会場は民宿の食堂。春の盛りのような日差を浴び、外には水仙が咲き乱れている。
発表会トップで演奏した我がグループだったが、練習でただの一回も同時に終わることが出来なったにもかかわらず、
コースDを見事に一致して終了することが出来たのだった。(無論Mさんの手拍子に助けられたけど)

終わった瞬間、会場も1.2秒ほど沈黙のあと「ウォー!」と喚声と拍手が沸き起こり、
自分も信じられない気持ちで 「やっと合った~!」と叫んでしまった。

「コースDを選んだので、すごい意欲的、向上心高いって思た」とビオラ譲はつぶやいてたけど、
本当の理由はチェロは始めから12小節休みだし、途中も4小節、6小節と休みが多いので
「楽チ~ン(^^)v」 というだけで選んじゃったんだけどね。ごめ~ん。

帰宅後、コンミスからの合宿前メールを見直してみた。
すると、こんなコメントが書かれていた。
【コースD:できたらすごい!チャレンジコース。
 フーガにチャレンジ!正しく弾けたら天才!
 メトロノーム付でOK。でもなしでできたら神様レベル!
 みんなやっていること違うので、アンサンブルしようと思わなくてOKです。
 拍通り正しく弾いて、そのうち他の人がなにやっているかわかってきたらGood!
 文句はチャイコフスキーに言ってくり 】

文句はチャイコフスキーに言ってくり~って・・・・
はいはい、それほど難しい場所だったのね。
メールをきちんと読まないおじさんが多かったからこういうことになってけど、チャレンジは楽しかった。

それにしてもこんな場所をきちんと選択するコンミスの選択眼の素晴らしさを思い知らされたし
次々と支援にやってきてくれる弦楽器の団員やエキストラの皆さんの暖かさを感じた合宿だった。

皆さんありがとう! 今度はちゃんと事前にメールを読んどくね~(^^)

 おまけ:今回チェロ主席も参加している発表シーンです(今回の模範演奏です)

 

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定期演奏会一月前の総練、でもちょと心配・・・

2014年01月18日 23時38分34秒 | 市原フィル

市原フィルの定演まで1ヶ月を切った。関西出張などで、練習も間引き運転だったので
久しぶりの気持ちで総練に参加したけど、まだまだ、ちょっと心配な総練だった。

指揮は無論常任の小出さん。
●「スラブ行進曲」から。
冒頭から音が合わない。指揮者からは「エキストラの方の方がちゃんと弾いてる、団員はもっと頑張れ」といきなりの激。
自分のチューニングがおかしいことも分かるけど、なんだかまだ楽団として音楽になってない感じだ。

エキストラの人を待たせるのは申し訳ないので、アンコール曲の練習を先にやった。
休憩後「仮面舞踏会」に進む。
●ワルツ
「ハチャトリアンはリタルダンドしない方がいい、チャイコフスキーならするんだけど」
「バイオリン13番の入り良くない、ビオラ以上弾き方がよくない、ティヤタタタのスラーが合わない。
●ロマンス
「音がバラバラだ、バヨリンはテヌートをしっかり弾くように」
「チェロはもっと頑張って、駒に近づけて弾くことで、もっといい音出して!」

●チャイコフスキー交響曲第1番4楽章 (冒頭はFgの主題のだけど、二人とも休みなのでその後から)
「バヨリンは、二つのフェルマータのあと、全然歌えてない、エスブレッシーボになってない。
 スラーを生かす。もっとカンタービレに。最初の付点を止めない、短くしない。」
「チェロ、スラーありと、無しの違いを認識してない。もっとスラーを生かさないと」
「スラーがだんだん取れてゆくのでなく、アチェルランドから明確に発音するように」
「ティンパニーはチェロを待って入らないで、繋がるように入って」
「ホルンは音の変化をはっきりさせて」
・・・てな具合に4楽章冒頭の辺りで矢継ぎ早のストップがかかる。

Fgの主題を様々に変奏してゆくあたりの歌い方が全然滑らかになっていないのだ。

「だめ~また切って弾いている!」
「また~! 違う違う」
「前回話したことが全然なってない。Bの12前で小さくする指示も忘れている」
「チェロちゃんと呼吸している?呼吸は管楽器だけではない、フレーズの間で必ずブレスを入れて」
・・・どうも小出さんのイメージする音楽になかなか向かってゆかない。
コンミスがいないからなのか、Fgが不在が大きいのか弦楽器に指摘が集中する。

そのうちスコアにはスタッカートが無いのに、バヨリンパート譜には、スタッカートが書かれていたことが判明。
チェロの演奏にも指摘があったが、やはりチェロ譜にもスタッカートついていたので、消すことにした。
でもここら辺は歌心の問題かな~とも思う。どうしても器楽的というか機械的に演奏してしまうもの問題なのだろう。

ところで、こんなやり取りの中で、今日小出さんは指揮者用の大きなスコアーを電車の網棚に忘れてきたことも判明。
確かにとても老眼鏡なしでは判別できそうもないのに、今日はミニスコアで指揮されているので変だな~と思っていたんだけど。

はからずも、指揮者は電車の中でもスコアー見て勉強してるんだということがうかがい知れた。
なんという勤勉さだ!全てが書き込まれているスコアーは、指揮者にとってどれだけ大事なものかと思う。
でもスコアーは無事上野駅に保管されていることも分かったらしい。本当に見つかって良かった。

さて、本日なんとなく心配になったのは、2月16日に迫った定期演奏会本当に間に合うんだろうかといこと。
チャイコフスキーやハチャトリアンの仕上がりは、まだまだ程遠い気がする。
1月末には市フィル恒例の合宿練習もあるけど、毎回こんな綱渡りだったかな~とも思う。

自分もまだまだだけど、団員全体で気合を入れないとキラキラの演奏にはならないよ~

 

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辻さんのリハで、新春は抱腹絶倒の幕開けとなった

2014年01月05日 21時49分00秒 | 市原フィル

今年初合わせはチャイコフスキーの交響曲第1番。
指揮をしてくれたのは、昨年5月の定期演奏会で交響曲第5番「運命」を客演していただいた、辻博之さん。
ドゥダメルより一つ若い?辻さんの登壇で、2014年の市原フィルは眩しいくらい明るい幕開けとなった。

辻さんといえば、何しろ楽しく、練習会場を笑いの連続に巻き込みながら、演奏する音楽の本質を刷り込ませてくれる。
久しぶりの再会だったが、今日も抱腹絶倒の中で、数々の辻マジックを見せてくれた。

第一楽章冒頭でFlのテーマが出る前後でのバイオリンPPの刻みの連続がなかなか揃わない。♭シ-ソの単純な繰り返しなのだが、人によって速かったり遅かったり、場合によってはトリルに近くなったりしているらしい。
そこで辻さん「は~い運動会。離れてる~、追いついた、今度ははまた離れた」てな感じで繰り返し練習するたびに、笑いが起こる。


フレーズの取り方も「もしこのフレーズをお風呂で歌っているとすると、こんな風に歌いますか」(何で風呂場で歌わなければならないの?なんてことはこの際関係ない)
「それとも小節ごとにアクセントをくっつけて歌わないでしょう」と実演してくれると、可笑しくて笑いがこらえられない。
と同時に自分たちの演奏が、歌ではなく、楽器に依存した音響になりすぎていると気付かされる。


辻さんは声楽出身だからか、呼吸の仕方、歌い方へのアドバイスがとても新鮮だ。
チャイコフスキーはロシア人。となると楽曲はロシア語で書かれている、というかロシア語のフレージングが元になって作曲されているという。ロシア語と、ドイツ語、イタリア語では言語が持っているイントネーションが異なるのだ。
確かにペトルーシカとか、アナスタシア、ナターシァ、ソーニャ・・・と聞いたことがあるロシアの名前など口ずさんでみるとアクセントが語の最後にもあることに気づかされる。
以前シベリウスやった時もフィンランド語のアクセントを意識するようアドバイスされたことも思い出した。

楽器ばかり演奏してきたせいなのか、ついつい楽譜を音に変換する作業ばかりやってきたのかもしれない。
交響曲であれなんであれ、元来はその国の言語に根ざした歌が元となっていて、固有のイントネーションがある。

 

さて、面白いだけなら、それまでなのだが、辻さんが素晴らしいのは、
笑わせて印象付けた部分はその楽曲の壷というか重要ポイントになっていること。
それと小さな音程の乱れも決して見逃さない。
何人もいる弦楽器の一人が間違ってもちゃんと指摘される。
(分かっていても音楽として全体がよければいちいち指摘はされないけど・・)
どうして何でも掌握できるのか、プロの指揮者というのはすごいと思う。
一方で、指揮者用のスコアとパート譜の違いや、常任指揮者の指示との違いなどは柔軟に受け入れる。
だから笑いながらもみんな真剣に取り組むことになる。

2楽章で長いソロがあるオーボエ嬢へのアドバイスでは、結果が即効で現れたのに驚かされた。
辻さんはオーボエ嬢に
「できれば、もっと大きく息を吸ってみてください。」
「椅子に腰掛けているので、腰の下辺りに重さを感じるはず。」
「そのままの状態を維持しながら演奏してみて下さい。」
とアドバイスした。
するとどうだろう、元々上手なオーボエだけど、音の太さ、音色ともに別の人が演奏しているのではと疑わせるまでに変わってしまった。まさに辻マジックだった。


辻マジック(エンターテインメント?)で今日一番お勧めだったのは「阿弥陀如来」の登場。

チャイコフスキーで阿弥陀如来?ここが辻マジックの面白いところ。
4楽章後半のテーマを各パートが掛け合うところがなかなか厄介で、うまくつながってゆかない。

「今やった ”あみだ にょらい” の部分もう一回」
と辻さんが言った瞬間、全員が何のことか分かり、笑いが起こる。



普通なら「tatata tatata」と歌う所を「あみだ にょらい」と歌ってのけるのが辻流。
団員の心を鷲づかみにした上で「”にょらい”をしっかり弾くことと」いわれると子どもでも分ってしまう。

バイオリン、ビオラ、チェロと次々に「あみだにょらい、あみだ にょらい、あみだ にょらい」と思ってつなげると、
なんだかおかしな気分にもなってくるけど、結果は実にスムーズにつながってゆく。
アマオケの頼るべきは「神様、仏様」かなんて思ったりして。

 

終始 会場は笑いに持ってゆかれるけど、この不思議な笑いの質は何だろうとも考えた。
嘲笑でもなく馬鹿笑いでもない。楽団員全員が幼稚園の子供のような笑いが起こる。
アフリカの奥地にやってきた使節団を心から楽しんで笑っている子どもたちみたいな
不思議な暖かさを感じる笑いの質だ。

きっと辻さんが音楽しようとする団員を心から応援し、ご自身がそれを楽しんでいるからこそ、
こんな暖かい、面白い、楽しい笑いに包まれるのだと感じる。


辻リハは、音楽の意味、フレーズの歌い方、各パートの掛け合い(アンサンブル)等々、
様々な気付きを提供しながら終了した。
こんな楽しい「辻音楽教室」なら個人的にお金を払ってでも参加したいと思う。

市原フィルの客演指揮者として、またのお越しを、心からお待ち申しあげたい。

 

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