チェロ五十代からの手習い

57才でチェロに初めて触れ、発見やら驚きを書いてきました。今では前期高齢者ですが気楽に書いてゆこうと思います。

チェロを無料で貸してくれるホテル

2008年10月17日 01時30分15秒 | チェロ
  仕事で、静岡県の「つま恋」に滞在している。全国でも名前が通っているリゾート施設で、秋晴れの今日、広大な敷地は緑に溢れ、清清しさ、爽やかさでは日本一かもしれないと感じる。フロントでチェックインして気になっていたのは、受付カウンター横にサイレンとチェロが置いてあったこと。渡り廊下のあちこちに電気ピアノや、防音室、サイレントドラムセットなどが配置してある。秋の演奏会も終わり、来春早々の演奏会向けにチェロの楽譜だけは持ち歩いてきたので、もしチェロに触れるならありがたいが・・・でもどうせリゾート地のこと、借りると高額が要求されるに違いない、と通り過ぎていた。

 ところが今日になって案内板をよく見ると「サイレントチェロを無料でお貸しします」と書いてあるではないか!「そんなうまい話があるの?でもひょっとして仕事先でチェロの練習ができるの!」と半信半疑で仕事の合間にフロントに相談すると「どうぞお使いください。お部屋で自由に弾けます」とのこと。夜9時半までに取りに行けば朝まで貸し出してくれるというのだ。これまで全国のホテルに宿泊してきたがチェロ貸し出しなど想像すら出来なかった。それが無料で使えるなんてまるで嘘みたいだけど、本当の話なのだ。

 仕事を早めに切り上げフロントに急ぐ。ちゃんとケースに入った「SVC-100」というチェロと、付属品を渡してくれた。部屋に持ち込んで付属品を開けてみて驚いたのは、セットの中に松脂だけでなく、本格的なチューナーもセットしてあること。そういえば「楽譜は必要ありませんか」とまで聞いてくれたっけ。なんと至れり尽くせりなんだろう。さすがYAMAHAさんの施設だけあると思った。

 弓を取り出し、松脂を塗り、チューニングしてみる。当然スピーカーはなくイヤフォンでの演奏だが「SVC-100」はサイレントチェロでも反響版は幾分かついているらしく、自宅のサイレントに比べ十分大きな音が出るので、そのままイヤフォンをつけずに練習開始。

 練習するのは来春早々に演奏会を予定しているヴェルディの「レクイエム」だ。新幹線の中でも、縮小版にした楽譜を見ながら頭での中で練習し続けてきたのは第三曲の「Offetorio」だ。チェロのソリで始まり、終始チェロがリードしてゆくのだが、4弦のCから一気に1弦のハイトーンのEまで駆け上がり、次のFから駆け下りるという印象的なフレーズが続く。当然低音部記号ではなく、テナー記号を通り越して、ト音記号の譜面とが入り混じる。

 親指をネックの根元から離して演奏などしたことはないので、この曲で初めて挑戦するのだが、少し前までは「とても無理、練習が始まるのが憂鬱。でもチェロだけで演奏するのでごまかせない、いったいどうしのいだらいいのか・・・ヴェルディーは嫌いだ」と思っていた。そもそも第二曲の「Dies iae」という神の怒りの楽章など、スピードが速すぎて全く歯が立たないどころか、できる可能性も感じられないのに、この第三曲に至っては、未知との遭遇なのだ。

 ところが、不思議なもので、ポジションの押さえ方を先生から教えてもらい、何度も何度もイメージトレーニングしていると「なんとなく弾けるのではないか」「いやきっと弾ける、あと何ヶ月もあるんだから」「ぜひ弾けるようになりたい、やってみたい!」・・・となりいつの間にかレクイエムが好きになりかかっている。宗教曲というだけで敬遠したい気分だったのが、ヴェルディのレクイエムはよく分からないがイタリアオペラみたいな感じなのだ。

 というわけで、勢い込んで取り掛かった直ぐわかったこと。イメージトレーニングはイメージトレーニング。実際の演奏力は相変わらずということ。
 結局、怪しげな騒音を繰り返し繰り返し響かせつつ、夜は更けていったのだ。
 まー徐々に、ゆっくり、しっかり練習あるのみ、なのだなー。

でも旅先でチェロにめぐりあえるし、緑の中で練習できるなんて、なんだか贅沢で豊かな気持ちになれた一夜だった。
コメント (4)
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