オケのVn嬢から「学童保育の子供たちに演奏聞かせたい」と弦楽四重奏に誘われた。
「学童保育」の意味も分からないまま(時代が違うので)二つ返事でOKし、
初見でも弾けるという8曲ほどを一度だけ合わせたあと、本番当日を迎えた。
「せいぜい5~6人の女の子だろうな~」なんて思っていたら、
学童保育の先生から「50人くらいでしょうか」と教えられびっくり、
案内された教室二つ分程のホールには舞台があり、その上で演奏するといわれてまたびっくり。
ほんの少しだけ時間があったので、リハーサルめいた事をしてみると、
分厚いカーテンで囲われた舞台は 音がこもって客席に届きにくいとがわかった。
お互いの音が聞こえにくくなり、アイコンタクトもしにくい心配はあったけど、
普通のクァルテット並びを止め、舞台の縁ギリギリに、横一線並びで演奏することにした
時間になると、建物のどこかで待機していた子供たちが、整列して一斉に入場してきた。
学年も性別もまちまちの、数十人の「体育座り」の子供たちで、床の半分が埋まった。
先生のご挨拶のあと演奏を開始。
1曲目は「ハンガリー舞曲第5番」、元気よくスタート。会場は静かで、真剣に聞いてくれた。
2曲目「G線上のアリア」に入ると、小さな女の子が一人立ち上がり、先生に何か言ってホールを出ていった。
曲の後半になると、女の子につられるように、立ち上がり、出てゆく子供が増えだした。
「きっとトイレだよな~」
「もう飽きちゃったかな~」とちょっとだけ不安。
3曲目「大きな古時計」は楽器紹介を兼ねて、各楽器のソロをつないでゆくのだが
学童保育の先生をやっているVn嬢が「みんな~この楽器わかるかな」と聞くと
子供たちから一斉に「バヨリン!」と元気な声がかえってきた。
「バイオリンは、ファースト、セカンドの2本です。ではこの楽器は」とビオラを示すと
「サードバヨリン」と元気な声。
なんだか嬉しくなる答えだった。
結局ビオラを知る子供はいなかった。
プログラム後半のディズニーメドレーに入ったところで「事故」が起きた。
当日追加した「小さな世界」がバラバラな感じになり、ストップし、真ん中辺からリスタートした。
子供たちの落ち着きない様子が気になり、集中力が欠けてきたのが原因だと心の中で反省した。
終盤は久石譲のジブリ作品。
「海の見える街」から、「SANPO」に移ったら会場から歌い声が沸き上がってきた。
「🎵 あるこう あるこう わたしはげんき🎵 」
転調しても全力で声を合わせて付いてくる子供たちの合唱に、もう泣きそう。
演奏終了し、歓声と拍手に包まれ「これで演奏会もなんとか元気いっぱいに終われたな~」と思っていたら、
あっという間に「アンコール、アンコール」の大合唱に。
さっき失敗してしまった「小さな世界」を演奏すると、子供たちも歌ってくれた。
あんまり嬉しいので、演奏後チェロを抱えて舞台を降りると、子供たちが突進してきた。
バイオリン嬢も、ビオラ嬢も子供たちに取り囲まれている。
身動きが取れなくなり「こりゃ収拾つかないかも、どうしよう・・・」思ったのもつかの間
5~6人、長いと10人位の行列がつくられ、
楽器を鳴らし終えると、次の子供に弓が手渡されてゆくのだった。
日本の子供たちの秩序意識レベルの高さ、児童教育の見事さに またも感動した。
ほとんどの子が、初めてのボーイングなのに、良い音出すのにも驚いたけど。
(チェロってこんなに易しい楽器だったんだ・・)
いよいよ解散かと思ったら、子供たち全員が整列して、手作りの花束贈呈式をしてくれた。
(こんなの定年退職以来の経験なんで、どぎまぎ)
忘れていたこの感覚は、遠い昔をも思い出させてくれた。
幼稚園や小学校では、お客さんをこうやっておもてなしし、送り出していたよな~と。
子供たちに、保育の先生方に・・・素晴らしい時間をありがとう
と感謝し、何度も思い出しながら帰宅したのだった。
さて、あれから2~3日経っているけど、会場の端っこで録音したLiveを今日も聞いてしまった。
いつもの練習録音は、聴きたくないけど次の演奏に生かすために聴いている。今回は全然違う。
楽しい時間を思い出したくて、学童たちが全力で歌っている「SANPO」を聞くのが嬉しくて
バランスも悪く、雑音も入っているけど、Live録音を聞いてしまう。
こんな感動の演奏会なら、お金を払ってでもやらせていただきたいと思う。