イスラエル民族は、アブラハムという遊牧民の族長が、その始まりです。
彼はユーフラテス流域のハランという場所に父親など大家族で住んでいたのですが、
ある時、神がアブラハムに命じるのです。
「あなたは父の家を出て、わたしの示す地へ行きなさい。」
そこで、アブラハム(当時はアブラムと言いました)は、妻のサラ、甥のロトと家畜とを引き連れて、
示されるまま、カナンにやってくるのです。カナンは今のパレスチナです。
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さて、このアブラハムと妻サラとの間に、息子イサクが生まれ、
イサクに妻リベカとの間に、エサウとヤコブという双子の息子が生まれたのです。
彼らの文化の伝統で、双子であっても家督は長男エサウが継ぐものとされていました。
しかし、ヤコブは、なんとか家督を得たいと思い、彼をひいきにしてくれる母リベカと
ある計略を実行して、家督をモノにしてしまいます。
その結果、激怒した兄はヤコブを殺そうとします。
ヤコブは、ひとり荒野を逃げるのです。
目的地は、母リベカの故郷、祖父アブラハムの出身地であるハランでした。
そこには、リベカの兄が住んでいて、とりあえず落ち着くことができるはずでした。
無事伯父の家に着いて、一か月ほどたった時、叔父ラバンが言いました。
「あなたが私の親類だからといって、ただで私に仕えることもなかろう。
どういう報酬が欲しいのか言ってください。
ラバンにはふたりの娘があった。姉の名はレア、妹の名はラケルであった。
レアの目は弱々しかったが、ラケルは姿も顔だちも美しかった。
ヤコブはラケルを愛していた。それで、「私はあなたの下の娘ラケルのために七年間
あなたに仕えましょう」と言った。
ヤコブはラケルのために七年間仕えた。ヤコブは彼女を愛していたので、それも
ほんの数日のように思われた。
(創世記29章15節~21節)
ヤコブは愛するラケルのために、七年間、いわば「ただ働き」をするのです。
引き換えに娘をもらうのですから当然かもしれません。当時は、
女性と結婚するためには、花嫁料(結納金)を彼女の父親に払うならわしでした。
ヤコブは、七年間でさえ、ほんの数日だと思えたというのです。
結婚の祝宴をしてもらい、ヤコブは、晴れて、ラケルと床を共にするのです。
ところが・・・。
朝になって見てると、初夜を過ごした相手が、姉娘のレアでした。
抗議するヤコブにラバンは答えます。
「我々のところでは、長女より先に下の娘を嫁がせるようなことはしないのです。」
伯父は一週間後に、ラケルも与えようと言ってくれます。
こうして、ヤコブの結婚は、最初から、波乱含みのスタートとなりました。
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何より、不幸だったのは、二人の妻を持つことは、ヤコブの本意ではなかったことです。
ヤコブは美しいラケルを愛していました。
当時のオリエントのならわしに従って、ヤコブは二人の妻をできるかぎり公平に扱ったようです。
しかし、人間の感情は、規則通りになりません。
やがて、レアには、次々と息子が生まれました。
一方、ラケルは、なかなか子を授かることができません。
息子を生んだレアは、「これで夫も自分を大切にしてくれるだろう」と思うのですが、
どれほどたってもヤコブは、レアよりラケルを愛していました。
これは、レアにとっては苦しみでした。
いっぽう、夫の愛は姉よりも自分にあると思うラケルも、不妊の自分に苦しみます。
ラケルは、自分の奴隷女をヤコブに与えて、彼女に子を産ませるのです。
奴隷女の産んだ子は女主人の子だと、考えられたからです。
すると、レアも対抗して自分の奴隷女をヤコブに送ります。
今の時代から考えると、何とも壮絶な女の戦いですが、
もとはといえば、ラケルが美しくて、レアがそうでないところに原因がありそうです。
ともあれ、こうして、ヤコブは、12人の息子を得るのです。
後のイスラエル12部族の始祖となった者たちです。
(つづく)