2015年の台湾映画「百日告別」。
多重衝突事故で婚約者を失ったシンミン(カリーナ・ラム)と、同じ事故で妊娠中
の妻を亡くし、自らも重傷を負ったユーウェイ(シー・チンハン)。それぞれ最愛
の人を失い、その事実を受け入れることができない2人。しかし現実は無常にも
流れていく。初七日から七七日と節目ごとに、合同葬儀で山の上の寺を訪れるシ
ンミンとユーウェイは、読経を通じてお互いの存在に気づいていく。
トム・リン(林書宇)監督による人間ドラマ。数台の車による大きな玉突き事故に
巻き込まれ、シンミンは結婚間近の婚約者を、ユーウェイは妊娠中の妻を失った。
シンミンは結婚式の招待状も出来上がっていて、式の後は沖縄に新婚旅行へ行き、
婚約者と共にレストランを開く予定だった。ユーウェイの妻はキリスト教徒だっ
たが、親戚は皆仏教徒なので、キリスト教式と仏式のどちらで葬儀をするか話し
合い、結局仏式になる。山の上の寺で合同葬儀が行われることになり、シンミン
とユーウェイはそこで大勢の人たちと並んで読経するうちに知り合う。
静かだがいい映画だった。シンミンとユーウェイの2人が主役で、それぞれのエ
ピソードが交互に描写され、彼らの最愛の人が生きていた頃のエピソードも挟ま
れる。シンミンは結婚式の招待状を処分することができずにいる。幸せな将来が
待っていたはずなのに、自分だけが生き残ってしまい、悲しみに暮れる。ユーウ
ェイも同じように、生まれてくる子供のことを楽しみにしていた。自宅でピアノ
教師をしていた妻を思い、ピアノを見る度に深い悲しみに包まれる。自分が彼ら
の立場だったらどうするだろう、と思わずにいられない。どうやって立ち直れば
いいのだろう。
シンミンは彼と一緒に行くはずだった沖縄へ1人で旅に出る。沖縄の風景が美し
く、時折聞こえてくる日本語が何となく嬉しい。彼はグルメノートというものを
作っていて、シンミンはそのノートの通りに料理を食べていき、ノートに印をつ
ける。シンミンの1人旅の様子は悲しい。彼と行くはずだった沖縄、彼と食べる
はずだった沖縄料理。どんな気持ちで旅していたのだろうか。
ユーウェイは妻のピアノの教え子の家を訪ね歩く。前払いでもらっている月謝を
返すためだ。そのシーンは悲しい。皆「先生が好きだった」と言ってくれる。あ
る少女がピアノを弾いていて、ユーウェイは何の曲かと尋ねる。少女はショパン
だと答える。「私も先生もショパンが好きでした」と言う、その時のユーウェイ
の何とも言えない表情が切なくていい。この映画は「喪失と再生の物語」とは言
えないのかもしれない。最後の最後までシンミンとユーウェイはこれからの生き
る道を見出せないままだからだ。それでも、ラストのバスの中のシーンはとても
いい。トム・リン監督の映画を観るのはまだ3作目だが、しみじみと心に残る。
良かったらこちらもどうぞ。トム・リン監督作品です。
「九月に降る風」
「夕霧花園」
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多重衝突事故で婚約者を失ったシンミン(カリーナ・ラム)と、同じ事故で妊娠中
の妻を亡くし、自らも重傷を負ったユーウェイ(シー・チンハン)。それぞれ最愛
の人を失い、その事実を受け入れることができない2人。しかし現実は無常にも
流れていく。初七日から七七日と節目ごとに、合同葬儀で山の上の寺を訪れるシ
ンミンとユーウェイは、読経を通じてお互いの存在に気づいていく。
トム・リン(林書宇)監督による人間ドラマ。数台の車による大きな玉突き事故に
巻き込まれ、シンミンは結婚間近の婚約者を、ユーウェイは妊娠中の妻を失った。
シンミンは結婚式の招待状も出来上がっていて、式の後は沖縄に新婚旅行へ行き、
婚約者と共にレストランを開く予定だった。ユーウェイの妻はキリスト教徒だっ
たが、親戚は皆仏教徒なので、キリスト教式と仏式のどちらで葬儀をするか話し
合い、結局仏式になる。山の上の寺で合同葬儀が行われることになり、シンミン
とユーウェイはそこで大勢の人たちと並んで読経するうちに知り合う。
静かだがいい映画だった。シンミンとユーウェイの2人が主役で、それぞれのエ
ピソードが交互に描写され、彼らの最愛の人が生きていた頃のエピソードも挟ま
れる。シンミンは結婚式の招待状を処分することができずにいる。幸せな将来が
待っていたはずなのに、自分だけが生き残ってしまい、悲しみに暮れる。ユーウ
ェイも同じように、生まれてくる子供のことを楽しみにしていた。自宅でピアノ
教師をしていた妻を思い、ピアノを見る度に深い悲しみに包まれる。自分が彼ら
の立場だったらどうするだろう、と思わずにいられない。どうやって立ち直れば
いいのだろう。
シンミンは彼と一緒に行くはずだった沖縄へ1人で旅に出る。沖縄の風景が美し
く、時折聞こえてくる日本語が何となく嬉しい。彼はグルメノートというものを
作っていて、シンミンはそのノートの通りに料理を食べていき、ノートに印をつ
ける。シンミンの1人旅の様子は悲しい。彼と行くはずだった沖縄、彼と食べる
はずだった沖縄料理。どんな気持ちで旅していたのだろうか。
ユーウェイは妻のピアノの教え子の家を訪ね歩く。前払いでもらっている月謝を
返すためだ。そのシーンは悲しい。皆「先生が好きだった」と言ってくれる。あ
る少女がピアノを弾いていて、ユーウェイは何の曲かと尋ねる。少女はショパン
だと答える。「私も先生もショパンが好きでした」と言う、その時のユーウェイ
の何とも言えない表情が切なくていい。この映画は「喪失と再生の物語」とは言
えないのかもしれない。最後の最後までシンミンとユーウェイはこれからの生き
る道を見出せないままだからだ。それでも、ラストのバスの中のシーンはとても
いい。トム・リン監督の映画を観るのはまだ3作目だが、しみじみと心に残る。
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