ちゃちゃ・ざ・わぁるど

日記と言うよりは”自分の中身”の記録です。
両親の闘病・介護顛末記、やめられないマンガのお話、創作小説などなど。

創作小説 SUNSET CHAPTER10 PART.4

2011年07月25日 21時44分32秒 | 創作小品
 そう、御多分にもれず俺も虚礼っていやあ虚礼だが…こういうものは出すというか形式そのものに意義があると考えている。だから、無駄と言われれば否定もしがたいが実は結構出している。
「うん、まあね…。先代のマスターの常連さんとかね…。これは俺が後を継いだんだから勝手にやめるわけに行かなくてね…。儀礼に過ぎないんだけど、それでもね。それだけで30枚くらいかなあ…。中には病気とかでココへ来れなくなった人や引っ越した人もいる。でも律儀に向こうも送ってくれるんだよ。マスターはいなくなったけど、店がまだやってると知ればそれだけで嬉しいって言ってくれてさ。じゃあ出さないわけにはいかないでしょ?」
「凄いや…。そんなに慕われてたんですね、マスターさんって。」
「まあね…。後は俺自身の分で…育った施設の人とか、一緒だったダチとか、学校で…付き合ってくれてた奴とか…今は皆自分の生活で手一杯だから全然会えないけど、だから余計年に一度こういうので安否確認してるわけだな。元気そうならそれでよしって感じ? 後は…放浪していた時に知り合った全国各地のいろんな人々。」
「えっ? そういう人にも出してるんですか?」
「まーね、連絡先のわかる人にはね。やっぱりいろいろ世話になったし…見送ってくれたし、恩返しには程遠いけど、何とかやってるって知らせておくのも義理だと思ってさ。ココへ落ち着いた年の暮れに初めて…30枚ほど出したらほとんど返事が来てさ、嬉しかったよ、やっぱり。それ以来ずっと近況報告とともにね。マスターが死んだ時には、身内じゃないけど正月を祝う気分にはなれなかったから、『近しい人が亡くなったので』と書いて寒中見舞いにしたら、皆心配してくれてな…元気だせよ、とか書いてくれててさ。それ見て、やっぱ人って捨てたモンじゃないんだなって思えてな…そしたら毎年出さざるをえなくなったよ。だから今でも100枚近く出す破目になってるよ。はは、破目って言っちゃいけないけどな。」
清司は感心したみたいに大きく息をついた。
「凄いな…僕なんて全然。出さないでいたらそのうち誰からも来なくなったし…。」
「そりゃそうだろ。そんなものいらないってんならそれはそれでいいけど、もし誰かに出して欲しけりゃまず自分から、だな。俺の場合は、欲しかったわけじゃなく義理で出したらこんなことになって今更引っ込みつかなくなっただけだけど。できればやめたいと思ったり…義理でも義理は欠かしてはならないとも思ったり。なんだろうね、この日本人独特の習慣は理解しがたいよ。悪いわけじゃないけどね。」
「そですね…。でも、出す相手がいるって思うとちょっと嬉しいのかな。」
「ま、とにかく義理で良いから親戚には出しときなさい。気にはしてくれてるよ。」
「はい…。」
 清司は頷いてずっと止まっていた手をやっと思い出して動かした。俺はちょっと弁解がましく
「いかんね、どうも俺は。だからテツや涼香に親父くさいと言われてしまうんだ。ついつい説教じみてしまうのは何故なんだろうねえ…。悪いな、偉そうなこと言っちまって。」
と、思わずアタマをかいた。まったく…どうもいけない…。
「いいえ、僕は嬉しいですよ、それだけ親身になってくださってて。」
「そういってくれると助かるけどな。」
しかし、なんでなんだろう? 性分といわれればそれまでか。
 「んで…、お正月はいつから行くね?」
俺はさっき言ってたことを改めて尋ねた。もう行く気にはなってるだろうし。
「ああ、あの…よければ30日くらいから…三が日いたらどうかって。」
「ふん、ちょうどいいでしょ。そんくらいだろうね。行って来いよ。ココもソレくらい休業にするつもりだから。」
「あ、でも…井上さんは…。」
「俺のことはおかまいなく。」
「あ、そうか、和佳菜さんとこへ行くんですよね? だったら僕は向こうに行ってた方がちょうどいいですよね。」
「んー、まあそんなとこ。だから気兼ねせずにいってらっしゃい。土産はいい…いや、期待してるから。」
「あ、はい…! じゃあ、行かせていただきます。」
 そう、行ってくれた方が俺もいいんだ…いろいろと。

 片づけが済んで一人部屋に引き上げて、俺は和佳菜にケータイから電話を掛けた。毎年この時期になるとさっき言ったように年末年始のお誘いが来る。でも、今年は俺はちょっと考えることがあるのだ。マスターが生きていた時はココで過ごしたけれど、彼が亡くなった明けの年に和佳菜のお父さんが気遣って呼んでくれた。それ以来毎年行かせて貰っている。俺も仲良くなるのにちょうどいいわけだし、向こうも二人よりは三人で、喜んでくれる。当たり前だが年毎に親しくもなって行ってる。だから本当は今年も行けばいいのだけれど…。
「悪いな、今年はちょっと遠慮するわ。」
俺は和佳菜にそう告げた――
――ええっ? 兄さん、どうして? 父さんも楽しみにしてるのよ? 兄さんと一杯やるのが好きなんだもの。お酒、弱いけど。
「ごめんな。今年は…ほら、俺だけじゃないからさ。」
清司のことを暗に言った。というかダシにしてんだけど。ごめん、清司。言い訳に使わせて貰うぞ…。
――清司さんのこと? それならご一緒でもいいのよ? 父さんも一人でも多いほうがにぎやかで良いっていってるし。かまわないわ、うちは。
イヤ、まあね? アイツが行っても大してにぎやかにはならんけどね。
「ああ、申し出はありがたいけどね。そっちが良くてもアイツは気を遣うから。やっぱ他人の家に長居して、それも正月に過ごすってのは居心地良くないもんだよ? 気持ちだけいただいとくよ、ありがとう。」
――う~ん、でも…。
「ホント悪い。でも、察してくれや。もっと心安くなったら連れてけるかも、だけど。今年のところはさ。正月すんだら俺もちゃんと顔出すからさ。」
――そう? 残念…。寂しいな~。でもわかった。無理言っちゃいけないよね。でもお正月明けにはきっと来てね。絶対よ。
「ああ、わかってる。絶対行くから。…で…お父さんいる? ちょっと代わってくれないか? 挨拶しときたいからさ。」
――うん、ちょっと待ってね。
 悪いな…。今年は――そう、実際清司は三上君のところへ行くのだから、俺は俺で今まで通り和佳菜のところへ行けばいいようなものなんだが…。


・・・TO BE CONNTINUED.

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