ちゃちゃ・ざ・わぁるど

日記と言うよりは”自分の中身”の記録です。
両親の闘病・介護顛末記、やめられないマンガのお話、創作小説などなど。

創作小説 SUNSET CHAPTER12 PART.13

2012年07月04日 07時54分55秒 | 創作小品
 「こわっ!! 夜の海、パない! こわっ!!」
みゆ希はつないだ手をギュッと握って言った。真っ暗…イヤ違った、真っ黒な海はいきなり襲い掛かってきそうで確かに恐い。
「お前が見たいって言ったんでしょ? でも、見えないよ、真っ暗で、ほとんど。」
うねる気配と波の音だけはよくわかるけど。視界が暗くてはっきりしないせいか、波の音は昼間より大きく感じる。実際はそんなに変わらないはずなんだけど。
「うん…。なんか、違う世界だね。次元の狭間に入っちゃった感じかなあ。」
 感じ入ることがあるのか、みゆ希は少しトーンが低い。
 しばらくの沈黙のあと、俺は静かに聞いた。
「何か辛いことでもあったの?」
「へ? …イヤ、どうして?」
「どうしてって…。」
俺はちょっと向き直り、つないでいない方の右手でみゆ希の頬をなでた。…やっぱり濡れていた。
「泣いてる。」
「………。どして…わかったの?」
「わかるよ。…どうしたの?」
「…ゴメ。大丈夫だよ。ちょっと…うん、羨ましかったのかな。」
「羨ましい?」
「あたしんち、ホントはね、両親が離婚してるの。あたしが中二の時に別れて、それからお母さんと妹の三人暮らしだったの。」
「そうだったんだ…。」
「両親が仲悪くてね…。暴力こそなかったけど、しょっちゅう言い争いしてたよ。離婚した後はお母さんも優しくなって、でも、あたしたち育てるために一生懸命でさ、あたしはできるだけお母さんの負担にならないよう頑張ろうとしたし、妹の面倒もあたしがみなきゃって思ったんだ。三人で仲良く暮らしてはいたけど、やっぱり生活はカツカツだったしね、くじけそうにしょっちゅうなってさ…。そんな時だよ、友達の付き合いで、キミのいた施設に遊びに行ったの。友達の友達がキミのいた施設にいてね、水越さんて言ったかなあ。」
「…ああ、サツキか。あの子は中学卒業する時に母親と暮らすことになって出てったけど。」
「そうそう、サツキちゃん。でさ、実はその時カズを見かけてるんだ。」
「えっ? そうだったの? 全然知らなかった…。」
「話したわけじゃないからね。あたしが一方的に見てただけだよ。小学校の低学年の子かなあ、転んで両膝思いっきりすりむいて、どろどろのぐしゃぐしゃになっちゃって大泣きしだしてね、そしたらキミが飛んでってやって、顔ふいてあげて、自分の服が汚れるのも気にせずその子負ぶって水道のとこ連れてってさ、自分もびしょびしょなりながら傷口洗ってあげて、今度は建物の中へ連れてって…。まあ、それだけなんだけど、印象に残っちゃってさ。それが高校入ったら、キミがいたじゃん。言っちゃ悪いけど、カズって目立つでしょ? 茶髪だし片目青いし、だから『あっ、あの時のキレイな子だ』ってすぐわかって。」
「キ…キレイな子?!」
「あはは、そう思ったの! あたしは。だからそれから追っかけだして。ストーカーだね、まるで。」
「あ、そう…。そうなんだ…。」
「あはは、話それちゃったね。とにかく、施設に行ったら、あたしよりもずっとずっと大変な思いしてる子や、ずっとずっと重い人生背負ってる子がいるじゃない。なのにすっごくみんな元気で明るくて、励ましあって、強くってさ…。だから、それからあたしも頑張ろうって思って。単純だよね。泣き言なんていってられないなって…。ずっと、ずっと…あたしなりに頑張ってきたんだよ…。だから、今日カズの家族の人が…みんなお互いに気遣って支えあっているの見たら、ちょっと羨ましくなっちゃって。つい…あたしはひとりでがむしゃらになってたよなとか、なのに空回りしてたのかなとか、変に考えちゃって…。」
「そうだったんだ…。お前も大変だったんだね。そうだよな…生きてりゃ誰でも事情の一つや二つは抱えてるもんだっての、俺の持論なのにさ。ごめん、俺、つい自分のことばかりでお前のこと気にかけてやれてなかったよ。ホント、ごめんな。」
「ううん、カズが謝ることないよ。あたしはしんどくなったらカズのこと思ってさ、あんなに大変なこと背負ってるのに、みんなに優しくて頼れるからさ、あたしも見習おうって、元気出るからさ…。ホントだよ。でも、実は今回シゴトでちょっとドジっちゃってね。放送事故まではいかなかったけど、厳重注意くらって少しへこんでるのよ。だから空元気でも元気出そうって、カズの顔見ればまた気持ち立て直せるって思って来たんだよ。…そしたら、カズ、お母さんと和解したわけだよね。乗り越えたんだよね、すごいなって思うよ。で、羨ましかったり、あたしはどうなのって思ったり、なんか、嬉しいのか惨めなのか悲しいのか、感動したのか…もうぐちゃぐちゃになっちゃって。うん…それでココ来たくなったの。二人きりっていうか、カズをちょっとの時間独り占めしたかったのと、フクザツな顔見られたくないなって思ったのと…。」
「みゆ希…。」
「ごめん、もういいよ、大丈夫。聞いてもらえてスッキリした。また、今から頑張れるよ。」
「…ごめんな。これからはもっと頼っていいよ。今まで俺の方がお前に甘えっぱなしだったからな。今度はお前がもっと甘えてくれたらいい。きっと…絶対支えるからさ。」
「うん。」
暗闇で、でもみゆ希がしっかり頷くのはわかった。俺はそのみゆ希を抱きしめた。抱きしめて、唇重ねて…それから俺は…覚悟を、また一瞬、いやイチ刹那で決めた。さっきまで――日頃思わなかったわけでは決してなかったけれど、今言うつもりは全然なかったことを。
俺は唇を離していきなり
「結婚しよ?」
と言ってしまった…。みゆ希は…顔は見えないけれど、絶対狐につままれた顔をしただろう。
「……へ?」
「今更ってか? まあ…現実的な問題もいろいろあるだろうけどさ。でもそのつもりでいてよ。」
みゆ希は少しの沈黙の後、ちょっとむくれ気味の声で言った。
「いきなしこんな暗がりで言う?!」
「その気になっちゃったからな。どうせいずれ言うつもりだったし。もったいぶるより今言っちゃえって。」
「顔も見えないのにぃ~…。あ、そだ!」
 みゆ希はなにやらごそごそした後、何かを取り出した。それは四角い光を発し、お陰で周囲がほの明るくなった。懐中電灯? イヤイヤイヤ、それスマートフォンじゃね? 周りが暗いのでかえって明るさを感じる。闇に慣れた目ならお互いの顔も結構見えた。
 みゆ希はスマホをかざして迫るように言った。
「ハイ! もっかい言って!」
「ああ。俺たち、結婚しよう。お前でないと、俺は一生結婚しないからな。」
「……はい! あたしもだよ!」
みゆ希はニッコリして、大きく頷いた。
 それから改めて、もう一度抱き合って…――
 ――波の音が少し遠ざかったような気がした。


ま、そういうわけで俺の話はひとまず終わり。ただ、この先のことをちょっとだけ話すと…。

 結婚時、みゆ希は結局第一テレビをやめてテレビ神奈川に転職した。ココならうちから十分通える。地方局なので全国をかけまわることはほとんどなくなった。とはいえ時間は少々不規則なので、身の回りのいろんなことは俺がやってやってる状態。
だけどある日テンション上がりまくって帰ってきたと思ったら
「たたた大変だ! どーしよ!! ニンシン3ヶ月だって言われちゃったああああ~!!」
と叫んだ…! え? マジ??
 なんとまあ…結婚してすぐにできちゃったらしい…。そのあとどんだけテツに冷やかされたことか…。そして無事に産まれたのはめっちゃかわいい女の子。名前は俺とみゆ希のイニシャルをとって『美佳』にした。さりげなく母さんと和佳菜、それに和佳菜のお父さんの名前からも取っている。ちなみにみゆ希のお母さん(つまりは俺の義母である)は富美代なのでこれも入ってる!
 それにしても子を持って知る親の愛ってのは本当だなあと、俺はつくづく思った。絶対この子は不幸にするまい。常連さんも心から祝ってくれたことだし、みんなも巻き込んでできるだけたくさんの愛情を注いでやろうと思う。イヤ、ホント。誓います。
 それにしても…この俺がヒトの親になっちゃうとはね。自分でもちょっと驚き…。
 母さんはもちろん和佳菜とお父さんのもとへ帰って行った。今は佐久市で親子三人仲良く暮らしている。なんか近頃和佳菜がしょっちゅうデートに出かけているとか何とか言う話も聞いている。こっちも近いかも。
 涼香は涼香で大学院へ進み、この頃は開き直ったか素質があったのか? 男の子のウワサがたえない…。ちょくちょく「ろくでもない奴だった」とか「顔だけ! 中身カラ!」とか「優柔不断ヤローがあ!」とか文句ばかり言っている…。やれやれ、困ったもんだ…。まあ、本人は文句言いつつ楽しそうだけどな。
 それからテツは驚いたことに看護師のリサに久々(マスターが亡くなった直後以来?)に会って今度は惚れちまったというのだ。彼女、外科病棟に異動していて、テツは、たまたま怪我をして入院した学生を見舞った時に惚れ込んだとか。ニヤニヤしながら「姐さん女房かあ~」と悦に入ってる…。う~ん…まあ…いいけどな…。…俺には頑張れとしか言えないわ。
 で、清司は一応ココを出たけれど、バイトとしてずっと働いてくれている。今は定時制高校の…もう3年生だよな。あとは自分で世界を切り開いていくだろう。兄貴分としては何者になっていくのか楽しみだ。三上君は高校の教師になったとか? …大丈夫かな…、いろんな意味で。
 そうそうそれから、あの時涼香が撮ってくれた写真は引き伸ばしてカウンターの内側に飾っているよ。ずうっとね。
 
 ともかく、そんなこんなで、サンセット・ファミリーはこれからも………
 ………イヤ!!!! 恥ずいよ、やっぱ、このネーミング!!!(突っ込むな!!)




ALL END

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 創作小説 SUNSET ... | トップ | 創作小説 SUNSET・あ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

創作小品」カテゴリの最新記事