ちゃちゃ・ざ・わぁるど

日記と言うよりは”自分の中身”の記録です。
両親の闘病・介護顛末記、やめられないマンガのお話、創作小説などなど。

創作小説 SUNSET CHAPTER12 PART.12

2012年06月29日 08時47分26秒 | 創作小品
 藤沢駅について、今日のところはこの先三人は途中で二手に分かれてしまう。帰るところが違うせいだが、いつかそのうち同じ場所へ帰って行くことだろう。それもそう遠くない日に。
 改札口で見送り、その姿がみえなくなったところで、みゆ希が俺の手を握った。
「いい家族…いい人たちだね。」
「…うん。俺もそう思う。」
「カズ、ホントに良かったね。」
「うん…。」
 みゆ希は俺の手を握る力を強めた。
「頑張ったよね、辛いのに、悲しいのに、カズ、良く頑張ったよね…今まで。苦しんだけどその甲斐あったかな。」
「多分。でも、それもこれも全部お前のお陰だよ。あの日、お前がウチの店に飛び込んできてくれなきゃ、こうはならなかった。…ありがとうな。お前がいてくれて、ホントに良かったよ…。どれだけ感謝してもしきれないほどだ。」
「ううん、カズが自分で頑張ったんだよ。あたしはただ自分の仕事してただけだもん。」
「それでもさ。…ありがとう。ホントに。」
俺も手を強く握り返した。暖かい手だ。
 それから俺は手を放し、みゆ希の肩を抱いて歩き出した。
「これからも、よろしく頼むな。」
「あたしこそ、だよ…。」
みゆ希は頭を俺の肩にもたれさせた。
 「ね、海岸、見に行きたい。」
「今から?」
「うん。店の前の海岸。あたしが最初にココへ来てレポート始めた場所。けっこう海岸線遠いよね。」
「でも今頃は満ち潮だから、少し近くなってるよ。」
「波打ち際まで行ってみたい。」
「寒いよ?」
「わかってる。でも、行ってみたいんだ。ダメ?」
「…いや。いいよ、行ってみよう。」
 俺たちは駐車場に向かって足早に歩き出した。


 「遅いな~カズの奴…。」
テツさんはそう言ってモップの手をとめ、壁掛け時計を見上げた。もう7時半、そろそろ戻ってくるはずではあるけど…。
「センセイ、野暮言わないの! みゆ希さんとゆっくりドライブさせたげればいいじゃないですかあ。さっさと戻ったって二人きりにはなれないんだから!」
「あれ? 菊川君、だからみゆ希ちゃんをたきつけたの? 一緒に行って来いって。」
「当然ですよ。それくらい気遣ってあげなくちゃ。だってなかなか会えないでしょうし。向こうは仕事で全国かけまわってるんだし、お正月だって。だからアタシからのお年玉です~。」
 ホントは大晦日から元日にかけて一晩泊まってったそうだけど、言わない方がよさそうだね。もっとも、井上さんはインフルエンザで高熱出して寝込んでたらしいから、デート気分も何も味わえなかただろうけど…。ああ、気の毒に…。
 でも、テツさんはちょっと羨ましそうに、だけど感心して
「うう、そうかあ…。どんどんみゆ希ちゃんが遠ざかるなあ…。」
「初めから遠いでしょうが。」
涼香さんは呆れて突っ込んだ…。
 「それにしてもさあ、清司君?」
テツさんが僕のほうへ向いて言った。僕は洗ったものを拭きながら返事をした。
「何ですか?」
「カズがもしみゆ希ちゃんとケッコンなぞして、ココに一緒に暮らすようになったらよ、君はどうするの?」
「はあ? あ、…はい。出てくしかないですよね。それは…僕もちょっと考えました。いくらなんでも新婚夫婦のとこに、赤の他人が居候しているなんておかしすぎますから。」
「うん、わかっているならいいんだけどね。問題は…住む部屋はどっかに借りればいいだけの話だけど、お仕事なんだけどね。」
「あ…はい、それもいずれはとは思ってます。いつまでもココでってわけには行かないだろうし。」
「そっか。一生ココでバイトってわけにはいかないもんね。男の子は特に。」
涼香さんも洗い物の手を少し止めて言った。
「ええ。まあ…井上さんは焦らなくてもいいって言ってくれたんですけど、もしみゆ希さんと結婚するのならそうもいかないかなって…。」
「うん、いや、当分ココで働くのはいいと思う。まだ数年は構わないと思うよ? 25歳くらいまでならごまかし効くから。でも、その先はやっぱり正社員とかでないとね。」
「それはそうですね…。」
「で、学校はどうかなって。」
「学校?」
 いきなり学校って言われたけど、何だろう? 何の学校の話だろう?
「カズから言われてない?」
「はい…。」
「ふーん。まだいいかと思ったのかな? 実は前に君の話してたときにね、カズが言ってたの。アイツ、中卒らしいから、高校行かせた方がいいと思うんだけどって。」
「高校? 僕が?! 今からですか? だって僕はもう今年には20歳ですけど…。」
「いいんじゃないの?」
と、返したのは涼香さんだ。
「普通科の全日制は無理かもだけど、定時制とか通信制なら20代の高校生なんてザラよ? 入るのもそう難しくないしね。うん、いいかも。」
「だろ? 俺も賛成したけど、やっぱり高卒の資格くらいはあったほうがいいよ。学歴不問の就職先もあるけどさ、高卒以上が多数派だからね。勤められるところが中卒よりも格段に多くなるよ。」
「それとも高認検てのもありますよね、センセイ。高校卒業資格認定試験だったかな?」
「まあね。でも、カズが言うのには定時制とかで友達作りながら通った方がいいんじゃないかってことなんだ。働きながらね。俺もその方がいいと思うし。」
「そりゃそうだわ! 高校生活、勉強だけじゃつまんないもの!」
「だから、どう? 思い切って高校通ってみるっての。」
「…高校かあ…。」
 考えてもみなかった…。僕はなんだか何かが開ける気がした。
 それにしても、井上さんはそこまで僕のことを思いやってくれていたんだ…。僕にはそっちの方が嬉しかった。そう思ってくれてたのなら、ちょっと考えてみようかな…。
「それがいいわよ! うん、行ってみたら? 高校。きっと世界も広がるよ!」
涼香さんもそういってくれた。何だか、夢みたいな気分だけど…悪くないよね。
「そうですね…。なんか楽しそうだ…。考えてみようかな。」
「うん、それがいい。俺たちも応援するからね。」
「勉強、理系だったら教えちゃうよ。文系はアタシ全然だけど!」
「はい…! ホントに考えてみます。井上さんにも相談してみます。」
世界が…そう、世界が広がるんだ、きっと。僕の、僕だけの世界が大きく…。


・・・TO BE CONCLUDED.

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