ちゃちゃ・ざ・わぁるど

日記と言うよりは”自分の中身”の記録です。
両親の闘病・介護顛末記、やめられないマンガのお話、創作小説などなど。

創作小説 SUNSET CHAPTER 9  PART.1

2011年01月27日 20時17分51秒 | 創作小品
 覚悟なんてそうそう簡単に決まるもんじゃない。だから俺はこう思う。覚悟なんか決めてもしょうがないって。そんなもの決まるのを待っていたらいつになるかわからない。そうだ、逆に言えば決まるときは一瞬で決まるのだ。そしてそんなものは持続するものでもない。よし、と思ったらもうその時の勢いで行くのが一番だ。あとは野となれ山となれ、なのだ。

 突然の電話があった夜、9時半ジャストにみゆ希から電話が掛かってきた。内容は特にどうってことはない。今までのアナウンサー生活の話や最近レポートしたところの話をほぼ一方的に喋ってきた。要は内容そのものじゃなく、何でもいいから俺と話したかったってだけ。イヤ、ほとんどアイツが喋ってて、俺は聞いていただけなんだけど――言っちゃ何だがさすが喋るのが商売なだけはある、一般人だと興味がなければ退屈に聞こえる話も、アイツが喋ると興味深くて面白かった。何度も「今度一緒に行こうね~」と言われたけど、実際聞いててホントに行きたくなったくらい。まあそれは、みゆ希に誘われたからかもしれないが…。
 そしてその電話で再度言ってた「近いうちにゼッタイ行く」は何とすぐさま実現した。何しろその電話の翌日の今日だったのだから…。
 
今日は定休日。
俺はこないだ確かに営業時間外に来いとは言ったけど、考えてみりゃ割と機会がないな…とすぐに思った。9時9時の営業時間では早朝か夜に来いってことになる。職業柄夜の方が来やすいかとは思うけど、それはココが首都圏である場合の話。湘南まで来るのはマジ無理だよな…。別の見方をすれば泊まりに来いって言ってることになるかもしれない…。ちょ、それはあんまり一足飛びすぎじゃね? …そうも思ったんだけど…。でなければ、そう、定休日に来たら一日ゆっくり出来るってことだよな。問題はみゆ希の休日が水曜日になるかどうかってことだ。けど例のレポート番組が平日の夕方で生中継だからそれも辛いかもな…。クソッ、それじゃ俺たちは全然つきあえないじゃないの。それほど遠くはない筈なのに、なんか遠距離恋愛だよ、これじゃ…。
――と、思って悔しがってたところだったのに、みゆ希はホントにやって来た。時刻は午後5時。
「ヤハハハ…来ちゃったよ~!」
などとノーテンキな声をあげて…。
 そして、その声に振り返ったのは…
「あれれ、みなさんお揃いだね。」
そう…定休日であるにも拘らず、清司はいいけど、なんで大学が休みではない筈のテツや涼香までいるんだろう??
 「うおおおっ! みゆ希様だあああ!!!」
テツはイスから飛び降り、一瞬で舞い上がりモードだ。もちろん涼香も
「わああああっ! ホントだあー!! ホントに店長の彼女になってるんだあああ!!!」
と騒ぎ出す始末。
「あははは、どうも~! あ、あなたはあの時のバイトさんだね? その節はどうもありがとう。」
「い、いええ~~~! アタシこそ、サインありがとうございました! 家宝にしてます!」
「そんな大げさな~! 照れちゃうなあ~。」
あっけらかんと笑うみゆ希はホントに明るい。コイツが来ただけで空気がガラッと変わる。華やかで、元気いっぱいで、それこそ悩みも何もかも吹き飛ぶ勢いだ。
 みゆ希は俺に向かって
「カズ、夕べはごめんね~! めっちゃ長電話しちゃってさ。」
俺が「いいよ」と答えるのにかぶって、テツが思いっきりでかい声で、若干引き気味に騒いだ。
「ぎゃあああっ!! もう、もうそんな仲になってるんだ~!! う、う、羨ましすぎるぞ…。」
「……どんな仲って言いたいんだよ…。」
「だってだって、みゆ希様ったら…こないだは『井上君』だったはずなのに…。『カズ』って呼んだ…ううう…。」
「……もうお前帰れ…。」
みゆ希は頬をかきながら苦笑いしている…。
 「でも、おかしいな、今日定休日じゃないの? iタウンページで見たんだけど。」
ああ、そうそう。そう思うよね。
「そうだけど…こいつら学校にいるよりココのがいいって言ってな…。涼香は大学生なんだ。」
レポートを仕上げるとか言って、ノートパソコン持参でテーブル席の一つを占拠している。
「だって、ココあったかいし~」
ヒトんちの光熱費を食い物にしているのだ。
「飲み物食べ物もいろいろあるし~」
「カネはとるぞー!」
で、テツは
「俺はそのレポートの指導に来てるんですよ~!」
「コイツこう見えても大学の研究員なの。バカだけど。」
「いやあ~、それほどでも…って、オイ!」
「で、こっちは…」
と、俺は清司を指して
「住み込み従業員。ヒマそうなんでパソコン教室してたとこ。」
イマドキ…てかこれからはパソコンなんて出来て当たり前の社会なので、俺もヒトに教えられるほど使いこなせているかは自信がイマイチだけど、初心者に教える程度は大丈夫なので、店のメニュー表を試しに作らせていたところだ。
「そういうわけで、定休日なのに風景がふだんと同じだ。」
「ふうん、そっか。」
みゆ希はニコニコしている。
「今のカズの家族みたいな感じなんだね。」
「あー、まー、そうなのかな…。」
俺はみんなを見回す。涼香はにっこりして首をかしげた。テツはへらへら笑っている…この野郎…。で、清司は照れくさそうに頷いた。みゆ希はもう場になじんで
「いいなあ…。ねえ、あたしも仲間に入れてもらえるのかな~?」
と言った。で、やっぱり俺が答える前にテツが叫んだ。
「よーろこんでー!!!!」
「お前が答えるな!!」
でも、涼香も「わあい!」って顔してるし、清司もニコニコ顔だし…もちろん俺にも否なはあるわけない。
「あはは、ありがとう! いいね、いいヒトばっかりだね。安心した…。今のカズが幸せそうで。」
「あ? ああ、まあ……そうだな。」
確かにそうだ。テツにはいつも俺はハラを立てているが、もちろん本気じゃない。これはじゃれているようなものだ。涼香も俺にはある意味妹みたいな心安さを持ってるし、清司だって弟分みたいなものだ。こいつらはいつの間にか、俺にとって大事な奴らになっている。今ここにはいないが、昔からの常連さんも俺のことを可愛がってくれているし、実の妹の和佳菜も慕ってくれている。更にその父親もいわば俺の義父と呼んでもいいだろう。そして今はみゆ希もいてくれる
 ――そうだ、今の俺はホントに幸せ者だ…。



・・・TO BE CONNTINUED.

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