中伊豆リハビリセンターに入院して三日。ようやくセンター生活にも慣れてきて、帰りたい、寂しい、というセリフは出なくなりました。でも、入院当日(9月28日午前11時)は落ち込みました。家内も落ち込んだと思うけど、自分も目茶苦茶落ち込んでしまって最悪の日だったなぁ。
何しろ当日は介護認定士が来宅する日だったので朝から緊張しっぱなし。朝6時起床、シャワーを浴びて7時には朝食作り。7時半に家内を起こして洗面、着替え。8時に朝食をとらせて後片付け。ざっと掃除してやれやれと思うまもなく9時にピンポン。介護認定士を迎えて家内への問診、動作確認、なんやらかんやらで10時に終了。大急ぎで入院に必要なもの(下着、パジャマ、リハビリシューズ、タオル、トレーニングウエアなどなどを各3~5セット+小物類)を取り揃え、10時30分に出発。中伊豆料金所を通過する頃には家内は疲れて車内でグッスリ。中伊豆バイパスを通り冷川ICに入る。中伊豆リハビリセンターへ行くというと、往復210円の切符をくれます。ICから5キロでセンターへ到着。ロケーション最高!ここはリゾート施設かと間違うほどの環境です。
受付に申し出ると早速事務室で入院案内を詳しく説明されます。やっとインタビューが終わると主治医の診察。なんと家内の大動脈解離の手術を担当した名医(すくなくても我が家では神様)の順天堂心臓血管外科医、山本平先生の同僚らしいのです。
「このセンターに来て、退院する時にはどんな事が出来るようになりたいですか?」
家内 ・・・・・
「ご主人の希望はどうですか?」
そうですね…夢みたいな話ですが車を運転してどこにでも行ける一年前の家内に戻れたら…
「なるほど」
それは夢ですけど、出来れば又、家内と一緒にさくらの里や秋川湖をゆっくりと散策できるようになれば最高です。それに、友達と話をしたり簡単なお料理を作ったり出来れば…
「わかりました。大丈夫ですよ。」
ほ、本当ですか?(今の状態ではとても出来ないのではと私も家内も思っていた)
「本当です。車の運転は判りませんが、日常の生活は大丈夫なくらいになれるでしょう。但し、奥様が、きっと治る、治そう、という意欲が大切ですけどね」
どのくらいの入院期間が必要ですか?
「二ヶ月…でも、努力次第で回復力が早ければ一ヶ月も可能かと…」
嬉しくて涙が出た。家内の顔も久しぶりに笑顔が…。
診察が終わると食堂へ移動します。ざっと30人くらいのリハビリ者が食事をしています。脳梗塞、大手術の後の人、交通事故者などの何らかの原因で身体不自由になった方ばかりです。(当たり前です) 勿論、スムーズに食べられる人はあまりいません。前掛けをかけ、箸かスプーンで一生懸命自分で口に運んでいます。どうしても食べられない人は介護スタッフが食べさせますが、根気良く自分で食べさせます。家内が食事をしている時間に私は地下のレストランへ。ハンバーグランチを食し、売店で買い物をした後で食堂へ行くと既に家内は食事を終えて自室に戻っていました。
どうだった?食事はおいしく食べられた?矢継ぎ早に家内に問いますが、どうも不機嫌です。どうやら持てない箸でこぼしながら昼食をとったのがたまらなく嫌だったらしいのです。周りがみんな不自由な人たちばかりで、自分はとんでもないところに連れてこられて置き去りにされると思ったようです。
その後に担当看護士さんが部屋に案内してくれるのですが、それからが大変です。担当看護士、担当理学療法士、担当作業療法士、担当言語療法士、カウンセラー、薬剤師と六名のスタッフが次から次えと家内に会いにやってきます。全員がやさしく穏やかで家内にインタビューしますが、あまりに多人数でとても覚えられません。
あっという間に夕食の時間。私も食堂に一緒に行って家内の食事をヘルプ。ついつい横から手助けをしてしまう。食事が終わると、「それでは車椅子を自分で動かして洗面所に行きましょうね。そこで歯を磨いてから自室に戻ってください」
最初の5mは自分で動かすが、すぐに止まってしまう。疲れた、足が動かない、手が痛い…、自分がいると自ら車椅子を動かそうとしない。つい手助けしてしまう。歯を磨けない、つい手をだしてしまう…自室に入る、ちょっとした動作にすぐ手助けをしてしまう。
「帰りたい、こんなところは嫌、疲れた、足が痛い…」 もう七時だよ、そろそろ帰らないと、また明日早くに来るからね、大丈夫だよ、心配ないよ、きっと良くなるよ、ほら、先生も太鼓判押してくれたじゃないか。「もう帰っちゃうの?明日本当に来てくれるの?」 もちろんだよ、じゃね、お休みね…部屋の入り口でウロウロと。後ろ髪引かれるとはこの事か。こんな気持ち、もう何回しているだろうか。
帰りの冷川インターを出て暗い県道を走り中伊豆バイパスのトンネルに入る頃にはもう駄目。なんであの時気がつかなかったのだろう、あの時こうしておけば、後悔することばかりが次から次へと浮かんできて目茶苦茶自己嫌悪に陥る。その日の夜は眠れない夜でした。
翌日は10時にはセンター到着。どう?昨晩は眠れた?朝ごはんは食べた? 「眠れなかった…」
なんとか宥めすかしているまもなく、担当介護士がセンター内を案内する時間になりました。センター内はともかく広く清潔でした。とりわけ理学療法室、作業療法室の広さと設備の素晴らしさとスタッフの優秀さには感動さえ覚えました。理学療法の手順、作業療法の手順、レクレーションなどを身近に見学します。入院翌日から早速、担当の理学療法士によりリハビリ開始です。なんと…私の前では絶対出来なかった(というより拒否をしていた)行動が少しずつでも出来るようになったのです。椅子から立つ、車椅子に座る、車椅子を動かす(右手右足が動かないのに)、平行棒を使って歩く(勿論ゆっくり)、・・・午後には作業療法です。手指を使う様々な器具、陶芸、絵画、洋裁、台所仕事、入浴、パソコン、車の運転動作…20~30人の障害者が一生懸命取り組んでいます。設備だけではありません。全てのスタッフがプロフェッショナルでした。聞けば日本全国で第七位にランクされる優秀なリハビリ施設なのだそうです。時折、リハビリ風景などをご紹介したいと思いますが、正直言ってこれほど素晴らしいリハビリ施設が伊豆にあるとは思いもしませんでした。横浜に住む娘も、神奈川県でもこれほどの施設は無いと感動していました。
お知り合いに、大手術で体力が無くなった人、脳梗塞や血管障害や心臓障害で身体に障害を負った人、交通事故で不自由になった人などがいらっしゃったら是非教えてあげてください。見学もさせてくれます。
長くなってすみません。