われわれ一行は、日本からの出張者が二人(私を含む)、韓国在住19年のKさん、昨日もいっしょだった李さん、そして数日前、東京の韓国バーで隣同士になりほとんど同じ日程に韓国に行くことがわかって意気投合したIさんの5人。
お互い顔見知りの人もいれば、初顔合わせの人もいる。すべて私とのつながりで集った人々です。Iさんと私が出会ったバーというのは、李さんがソウルを案内してくれた日本人アガシが働いているバーでもあるので、ここにも細いつながりが。
地下鉄ウルチロ4街駅で待ち合わせ、Kさんの先導で向かったのはクァンジャンシジャン(広蔵市場)。東大門市場の隣、ユッケ横町のある在来市場です。こんなご時世によりによってユッケを食べに行く日本人というのも珍しいでしょうが、私の場合、むしろこんなことがあると逆にファイトが湧く性癖なのです。
大通りから薄暗い路地に入っていくと衣服の市場のところどころに屋台があり、チョクパルなどをおかずに焼酎を傾けているアジョシがたむろしています。昔なつかしい韓国の市場の雰囲気です。
「あそこです」
Kさんが指さす方向をみると、市場のなかでひときわ賑わっている一画があります。ユッケコルモク(ユッケ横町)です。
ユッケ、ユッケ、ユッケ…。どの店をみてもユッケ屋さん。
出張者の一人は、家を出るとき、
「韓国に行って、ユッケだけは食べちゃだめよ」
と奥さんから固くいましめられてきたとのこと。
出「ユッケしかないの?」
と不安げに尋ねます。
犬「すいません。焼き肉もありますか」
客引きアジョシ「うちは、ユッケとセンガン(生肝=レバ刺し)、チョニョプ(千葉=センマイ)の専門だよ」
犬「ユッケの食べられない人もいるんだけど」
ア「残念だね。ほかを探してみて」
10軒ぐらい固まっている店の中には、完全な専門店もあれば、ほかのメニューがある店もあります。
犬「ここは焼き肉もあるみたい」
アジュンマ「オソオセヨ! 何人?」
なんか見たことのあるようなアジュンマが出てきました。メニューを見ると「カルメギサル」(豚の焼き肉の一種)もある。
「ここにしようか」
すでにお客さんで一杯の店内で、唯一空いていたテーブルは4人席。そこへ椅子を持ち込んで無理やり5人座ります。ユッケは大皿に山盛り。日本の焼き肉屋で出るユッケの5倍ぐらいはありそうです。それが12000ウォン(千円ぐらい)。同じ価格でレバ刺しとセンマイの盛り合わせもありました。
犬「レバ刺しも食べたいけど、多いなあ。半分ぐらいならいいけど」
するとさっそくKさんがアジュンマに交渉しくれました。こういうときに融通が聞くのが韓国です。ユッケは決して食べまいと心に決めている同僚のためにカルメギも頼みました。
李「コプテギはどうですか?」
コプテギとは豚の皮のことです。
犬「コプテギか。あれは固すぎて日本人には無理だよ」
李「そんなことないですよ。焼きすぎたんじゃないですか」
犬「そう? 焼き方が悪かったのか。そういえばKさんが焼いたよね」
K「違いますよ。あのときはたしかSさんでした」
と、ここにはいないSさんに罪をなすりつけます。ここにいない人のせいにするのが平和です。
さて、ユッケは生肉の細切りにごま油がからめてあり、かすかにヤンニョムの味がする。そこへナシの甘さが加わって肉の味を引き立てます。いちばん上に乗っている黄身は鶏卵かうずらの卵か。カルメギも豚肉とは思えない食感でとてもおいしい。コプテギは李さんが主張していたとおり焼きすぎなければちっとも固くなく、美味でした。
5人とも酒飲みなので、焼酎は快調なペースで空いていきます。
出「やっぱりどこかで見たような気がするな、あのアジュンマ、テレビに出てたんじゃないかな」
犬「えっ? 私もそんな気がしたんですよ」
出「そうだ、テレビで取材受けてたおばさんだ」
計算(御勘定)のときにアジュンマに聞いてみました。
犬「おばさん、日本のテレビに出てたでしょう?」
「ああ、フジテレビね。三日ぐらい前に取材に来たよ」
やはりそうでした。前日朝の羽田空港でやっていた番組に出ていた、あのアジュンマだったのです。結局チャミスルを7本空けて、料理も含めて総額7万ちょっと。激安です。
そのあとは歩いていけるところということで、前にも行ったことのあるウズベキスタン料理店に行きました。番号つきビールを全種類注文し、ウォッカの大瓶、つまみは羊料理に羊入りマンドゥー(水餃子)。飲み残したウォッカを持ち出して、次に向かったのはノレバン。
その界隈はチョット怪しくて、ノレバンのつづりの一部が違っているノレバムとかノレバとかノレジャンとかいう看板があったような気がしたのは酔いのせいか。ノレバンでは一曲歌ったような気がしましたがほとんど記憶がない。あとで同僚に聞くと、後半はずっと寝ていたとのことでした。
ただ起こされたあとは息を吹き返し、4次へ。前日にいったバーです。今度はジョニ黒の大瓶を注文。一時過ぎまで飲んでも、さすがに飲みきれませんでした。
翌日は、二日酔いでつらかったけれどもお腹は大丈夫。やはり韓国のユッケは安全だったのでした。
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あの一角が再開発されないことを祈ります。