「私財を投げ売ってでも責任をとって、社会に還元すべきではないか」
東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請したタカタは、その翌日となる6月27日、定時株主総会を都内で開催した。
ある株主が総会の場で冒頭の厳しい質問を投げかけると、会場では拍手が起きた。だが、高田重久会長兼社長は「議案にかかわる質問をしてください」と対応するにとどまった。
出席した株主は190人で、総会の所要時間は2時間57分の長丁場だった。決議事項である「取締役6人の再任」は高田会長も含めて可決された。
高田会長の責任を問う声が続出
タカタは、創業家が発行済み株式の6割を保有するオーナー企業だ。今回の再建案を巡っても、大株主であり創業家出身でもある人間が経営をつかさどっていたことで、問題の解決が後手に回ったと見る株主は多い。
会場では株主から、「創業家が6割という株式の保有比率はおかしいのではないか」という質問も出た。それに対し、高田会長は「比率を減らす方針もあったが、結果、そうはならなかった」と説明した。
総会を終え会場から出てきた株主を取材すると、手厳しい意見や自分の投資に対する反省など、さまざまな”本音”が出てきた。
53歳の男性株主は、トヨタ自動車が起こした2009年秋以降の一連の品質問題において、同社の豊田章男社長自らが米国議会の公聴会に出席し、前面に立ったことを引き合いに出した。タカタも公聴会に呼ばれたが、出席したのは品質担当役員であり、「高田会長が表に立って対処するべきだった」と批判した。
株主総会での一連の説明について75歳の男性は、「謝罪の言葉は何度も聞いたが、上っ面だけの言い方だった」と厳しかった。
再建の手法を巡っては、スポンサーや自動車メーカー各社との協議により再建を進める私的整理か、裁判所の管轄で再建を目指す法的整理かで協議が続いてきた。
今回民事再生手続きを開始したことで、タカタは7月27日に上場廃止となる。株式の取り扱いは再生計画案の中で正式に定められるが、いずれは無価値化する方向だ。
ただ、前日の報道で内容は周知されていたため、会場で怒号が飛び交うことはなかった。「東芝みたいに未来があれば議論が白熱したかもしれないが、終始あきらめムードだった」(40代男性)。
2014年2月末時点で終値3000円を上回っていたタカタ株は、再建案の策定が長引き、2015年11月には終値が1000円を切った。民事再生法適用の報道が相次いだ今月16日以降に急落し、27日は110円のストップ安で引けた。
株が”紙くず”となるリスクをどう見ていたか
タカタの株主は株式が無価値化するリスクをどうとらえていたのか。
京都からやってきたという57歳の男性は、「私的整理で収束するだろうと高をくくっていたところがある。自分の見識が及ばず、残念だ。今日は投資家としてけじめをつける日」と語った。
資産の1割に当たる3ケタ万円が損失となる見込みの36歳男性は、「報道でいくら法的整理の可能性が取りざたされても、投資家にとっては”私的整理を望む”という会社の開示情報が絶対だった。最後の最後で民事再生だといわれても、そうなってからでは株は売れない。”私的整理を目指すが、現実は厳しい”というニュアンスがあれば、マシだったかもしれない」と話した。
「株主だから損をするのは承知の上だが、タカタが説明責任を果たしてきたとは思えない」(30歳男性)との批判も相次いだ。
76歳の男性は「少ない可能性に賭けていたが、残念。得られたこととすれば、自分の考えが甘かったことに気づけたこと。損失額は4ケタ万円。家一軒が飛んでしまったので、これを教訓にする以外、仕方がない」と話した。
タカタ製品を評価する株主も
経営危機が明るみになってもなお、株式を保有してきたのは、タカタがエアバッグの世界シェア2割を誇るグローバル企業だということがある。シートベルトやエアバッグといった安全性にかかわる製品を評価する声は依然多い。「死者が出たことばかりが注目されるが、どれだけの命を救ってきたかわからない。僕はタカタに拍手したい」(前出の36歳男性)との声もある。
前出の京都在住・57歳男性は「タカタは滋賀県の織物工場から創業した老舗企業。“売り手良し・買い手良し・世間良し”の3つがそろった近江商人としての姿勢に共感して投資していた。今となっては“世間良し”の部分で、社会的要請に応えられなかったのだと感じている」と残念がった。
株の価値を大きく毀損させたタカタ。企業姿勢を評価していた株主の期待までも裏切る結果となってしまった。