先日、本屋さんで可愛いダックスフントのイラストが描かれた本を見つけて、思わず手に取ってみた。それは辻仁成によるエッセイで、今年2月にマガジンハウスから出版された『犬と生きる』という本だった。辻仁成については僕もあまり詳しく無いし、過去の小説なども読んだことが無いのだが、知っていることと言えば、昨年12月に惜しくも亡くなってしまった中山美穂の元夫であることと、現在フランスに住んでいる作家ことくらいだった。
この本のタイトルとイラストのワンちゃんを見て興味を持って思わず購入して読んでみたが、フランスらしいトリコロールのダックスの表紙イラストは、辻仁成が描いたものらしい。なかなかシンプルでオシャレである。
エッセイの文体としてはとてもカジュアルで読みやすい。辻仁成は息子と一緒にパリ市内に住んでいるところからエッセイは始まるが、息子も大学生となって家を出て独り暮らしとなった模様。そこで、この寂しくなるタイミングで、前から犬を飼いたいと思っていた辻仁成が、ご縁により可愛いダックスを飼うことになる。息子も出て行ったあとは、まさに辻仁成とワンちゃんの新たな2人暮らしが始まるのであった。
飼うことになったダックスを、辻仁成を“三四郎”と名付ける。フランス在住の三四郎である。ワンちゃんを新たに家族として迎え入れた喜びと新たな発見の日々、と同時にワンちゃんを飼うことの難しさと責任なども感じながら、三四郎との充実したフランスでの日々をエッセイとして綴っていく。ワンちゃんを飼ったことがある人なら誰もが思う、たくさんの“ワンちゃんあるある“が散りばめられている。僕も自分のワンちゃんとの経験を思い出しながら、微笑ましく共感しながら読むことが出来た。そしてフランスならではなのが、パリ市民のカフェ文化だ。パリのカフェでも三四郎と一緒に有意義な時間を過ごす様子なども紹介されている。
そして息子が家を出ていったことにより、辻仁成も家賃が高いパリ市内から、郊外のノルマンディに引っ越すことを決めるが、自然も豊な田舎町で三四郎との新たな生活が始まっていく。そして車に乗って、欧州域内の旅行として、三四郎と共にイタリアに出かけたりする。ワンちゃんとの旅はとても楽しいものである。
ちょっと面白いのが、エッセイの中で時折現れる“三四郎”目線の語りだ。三四郎の気持ちになりきった作者が、三四郎の目から見た辻仁成との生活や、天敵となる猫のこと、他のワンちゃんとの交流などの話が語られており、なかなか面白かった。自分でも時々うちの愛犬きなこは今何を考えてるんだろう?と思うことがあるが、こんな風に考えてるかもしれないと思うと、まあ勝手な妄想しかないものの、益々愛犬への愛情が深まるような気がする。
ワンちゃんのエッセイはどうしても興味があり、これまでも色々なワンちゃんの絵本やエッセイを手に取ってきたが、自分ときなこの関係、或いは昔飼っていたマックの姿がいつもオーバーラップしてしまい、毎回ついつい感情移入してしまう。今回のエッセイは、ワンちゃんと過ごすパリでの生活という意味ではとても新鮮であった。また今回初めて辻仁成の文章を読んでみたが、割と読みやすく、楽しむことが出来たというのも新たな発見であった