blue deco design lab

美し過ぎる!ビル・エヴァンスの名盤、『Waltz for Debby』

週末、またレコード店タチバナさんに寄ってみたが、今回はジャズピアニストのビル・エヴァンスによる名盤、『Waltz for Debby』を発見し、思わず購入してしまった。これも言わずと知れたジャズの名盤で、多くの人が歴代ジャズアルバムのNo.1に挙げている人が多い。しかし、僕はこのアルバムを聴いたことが無かったので、今更ながら今回レコードで聴くことにしたのだ。ジャケットも女性の横顔のシルエットで、何ともシンプルでオシャレだが、このアルバムがジャズを代表するアイコニックなアルバムとなったことにも一役買っている。

『Waltz for Debby』は、1962年にニューヨークのVillage Vanguardでビル・エヴァンスが行ったライブを収録したライブアルバムである。Village Vanguardは、Blue Noteなどと並ぶニューヨークで歴史のある名門ジャズクラブ。決して日本で展開している雑貨屋の名前ではない(笑)。僕もニューヨークに住んでいた頃、何度かVillage Vanguardに足を運んだのが懐かしい。実は僕のハイスクールの友人がドラムをやっていて、彼が一度ここで演奏したのを聴きに行ったこともあったので、思い出深いジャズクラブである。Blue Noteほど格式張っていないので、カジュアルに入れる雰囲気なのも結構好きだった。

ビル・エヴァンスに関して少しだけ触れておくと、彼は先日紹介したマイルス・デーヴィスの名盤『Kind of Blue』にも参加しており、マイルスも彼の才能を頼りにしていたピアニスト。しかし彼が白人であった為、当時黒人が主流であったジャズ業界からはやや敬遠されるなどの時代背景があったことや、彼がドラッグにハマっていた為、マイルスにも追放されてしまうなど不遇の時期もあった。

当時のジャズミュージシャンは、殆ど全員と言ってもいいほど、みんな麻薬常習者になっていた。程度の問題はあれ、マイルスも若い頃ドラッグの常習性があったものの、何度か克服した経緯がある。ジョン・コルトレーンも同様にドラッグを常用して克服したが、結局1967年に40歳という若さで、肝臓癌で亡くなってしまった。天才ジャズプレイヤーはみな基本短命であった。ビルはマイルスと違い、不幸にも晩年までドラッグから抜け出すことが出来なかったらしい。結果、1980年に肝硬変で51歳で亡くなった。長年の酒とドラッグによるものであった。また妻や兄が自殺するという不幸な出来事もあり、彼も晩年は精神的にかなり悩んでいたらしい。ジャズとドラッグはどうしてもセットで語られることが多いのは残念だが、ジャズによって精神的な開放を求めたことで、ドラッグもそのツールとして使ってしまうことが多かったのだと思う。波乱万丈の人生であった。

前置きがかなり長くなったが、名盤『Waltz for Debby』に話を戻そう。

演奏メンバーとしてビル・エヴァンスがピアノ、スコット・ラファロがベース、ポール・モティアンがドラムというシンプルなトリオ編成。サックスもトランペットも無いので、とても静かで、ひたすら美しいジャズだ。ビル・エヴァンスの美しいピアノの旋律、正確なリズムを刻み続けるポールのドラム、そして印象的に太く心の鼓動に響くスコットのベース。実はベーシストのスコット・ラファロはこの収録の2週間後に交通事故で亡くなってしまったらしく、まさに遺作となってしまったという意味でも貴重なレコーディングだ。

ライブ演奏を収録しているので、客席のざわめきや拍手などもはっきりと聞こえるのがまたライブ感満載で味わい深い。それでいて、音楽自体は実にハイクオリティなサウンド。全体的にとても上品で甘いジャズアルバムに仕上がっている。収録曲は下記6曲。

  • My Foolish Heart
  • Waltz for Debby
  • Detour Ahead
  • My Romance
  • Some Other Time
  • Milestones

どの曲も素晴らしく美しいのだが、やっぱりアルバムのタイトルにもなっている『Waltz for Debby』が何とも美しい。当時ビル・エヴァンスが2歳であった姪のDebbyに捧げられた曲だが、愛おしい雰囲気に包まれたピアノの旋律が心に浸み渡る。この曲はCMなどでも使われたことがあるので、聴いたことがあるメロディではないかと思うが、ただただ、ひたすらピアノが美しい。そして中盤の畳みかけるようなベースもしっかり主張しているが、最後はまたビルの美しいピアノのメロディで回収していく。このピアノとドラムやベースの“掛け合い”が見事である。

4曲目の『My Romance』も実に美しい曲だ。また6曲目の『Milestones』はマイルス・デイヴィスの代表曲のカバー。トランペットではなく、ピアノで聴かせるのもまた雰囲気が違って何とも味わい深い。

このアルバムを初めて聴いてみて、ビル・エヴァンスの素晴らしさ、そして改めてジャズピアノの素晴らしさに触れることが出来たように思う。思い出深いVillage Vanguardでのライブ盤という意味でも秀逸なレコーディングである。暗くムーディーなジャズバーで、お酒を片手にじっくり聴きたくなるような演奏だが、その意味でも、夜に一人、自宅のレコードプレイヤーで聴くには最高の1枚ではないだろうか。またマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンとも違ったジャズの魅力に浸れるアルバムで、名盤と呼ばれる理由も何となく理解出来たような気がする。

ビル・エヴァンスはその死後も多くの音源が発掘されており、新しいレコードなども発売されているのは、ジャズファンにとっては嬉しい限りだ。マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンと合わせて、これから少しずつビル・エヴァンスのアルバムも味わって行きたい。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「音楽」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事