先月のこと、夫が「京都マラソン」に出ることになり、その応援という“名目”で京都へ。
というのも会社員時代から付き合いのある仕事のクライアントからのタレコミで
「コケ好きならぜひ行った方がいい!」と猛プッシュされた場所があり、
今回の京都行きはそちらを訪ねることが“本命”なのだった。
場所は祇園。そこには日が暮れてから訪ねるのがよいという。
そこで祇園にほど近い八坂神社のそばに宿をとり、まずは宿の夕食を食べて腹ごしらえ。
お腹いっぱいになって少しお腹が落ち着いてから出かけようと、しばらくぼーっとしていたら、
女中さんが夕食の片付けついでにささっと布団を敷いてくれる。
(あぁ、普段の家事から解放されて、人に布団まで敷いてもらって、なんとありがたいことよ)
気持ちもすっかりくつろいで、思わず畳に足を投げ出した。
そこそこ疲れていたのだろうか。
目を開けると私はしっかり布団にくるまっており、
はたと気づいてスマホの時計を見ると時刻は午前1時。
(・・・・い!? い、いちじ!!!)
日が暮れたらどころの騒ぎじゃない、とっくに夜も更けているではないか!
びっくりしてビーチフラッグの選手張りに飛び起き、
家族が熟睡しているのを横目でちらっと確認し、
大急ぎで身だしなみを整えて部屋を出る。
なんせ1時なので館内は水を打ったように静まりかえっている。ロビーにももちろん誰もいない。
しかし祇園のそばという土地柄もあってか、玄関は開いたままになっていた。
(ホッ!)
八坂神社を通り過ぎ、事前に仕入れていた住所を見ながら夜の祇園をずんずん歩く。
ここからそう遠い場所ではないはず。歩いてせいぜい5~10分圏内だろう。
がしかし、スマホで地図を見るともうすぐ近くのはずなのだが、なかなかたどり着かない。
15分ほどぐるぐるといくつかの小路を行きつ戻りつしていたが、慣れない場所の夜道も怖く、もうギブアップ。
電話をかけて、コケ好きを虜にするというその場所の住人の方から迎えを出してもらったのだった。
さて、ここまで読んで今回のタイトルを記憶されている方は、もうそこがどこなのか察しがついていることだろう。
そう、階段を上ってその店の扉を開けるとそこには、聞きしに勝るコケ好き(かつ、お酒好きならなおさら!)にはたまらない魅惑の世界が広がっていた。
▲一見さんでは絶対見つけられないであろう路地を入ると、やっとお店の看板が!
軒先には杉玉ならぬシダの一種ヒカゲノカズラでできた「歯朶玉」が吊るされていた
▲さぁ、階段を上ります。上がった先には魅惑の世界の扉が・・・
その店の名は「Bar Mousse」。
Mousse(ムース)はフランス語で「コケ」のこと。
扉を開けると、すぐ足もとに、お店のロゴが描かれたモザイクタイルがお出迎え。
一つのマークのように見えて、じつは、m、o、u、s、s、eの文字がひそんでいるのがおわかりだろうか。
▲一枚板のバーカウンターが印象的な店内。しかし、よく見るとコケ好きが食いつかずにはいられないあれやこれやが・・・
▲その1:壁面のコケテラリウム。木箱の中には本物のコケが生育中。カウンター越しに見るとまるで絵画のよう
その2:コケテラリウムの下にもご注目。お酒のボトルと引けを取らない存在感で店主が集められたコケにまつわる書物が所狭しと並ぶ
(ちなみに店主はコケ好きであり寺社仏閣好きでもあるそう)
▲その3:カウンターのコーナーには迫力のあるフラワーアレンジメント
じつは今回、私がこの日に訪問するということでコケをイメージしたアレンジにしてくださったそう。なんたるこまやかなお心遣いだろうか(涙)
丸っこいのがいたり、つんつん伸びているのがいたり、くねくね乾燥状態のがいたりと、
コケはいっさい使われていないのに、コケ好きが見るとコケに見えてしまうという不思議!
▲その4:コケテラリウム式ランプ
落ち着いた隠れ家のような店内の雰囲気に一役買っていたのはこちらのランプたち。
なかにはもちろん本物の生きたコケと木が植わっている。コケを透過した光は薄緑色で優しく辺りを照らしていた。
▲その5:飾り棚の壁にかけられた絞り染めの苔額
▲コケの群落を絞り染めで表現したという額縁。和の都・京都という土地柄ならではだなぁと感じさせる。
店主のお知り合いが開店祝いに手作りしてくださったという
▲カクテルを作っている最中の店主Mさん。バーテンダー一筋で東京や京都で修業を重ねられ、2014年に京都・祇園にBar Mousseをオープン。
(※ちなみに先の写真の男性は、アルバイトの方です)
女性、歳が近い(私よりもう少しお若いです!)、そしてコケ好きということで、
これだけ条件が合えば意気投合しないわけがないという私たち。
スタートがそもそも深夜1時過ぎと遅かったこともあり(ひとえに私のせいなのですが…)、
店内のコケグッズを紹介していただいたり、お互いのコケ歴を話しているうちに、
気づけば腕時計の針は閉店時間15分前の2時45分をさしていた。あぁそろそろ帰らねば。
しかし! そこにタイミングよく常連のお客さんがふらりと入ってこられたため、ゆるりと時間延長。
(私はひそかにテーブルの下で「常連さん、ナイスタイミング!」と小さくガッツポーズをした)
常連さんが帰られた後は特別にカウンターの内側に入れてもらい、テラリウムのコケをルーペで覗き見たり、
コケ栽培の楽しみやご苦労話などもうかがって、結局、お店を出たのは4時半ごろだっただろうか。
Mさんとアルバイトの方のにこやかな笑顔に見送られ、日が昇る前に店をあとにしたのだった。
(しかし今じっくり思い返してみれば、もしかしたらアルバイトの方の笑顔は
「コケの話だけでこんなに何時間も盛り上がれるとは・・・」という呆れ笑いだったのかも)
それにしても、これまでコケの豊富な山林やお寺の苔庭を目当に京都を訪れたことは幾度もあったが、
このようなコケの魅力がひしひしと伝わってくるセンスのよいバーがあるなんて知らなかった。
今後はこちらBar Mousseも、京都に来たら立ち寄るべき重要コケスポットとして新たに記憶しておかねばなるまい。
日ごろから「コケが好き」ということをコケ好きに限らず周囲にアピールし続けていると、
思わぬところから良い情報をいただけるものだなぁと実感したのだった。
なおBar Mousseにはもう一か所、とんでもないコケむす空間がある。
今回はすでに長い文章になってしまったので、その話についてはまた次回でふれたいと思う。
:::Bar Mousse:::
所在地 〒605-0084 京都府 京都市東山区清本町375花見末吉西入 末吉一番路地東側二階
営業時間 月~金:19:00~3:00 土・日:17:00~3:00
定休日 木曜日
電話 075-525-6688
※おそらく祇園にとても詳しい方以外は辿り着けないと思うので、
近くまで来たらお店に電話をされることをおすすめします。
お店の方が、迎えに来てくださいます。