すでに作家としての名声を手にしていたトルーマン・カポーティ(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、
ある日カンザス州ホルカムという田舎町で起きた一家惨殺事件に興味を持つ。
事件の詳しい内容も犯人もまだ見当もつかない事件だったのだが、カポーティは早速取材助手で幼馴染のネル・ハーパー・リー(キャサリン・キーナー)とともに現地に向かう。
取材を続けるうち犯人が逮捕され、カポーティは犯人に強く興味を引かれる。
カポーティは今までにない新しい作品を書くために犯人の一人ペリー・スミス(クリフトン・コリンズ・Jr)に深く関っていく。
その深い丹念な取材で書き上げたのが「冷血」という作品だ。
ノンフィクション・ノベルという新しいジャンルを開拓しただけでなく、死刑制度の是非や取材者のモラルなど様々な物議を醸しだしたそうだ。
その取材から「冷血」を書き上げるまでの過程がこの「カポーティ」という映画だ。
映画を観る前に「冷血」を読んでみた。
ノンフィクション・ノベルというが、フィクションのように感じる。
映画の中ではほとんど語られていないが、本の前半は惨殺されたクラッター家の人々、そしてクラッター家に関る人々が細かく生き生きと描かれていく。
映画の中で、カポーティが殺されたクラッター家の娘ナンシーの日記を読むシーンがあるのだが、
たぶんこの日記を読んで作家としての想像力を膨らませて書いたのだろう。
クラッター家の誰よりもナンシーの描写が細やかだ。
犯人が逮捕されるのは本の中盤も過ぎた頃だ。
映画の中では、この「冷血」を書き上げるまでのカポーティの苦悩が描かれる。
犯人のペリー・スミスと面会を重ねるうち、二人の間には友情ともいえるものが生まれてくる。
ペリーの持つ不幸な生い立ち。強いコンプレックスとナルシシズム。
それはまさにカポーティが持っているものと同じ種類のものだったのだろう。
自分と似たものを見るとき湧き上がる愛しさと嫌悪という相反する感情。
その同類である友が死刑にならなければ、長い年月をかけて書いてきた本の結末を書くことが出来ないのだ。
カポーティの中でペリーを救いたい気持ちと死刑を待ち望む気持ちが複雑に同居する。
「愛する人を自分の目的のために利用できるものなのか」と映画の中でカポーティは問われる。
「出来ない」とカポーティは言う。
でも作家としての彼は、書くためならどんなことでも利用しようとしているのが観ているこちらにはよくわかる。
そうして書かれた「冷血」は、ペリー・スミスとの関係で苦悩したことなど微塵も感じさせないほど客観的な目で書かれている。
「冷血」というのはこの犯人たちのことではなく、カポーティ自身のことなのではないのだろうか。
「冷血」の後、カポーティは作品をほとんど書かずに亡くなったそうだ。
この作品で燃え尽きてしまったのだろうか。
人を愛しながらも利用しつくす。
人間の心の中には複雑で恐ろしい魔物が潜んでいるようだ。
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この作品、すごく観る人を選ぶと思うんですよ。だからもしかしたら退屈に感じる人もいるかもしれない。
でも、映画の醍醐味を存分に味わえるなかなか作品だったと思います。
天才と呼ばれた作家の、究極の葛藤が静かに淡々とした雰囲気の中でじっくり描かれていましたよね。特別に派手な演出なんかなかったのに・・・なんだか緊迫感があって、不気味な印象もありました。
ホフマンの演技は申し分ありません・・・。
こちらから伺おうと思っていました。
TBありがとうございます。
さてさて、シャンテシネで観たのですが「キンキーブーツ」と「カポーティ」で大混雑でした。
でもね、隣の席の人、ほとんど寝てました
確かに静かに淡々と進むので気持ちは分からなくはないのですが、ホフマンの演技を観ないのはもったいないことだと思ってしまいました。
最近「太陽」「カポーティ」と静かに心理を描く映画ばかり観ていたせいか、すごくイケメンが観たいです。
すごくわがままですか?私(笑)
単に、事件をルポしていった過程でなく、そこに、自分の作品に対する、希望的な経緯を期待してしまうというような、複雑な心理表現があったようですね・・・。
深いな~~~。
冷血は、まるで純文学を読んでいるような錯覚に陥るときがあり、時々、ああ、ノンフィクションなのかと、はっとさせられました。
確かに、ナンシーの描写は、生き生きとしていましたよね。
最後に、ナンシーの友達の成長した姿を描くところも、印象的でした。
読んでいて、死刑制度に対する是非も、改めて考えさせられました。
特に、今、日本でも、普通では考えられないような犯罪が多く、クラッター事件に匹敵するようなことが起きていて、ますます、作品の重さ、普遍性を感じます。
ああ、見たいのに・・・
しかしぃ、確かに、キアヌ君とかにも会いに行きたいし、チョコさん、決してわがままでないですよ
やっぱり「冷血」読んでから観てよかったです。
読んだからこそカポーティの持っていた作家の業のようなものが良くわかりました。
ぼふふわさんはデップにペリー・スミスの役を演じて欲しいと書かれてたけど、う~む。。。
デップだと美しすぎませんか?
ペリーはコンプレックスと同じぐらいのナルシシズムと持った人物として描かれてたけど、デップだと繊細すぎるような気がします。
悪役のデップも素敵だけどね・・絞首刑になるデップは観たくないのよ、たとえ役の上でもね。
カポーティ。
四国では上映の予定がないのかな?
関東でも徐々に拡大していくみたいで、今のところ2館ぐらいでしか上映されてないみたいですよ。
もし評判がよければ四国で上映もあるかもですね。
駄目だったらDVDになったらぜひ~。
キアヌはオーラを感じませんでした。
変わった歯医者さんの役だったので、オーラを消してたのかな?(笑)
ホフマン自身が自ら制作しただけあって・・・。
かなり
カポーティの癖や喋り方がそっくりらしいです。
ホフマン、凄い役者さん
またお邪魔します
あの甲高い声と個性的な話し方はすごく印象に残りました。
かなり研究したのでしょうね。
実在した人物を演じるのは、自分でキャラクターを作り上げるのとは違った苦労があるのかもしれないですね。
どうぞこれからもよろしくお願いします。
ワタシは半分しか読んでないまま観てしまったのですが、チョコさんはちゃんと読破して行ったのね!
ホフマンの演技を観るだけでも十分愉しめるとは思うけれど読んでた方がより愉しめる作品でしたね。
う~~ん、重かったですね。
ペリー→カポーティ→自分に、何か苦悩が伝染したのでしょうか・・・。
面白い!という映画ではありませんが、ある意味成功しているのでしょうね。
やはり、小説の偉大さの蔭にある映画か、とも思ったり・・・。
まぁ、それを、描きたかったのだとは思うし。
と、結局、長々とレビューを書いてしまいました
レイ・チャールズの映画もそうでしたが、どうも、そっくりさん伝記映画が、最近のアカデミー賞は有力のようですね。
確かに、事実というのは、それだけで感動する部分もあるけど、映画には、フィクションであるからこその醍醐味ありますよね~。(と、素直じゃない私)
ペリーがデップだったら、やはり美しすぎて、全く違った感慨を持ったかもですねぇ
私も読み始めは頭が混乱しましたよ。
なにしろ名前が覚えられない
でもあれだけの長編、読み進むうちになんとか頭に入りました。
挫折しないで読んで良かったです。
半分だけでも読んでから見たほうが絶対良かったと思うよ。
あの小説から作家のキャラはどうしても想像できないから、そのギャップが面白かったです。
をを~
どこまで遠征してきたのでしょうか!?
ご苦労様でした~。
たしかに「面白い」という種類の映画ではないですよね。
レイ・チャールズの方よりは興味深かったかな、私としては。
単なる伝記じゃなくて、「ある小説を書き上げることについての苦悩」に絞ってあったのが良かったと思います。
デップはちょっと線が細すぎる様な気がします。
ペリーは「ちょっと野卑」で「骨太」なところが必要な役じゃないかと思ったりしてました。